【R#339】「あるがまま」が現れるのを待つ〜どうしたらわかるの?〜AT-1(12)〜

はじめに

東京・渋谷でロルフィング・セッションと脳科学から栄養・睡眠・マインドの脳活(脳科学活用)講座を提供している大塚英文です。

先々週(2025年4月8日〜)から、東京の市ヶ谷で日本ロルフィング協会主催のアドバンスト(上級)・トレーニング(AT)に参加している(講師は、Ray McCallと田畑 浩良さんの2名)。前半の14日間の最終日(4月25日)を終えた。

ATの醍醐味は、講師による外部クライアント(アドバンスト3回と5回セッション)のデモを見ることができることだ。

この前半14日間で学んだ大切なテーマ、それは

「あるがままが現れるのを待つこと」

だった。

今回は、ATで学んだ「観察力(SeeingとPerceiving)」のポイントを、ロルフィングとの関係で整理してお届けてみたい。

「あるがまま」現れるのを待つこと

振り返ってみると、ATの前半のトレーニングで、Rayが最も強調していたのは、

「The work is not about imposing an idea, but letting the structure speak to us.」

(このワークは、自分の考えを押し付けることではなく、構造が私たちに語りかけるのを許すことなのです。)

だった。

意味は、
プラクティショナー(ロルファー)は「何かを起こそう」とするのではなく、クライアントの身体が自ら変化を始めるを整えることが大切だと。

そのためには、ニュートラルな状態で、クライアントの変化が「あるがまま」に受け入れられる状態(つまり開かれていること)が求められることになる。ATで、さまざまなニュートラルな状態になることの意識の練習を行った(「ニュートラルに身を委ね、変化を待つこと〜YIELDワークと心構え」参照)

ニュートラルと並んで重要となるのは、観察力だ。

ATで求められる観察力とは?

Rayはさらに、熟練したアドバンスト・ワークに必要な「観察力」として、

  • より精度の高い観察力(Seeing)
  • 識別力(discrimination)
  • セッションの始まり・中間・終わりを見極める力

を挙げている。

Rayの言葉を紹介すると、

“So to do truly skillful advanced work, beyond the ten series, you have to be able to see better, or have better, greater discrimination with your seeing. And you have to be able to determine when you’re done”

「つまり、10回シリーズを超えた、本当に熟練したアドバンスのワークを行うためには、より優れた“見る力”――つまり、“観察する力の精度”と“識別力”を高める必要があります。そして、いつ“終わり”なのかを見極める力も求められます。」

“When you’re doing a non-formulaic series, you have to increase your ability to see, to access, to strategize, and to see what is the beginning, middle, and end for a piece of work for a person at that point in time”

「手順に基づかないセッションを提供する際には、観察力、アクセスする力、戦略を立てる力をさらに高める必要がある。その人の「今この時点」におけるワークにおいて、「始まり・中間・終わり」がどこにあるのか?を含めて見極める必要もある。」

「観察力」を身につけることで、最終的に、
「「あるがまま」が現れるのを待つ(許す)こと(Letting ‘what is’ show itself)」
を観察できるようになる。

そして、「観察する」という言葉にすら注意を促している。

“Seeing with our own eyes” can be misleading.

(自分の目で見るという表現は、かえって誤解を招くことがある。)

単なる「目で見る」ではない、全身で感じ取る観察が求められているのだ。

Jeff Maitlandの「観察力」の考え方

Jeff Maitlandは、観察力(Seeing) を鍛えるために、3段階を提唱している。

① 志向性をシフトさせる(Shift your intentionality or orientation)

  • 自分中心の意図を手放し、「対象(クライアント)」にオープンな状態に変える。

② 能動的に見ること・感覚器官を総動員する(Active Seeing、Engage your somatic sensorium)

  • 視覚だけでなく、触覚、聴覚、内受容感覚などを総動員して、身体全体で感じ取る。
  • これが、いわゆる「feeling-nature(存在の感受性)」だ。

③ 身体の語りかけを待つ(Letting what is show itself)

クライアントの身体が自然に見せる変化を待つ・受け取る。させる)


🌟 志向性をシフトさせる

Step 1の段階は、外から見るという「傍観者」的な立場をやめて、相手(クライアント)の存在そのものに対してオープンになること。相手(対象)を客観的に眺めるのではなく、「対象と共に在る」という、自分の知覚空間を広げていくという感覚だ。

Jeffは、

“You must shift your orientation to allowing what is to show itself. You simply get out of the way by dropping your self and simultaneously expanding your perceptual field to allow the opening of a loving space.”​

「“あるがまま”が現れるのを許すために、あなたは自らの意図性を転換しなければなりません。自己を手放し、同時に知覚のフィールドを広げ、愛に満ちた空間を開くのです。」

と表現しており、仏教の無心・初心(自己を手放して世界に開く)の考え方でもあると例えている。

ロルフィングのセッションで生かす場合には、自分の意図・判断を手放し、一旦ニュートラルになること。クライアントの場が開くのを待ち、必要な変化が起きる・現れるのを許容するということになる。


🌟 能動的に見ること・感覚器官を総動員する

次に、能動的に聴く(傾聴)すること。頭で考える(分析的・言語化する)ことをやめて、純粋に身体の知覚や感受性(feeling-nature)で受け取る。結果的に、身体の細部にわたって注意を向けていくことができるようになる。

Jeffは、

“Perception involves both the process by which something comes to be seen (appearing) and the object it comes to be seen as (what appears).”
「知覚とは、あるものが“現れてくるプロセス(appearing)”と、それが“何かとして現れる対象(what appears)”の両方を含むものである。」​

と表現し、

“You don’t go looking for something—you let ‘what is’ show itself.”
「何かを探しに行くのではなく、“あるがまま”が現れるのを許すのです。」

の変化が期待できるという。仏教で考えると「観照」(ただ存在に寄り添い、分別を加えない)に例えることができる。

ロルフィングのセッションでいえば、目・手・身体の感覚全体を通して、クライアントの全身を知覚する。例えていうならば、存在とエネルギーを感じ取ることだ。


🌟 身体の語りかけを待つ

最終段階は、目を閉じ、見たもの、感じたものを心身で想像して再現するステップだ。感覚、感受性、想像力を統合していくと、身体が何か語りかけるようになる。結果として、クライアントに何が必要なのか?見えてくる。

Jeffの言葉を紹介すると、

“When you integrate your feeling-nature with the cognitive (imagination) and the sensory, your perceptual vitality and acuity will be enhanced.”

「感受性(feeling-nature)を、認識(想像力)と感覚と結び付けると、知覚の生命力と敏鋭さが高まる。」

となり、仏教では、「縁起的な共感知覚」(存在の全体性を感じ取る)と例えることができる。

ロルフィングのセッションでいえば、クライアントの何が必要なのか?構造的な部分(ロルフィングでいう、SLEEVE、CORE、LINE等)なのか?動きなのか?エネルギーなのか?心理的なのか?フレームワークを含めて理解が深まっていく。

まとめ

今回紹介したのは、「あるがまま」が現れるのを待つという考え方。それは、クライアントとの関係性そのものを変えるアプローチでもある。

自分が何かをする立場ではなく、クライアントの中にある自己組織化の力・自己調整力を信じるということであり、この視点を持ってワークに臨むこと。

今回の、Rayと田畑さんのデモでは実践しており、その変化のインパクトを拝見していると、ロルフィングをはじめとするボディワークにより、クライアントに大きな変容をもたらす可能性を秘めていると思う。

少しでもこの投稿が役立つことを願っています。

この記事を書いた人

Hidefumi Otsuka