Phase III(9)〜Case Presentation(1)〜セッション3を終えて

Phase IIIのトレーニングでクライアントと最初の3回のセッション(表層セッション)が終わった。第3週目の初日、Case Presentationという形で、各生徒が10〜15分。担当したクライアントの2人のうち1人のセッション1の施術開始前とセッション3の施術終了後の写真をクラスに提示しながらクラスの前でプレゼンテーションを行った。

そこで話題になった2つのエピソードを紹介しつつ、表層セッション及び施術の進め方について考えてみたい。

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一つ目は、受け持ったクライアントが交通事故や怪我など過去の経験を話す場合には問題がないが、話さない場合にはどうするのか?という話題だった。ロルフィングの場合には、クライアントが話さない限り、過去の経歴(トレーニングではストーリーという言葉を使った)に触れない方針でセッションを進めていくことが大事になる。

我々はカウンセラーではなく、身体と向き合うことによって相手の問題と向き合い、解決に向けて手助けすることが大事になるからだ。また余計な先入観を抱いてしまうと、ロルファーとして大切なニュートラルな状態を保つことに影響を及ぼす(この点については「スペースと心の部屋」で触れた)。

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二つ目は、3回のセッションを終えた後、クライアントの身体から反応がなかったというケースはどうか?もちろん施術する側に問題がある可能性もあるが、手順通りに従って行っていけば、多くの場合、クライアントが自分の身体への理解が不十分なため反応できていない可能性の方が多い。

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以前、Hubert GodardのTonic Functionを取り上げた(「疲れる筋肉と、疲れない筋肉〜姿勢を支えるTonic Function」「2方向性が身体を調える〜Tonic Functionと歩行・座位」参照)。如何にしてγ運動神経系を活性化して、身体内のエネルギーの効率の高いTonic Muscle(持続的に働く筋肉)を最大限生かしていくか?ロルフィングの10回シリーズはこれらを整えるためにあると言っていい(「疲れる筋肉と、疲れない筋肉〜姿勢を支えるTonic Function」参照)。

Godardは、Tonic Muscleは、下記の4つの側面によって影響を受けるという(Phase IIIにおいてJörg先生は4つの構成要素と呼び、StructureをPhysicalと呼んだ)。

  1. Structure又はPhysical(身体の姿勢や構成、重力等)
    Coordination(身体がどのようにして動くか)
    Perception(世の中をどのようにみるのか?)
    Meaning(どのように世の中に対して意味付けを行うのか?)

ロルフィングは上記のうち主にStructureに働きかけるが、Structureを通じて、身体の動かし方のCoordination、世の中に対する見方のPerception、世の中に対してどう意味付けを行うのか?のMeaningの3つの因子に影響を及ぼすといえる。

最終的に、クライアントの4つの側面を再教育(又は新たな選択肢を用意するといってもいい)することによって、クライアントは、身体の状態や変化を徐々に理解できるようになる。それは、まるで瞑想やヨガのポーズをとっているときに身体の今、ありのままの状態のことを知り、去来する感情は一過性のものであることを知ることに近いことかもしれない。

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そう考えると、大切なのは、第一に、ロルフィングのできることに焦点を絞ること。第二に、クライアントと信頼できる関係を構築すること。第三に、クライアントに対して少しずつ身体と向き合うためのスペースを与えること(この点について「スペースと心の部屋」参照)になる。特に、第三のことを行うことにより、クライアントが自分自身と向き合う時間やスペースを与えることにつながっていく。

Case Presentationを通じて学んだことは辛抱強さを身につけるということ。これはこれからも大事にしていきたい。

2026年8月の注記

この記事に、Hubert Godardの4つの側面が出てくる。Structure、Coordination、Perception、Meaning。Jörg先生はStructureをPhysicalと呼び、4つの構成要素という言い方をしていた。ロルフィングは主にStructureに働きかけるが、それを通じて残りの3つに影響が及ぶ、という説明である。

この4つが、その後どうなったかを書いておきたい。

2018年1月、Rolf Movementの認定トレーニングPart IIで、アシスタントのAline Newton先生から同じ理論を教わった。AlineはGodardがERAのメンバー向けに行ったスタディグループで学んだ人である。そこで示されたのは4つではなく5つだった。組織、知覚・認知、思考と言語、意味とシンボル、協調。増えたのは組織(Tissue)で、ロルフィングの筋膜へのアプローチが構造とTonusに影響するという項目である。

元の4つには、施術そのものが入っていない。それには理由がある。Godardは化学者として働いていた人で、パリでダンス公演を観たことをきっかけに22歳でバレエを始め、プロのダンサー、振付家、ダンス教師となった。深刻な膝の怪我をきっかけにソマティクスの世界に入り、Ida Rolf、F.M.アレクサンダー、モーシェ・フェルデンクライス、ルドルフ・ラバンらの仕事を取り入れながら、1980年代半ばにロルファーになっている。

手技から出発していない人が、姿勢を支える筋の働きを考えた。だから4つの側面は、身体の状態と知覚と意味の話で構成されていて、施術者が何をするかは含まれていない。

5つ目として組織が加わったことで、ロルファーが自分の手でしていることが理論の中に位置を得た。同時に、思考と言語が独立した項目になっている。

ここまでは、欧州系譜の内部での発展である。

2025年のアドバンスト・トレーニングでも、身体を分類する枠組みを学んだ。Taxonomyと呼ばれる5分類で、構造的・セグメント的、バイオメカニカル、機能的、心理生物学的、エネルギー的の5つである。クライアントの状態に応じて、いまどの観点から働きかけるかを選ぶための道具として渡された。

数が同じ5つなので、Godardの4つが発展してTaxonomyになったように見えるかもしれない。そうではない。

Taxonomyは、Jeff Maitlandが中心になって確立した分類であり、Godardの理論とは別系統から出ている。アドバンスト・トレーニングでは、Tonic Functionという語も、γ運動神経系の話も出てこない。g・g’も扱われない。欧州系譜がGodardの仮説を理論的支柱としてきたのに対して、アドバンスト・トレーニングはMaitlandの哲学を支柱としている。

ただし、二つがまったく交わらないわけではない。

Tonic Functionの仮説をSIのコミュニティに持ち込んだのはGodardだが、それを理論として整理し、発展させてきたのはKevin Frankである。1995年の論文で、重力に応答する系という枠組みを提示した人だ。そして2025年のアドバンスト・トレーニングで、エネルギーワークとボディワークの関係を説明する際に引かれたのが、そのKevin Frankだった。ボディワークとエネルギーワークの区別は本質的にはなく、すべては情報である、という言い方である。

同じ一人が、二つの系譜の両方に名前を残している。Godardの理論を体系化した人が、Maitland系のトレーニングでも引用される。理論の枠組みは接続していないが、人は行き来している。

つまり、同じロルフィングの中に、身体を分類する枠組みが二つ並行して存在している。片方は姿勢を支える筋の働きに何が影響するかを問い、もう片方は施術者がどの層から働きかけるかを問う。問いの立て方そのものが違う。

Taxonomyにはエネルギー的という項目がある。Godardの4つにも、Alineの5つにも、その層はない。逆に、Tonic FunctionもPre-movementも、Taxonomyの中に居場所がない。どちらかが正しいという話ではなく、別の場所を見ている。そして、両方を見てきた人が実際にいる。

11年かけて両方から学べたことは、幸運だったと思う。ただし、どちらか一方だけを学んだ人には、もう一方が存在することすら見えない。この記事を書いた2015年2月の時点では、Godardの4つがロルフィングの標準的な枠組みだと思っていた。

さて、この記事にはもう一つ、後につながる記述がある。

クライアントが話さない限り、過去の経歴に触れない方針でセッションを進める。トレーニングではストーリーという言葉を使った、と書いてある。余計な先入観を抱くと、ニュートラルな状態を保つことに影響する、とも。

2025年のアドバンスト・トレーニングで、オステオパスのJim Jealousの言葉を教わった。クライアントのプロセスは私たちの仕事ではない、観察はしても、ストーリーの一部になってはいけない、というものである。Kind Indifferenceの説明の中に置かれていた。

同じ story という語が、10年隔てて出てくる。2015年は、触れないという禁止として教わった。2025年は、その一部にならないという在り方として渡された。禁止から在り方へ。この形は、このトレーニング期間の記録を読み直していると、何度も出てくる。

記事の結びに、Case Presentationを通じて学んだことは辛抱強さを身につけることだ、と書いた。10年後には、待つことが技術として体系の中に置かれている。変化を起こすのではなく、起こるのを待つ。当時は心構えとして書いたものが、後に方法として扱われるようになった。

この記事を書いた人

Hidefumi Otsuka