初回に1時間、何を話すのか──ロルフィングのカウンセリングで見ている4つのこと

ロルフィングのセッションでは、身体に触れる前に話を聞く時間を取っている。初回は1時間取ることもあるし、それ以上になることもある。何を聞いているのかを書いたのが、この記事である。

本記事は、2015年11月から2016年2月にかけて書いた5本を1本にまとめ、2026年9月に加筆したものである。本体は当時の記録で、末尾に2026年の注記がある。

セッションの前に、1時間話す

ロルフィング・セッションを行う際、私が重視しているのはカウンセリングだ。初回の体験のときにはカウンセリングに1時間を取るケースや、もっと時間を取ることもある。信頼関係を構築する上でここは非常に大事にしている。

注目しているのは以下の4点。

  • どういった課題を抱えているのか
  • どういった価値観を大事にしているのか
  • どういった言葉を使っているのか
  • どういった五感を使うのか(聞く人なのか、見る人なのか、体感する人なのか)

課題は、その人の抱えている悩みや問題だ。肩こり、腰痛といった身体的なものかもしれないし、物の整理、人間関係の悩み、仕事の悩みかもしれない。これらは体験セッションのときに明確になる場合もあるし、10回セッションの中で明らかになる場合もある。課題が明確になると、解決策が提示しやすい。辛抱強く、相手が自分の言葉で語るのを待つことを心がけると、より明らかになるというのも分かってきた。

セッション全体の流れと料金については、別にまとめている(「施術の流れ」)。

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コミュニケーションとは知覚すること

なぜこの4点を見るのか。もとになっているのは、会社員時代に考えたことである。大学の研究機関から民間の会社へ移ったとき、社内満足度調査で一番の課題として挙がってきたのが、仕事のスキルではなくコミュニケーション能力だった。研究時代には全く話題にならなかったことである。そこからコミュニケーションについて考えるようになった経緯は、別に書いた(「コミュニケーション能力って何?〜なぜ興味を持ったか?」)。

コミュニケーション能力の定義で一番分かりやすかったのが、ピーター・ドラッカー氏の『すでに起こった未来〜変化を読む眼』だった。ドラッカー氏によると、

「コミュニケーションとは知覚すること」

だという。受け手が知覚して初めてコミュニケーションが成り立つ。相手が知覚できる範囲内でしか成立しない。そして相手は、知覚したいことを知覚し、見たいことを見て、聞きたいことを聞く。

このことを配慮しなかったら、コミュニケーションは一方的になり、成立しないことになる。だから、相手がどう知覚しているのかを先に知る必要がある。

相手がどの感覚を使っているのか

4点のうち、最後の五感について。聞く人なのか、見る人なのか、体感する人なのか。左利き、右利きのように、人には得意・不得意がある。

視覚(visual、V)、聴覚(auditory、A)、体感覚(kinesthetic、K)のうち、どれが優位なのかは、使われる言葉がヒントになる。相手の心地いい五感からの言語体系を使うことで、相手に安心感を与えることにつながっていく。ロルフィングでは、それを把握した上で、嗅覚、視覚、聴覚を使ったワークをやることもある。

言葉そのものにも注目する。言葉は、人が育った時期・世代、家庭環境、学校教育によって使われ方が違ってくる。その言葉をどのように使っているのかを知ることは、自分と他人の考え方の違いを理解するために必須だ。「愛」「努力」「頑張る」「腑に落ちる」といった言葉は、一見みんな同じように使うように見えて、実は人によって肯定的に、もしくは否定的に使うことがある。

仕事、趣味、恋愛、人間関係。一つ一つの言葉について、私が使っている意味と、お客さんが使っている意味が異なる場合がある。例えば、仕事を手段として考える人、好きなことをやることが仕事と考える人。言葉の意味を知ると、相手が何を大切にしているのかが分かってくる。相手の課題もより明らかになりやすい。

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行動よりも、価値観のほうを見る

人の話を聞く際に大切に思っているのは、行動(DOING)よりも価値観(BEING)に目を向けることだ。

2009年、The Coaches Training Institute(CTI)主催のコ・アクティブ・コーチングで学んだことだが、人が話す際、

  • DOING=何をするか
  • BEING=自分がどうあるべきか

の二つの側面から理解すると、話が整理しやすい(「Sensing・Doingとコーチング〜CTIの教育システムから考えてみた」参照)。そして、BEINGという目に見えない、無意識の領域といってもいい価値観に働きかけることによって、意識にあがってくるDOINGが自然に変化していく。

BEINGに目を向けるというのは、自分と向き合う形になるので、最も大切な

「答えは自分の中」にあって、「答えが他人(本も含む)の中にあるのではない」

ということを伝えやすい。

BEINGは、今この瞬間に目を向けさせることと考えることができる。悩みを抱えている人は、過去・未来の話題が9割近く、現在の話題が1割になっていることもあり、現実から離れた話題をすることが多い。

例えば、過去に後悔したこと、現実感のない夢など。ロルフィングの施術を行うと、身体の意識を通じて現在が高まるので、必然的に話題も現在の比重が高まる。徐々に、自分が何を大切にしていったらいいのかという思考が変わっていく。今現在のことに意識ができるようになると、大抵の問題は解決するからだ。

考えるための間を用意する

一方的にこちらの考え方や話を伝えてしまうと、相手が自分で見つめ直す時間を奪ってしまう可能性がある。

100%全てを伝えるのは無理だ。70%を伝えた上で、30%は相手に考える時間を与えることを心がけると、相手は自分の言葉で語れるようになる。そして感情を吐き出すこと(例、涙)で、より相手は自分をリセットすることも可能になる。その結果として、相手が新しい考え方に対してOPENになりやすい。

教える際に100%を教えるのではなく、70%程度にとどめておくことも、間を入れる考えにつながる。30%余白を残しておくことで、相手に消化する時間を与え、理解度が増すように思う。

相手に「間」=「スペース」を与えることが大事だということは、ロルフィング・トレーニングのGiovanni先生から学んだと思う。

「Giovanniを一言でいうと、spaceを体現する人。spaceは空間といっても、間といっても、隙間といっても、いいかもしれない。彼は間が人を引き出すスイッチを押すということを本当に自覚しています。セッション中にわざと入れる間、クライアントとのボーダーのとりかた、質問を質問で返して、その人に自分でさぐる間を与えること、etc.」

このように、相手に考える間=スペースを用意すること。例えば、

  • 相手の考えを整理する時間を与えること
  • 深呼吸する時間を与えること
  • 感情を吐き出す時間を作ること

そうすると自ずと、相手が自分のストーリーを語りだす。だいたい、予想できないものが語られる。それは、自分と相手が違う人間であるということを発見し、素直に認める瞬間といえる。

自分の物語を語らない──答えは相手の中にある

人の悩みを聞いているときには注意が必要だ。相談を受けると、どうしても自分の考えが相手の悩みに反映される。自分と相手というのは違う人間だということを忘れ、自分のストーリーを語り出し、自分のエゴが出てしまう。答えは相手の中にあると知っていてもだ。

課題・問題点を解決する上で、最も大事にしている考えは

「答えは自分の中」

にあるということだ。これは、大学院時代に味わった挫折の中で先輩から聞いた言葉で、その言葉をきっかけに立ち直った経験から、重視するようになった考え方である。

どんなに相手に対して、

「社会に出て○○を経験したほうがいいよ」 「苦労は買って出たほうがいいよ」

と言ったとしても、相手がそれに対して納得していなければ、受け入れる準備が整っていなければ、そして心に響かなければ動かない。これらはあくまでも目的を達成するための手段に過ぎないからだ。

私自身、注意しなければならないのは、当時45歳という年齢からみて人生経験も多くなっていることだった。どうしても、年下の場合には相手よりも経験が多いと、

「自分の経験のメガネ」=「自分の物語」

を語ってしまうことになる。所詮、自分と他人は違う人間であり、それぞれの感受性・個性も異なるし、相手の使う言語体系や使用する五感も異なる。そういった人に自分の経験を語ったからといって、役立つとは限らない。

だからこそ、与えられるのは気づきで、答えは相手に最終的に出させること。そのきっかけ作りしかできない。

なぜ「答えは自分の中」という考えを自分に言い聞かせているかというと、すぐれた指導者は「あれをしろ」「これをするな」等を通じて指示することで、相手の判断力を奪う人と出会うことがあるからだ。指導者にとっては相手をコントロール下に置くことができるから、扱いやすい。そうなると指導者の自己満足のみのために相手が動くということになってしまう。

ロルフィングで重視しているのは、相手を自立させることだ。だからこそ、大事になるのは相手一人一人の話を聞き、課題・問題点を聞き出すことになる。

そこで「人の話を聞くこと」「心をニュートラルにすること」の話となる。人の話を聴くために必要なこととして、相手には最小限の情報を与え、相手が答えを出すために考える時間と心のスペースを用意すること。それを念頭に、相手に必要な環境を整える。

1500セッションのタロット、および4000以上、380名のロルフィング・セッションを提供した経験から、「知識が豊富で相手にこれだけ知っているんだよ」はセッションを遂行していく上で不要で、逆に邪魔になると考えるようになった。

一人一人対峙するときには新鮮な眼、「全くこの人については私は分かっていない」という前提で接した方が、はるかに相手のためになる。相手を知っているという前提で自分が接すると、相手が「人の話を聴いてくれない」と感じて心を閉ざしてしまうからだ。

身体的な面において心を閉ざしている場合には、ロルフィング・セッションは大いに役立つと当時は書いている。身体の硬さが取れると、心が開かれてくるからだ。アメリカの心理学者ウィリアム・ジェームズは、

『悲しいから泣くのではなく、泣くから悲しいのだ』

という名言を残しているが、『生理学的反応のほうが心理的な情動体験よりも先に起こる』ということでもある。

本質的には、心を開けるような環境を提供することで、粘り強く待つこと。私自身の一つ一つの経験を手放して、相手に必要な最小限の情報(気づき)のみを与えること。それをヒントに、相手に必要な様々な質問を投げかけ、考える時間を与えることで、最終的に自分で答えが導き出されていく。

相手が出した答えというのは、まさに答えなので、それが「タロットは当たる」「ロルフィングが役立った」という意味にも繋がってくる。

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別の見方を差し出す

考え方の多様性についても、ロルフィング・トレーニングのPhase IIのGiovanni先生から学んだ。彼は聞くこと・確認することを通じて相手の考え方を把握し、新たな見方を提示するということを心がけていた。

例えば、

「◯◯のような見方をしているんだね。それも素晴らしいが、△△の見方をしてみたらどうか?」

なぜ、このような伝え方が有効か。米国の心理学者のウィリアム・ジェームズの

「人間の持つ感情のうちで最も強いものは、他人に認められることを渇望するという気持ちです」

という言葉が示すように、人は自分自身のことを価値のある存在だと思っていたいのと同時に、他人からも自分のことを価値のある存在だと思っている。これは心理学的には「自己重要感」という言葉で語ることができる。

相手の考え方を尊重した上で選択肢を新たに用意するというのは、自己重要感を満たした上での別の考え方の提示なので、受け入れるかどうかは別として、話を聞いてくれる可能性は高い。

また、相手はそう簡単に変わらないことの理解も大事だ。相手が今まで身につけている見方というのは、その人自身が気づいていない、その行動を促すような肯定的な理由があって行っている可能性があるからだ。

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褒めることと、場をホールドすること

「3つ褒めて1つ伸ばすこと」というのは、知人の柿澤一氏さんから学んだことだ。『中国情陸〜中国人から学ぶ中国ビジネスの極意』によると、上海万博の日本館で中国の社員を採用した際に、柿澤さんは以下のことを注意したという。

「一つを注意するよりも一つを褒める」、あるいは「三つ褒めて、そのうちの一つを伸ばす」というポジティブ志向で行くことにした。

また、褒めることについては、朝礼での効用について以下のように述べている。

私の考えた「ポジティブ朝礼」とは、スタッフ一人一人が 昨日の自分を反省する 今日の自分の目標を述べる 同じ仲間たちのうち、自分以外の誰かを褒める というものだ。この3.がツボである。褒められて嫌な人はいないものだ。褒められて初めて自分のよさに気付き、自信が生まれる。

「厳しく接する」よりも「褒めて伸ばす」という教育。ロルフィング・トレーニングのときに、長所を積極的に伸ばすためにGiovanni先生がどのような工夫をしたのかについては、以前に書いた。

「Giovanni先生は、安全な学びの環境を整えるのに場のホールドを大事にしており、スマートフォンをみようが、寝てようが、ご飯を食べようが、特定の人と話してようが、全く注意を受けることがなく、トレーニングが進んでいった。それはその人の学び方であり、それを最大限尊重しているからだ。ただ、完全に放置しているわけではない。ちょっとでも悲しんだり、悩んでいるという場面があったら、すぐにでも別の部屋に呼ばれ、周囲に聞かれないように配慮をした上で、悩みをそっと聞いてくれ、手を差し伸べてくれる。」

「厳しい」「緊張感のある環境」だと、どうしても人は萎縮してモティベーションが下がってしまう。その上、負のエネルギーが原動力になってしまう。これは害になる可能性があるし、将来その人が先生になると、生徒に同じことを課すことだってありうる。

相談は、ひとつのスキルである

職業上、お客さんから相談を受けることが多い。経験上、私は相談というのはひとつのスキルだと考えている。適切な問いを発することが、相談をする側に必要だからだ。大抵の人は適切な質問を発していないために、悩みを抱え相談したいと思っている。逆に言えば、問題が整理されれば、大抵の問題解決法というのが見えてくる。

個人的に大事にしているのは、すぐに答えを出すのではなく現状を把握するということ。相手と自分の思考が全く違う世界観、違った言語体系を使っているという前提で、話を進めていく。その人が抱えている問題は何か。お互いに理解できる共通言語を使って解き明かしていく。

その際に注意したいのは、原因追究型の質問である

「なぜ?そうなったの?」

は避け、問題解決型の質問様式をとることだ。原因追究型の質問の場合には、状況説明、自己正当化を通じて自分への言い訳につながっていくため、その人の抱えている問題・悩みの整理に繋がらないからだ。

人は体験したものを言語化するときに、体験の一部しか言葉にできていない。どういった言葉を使っているのかを理解した上で、不足している情報を聞き出す。そのことで、最終的に問題解決へと導くような質問、問題へとたどり着く。

相談というのは、ある意味でその人の片付け作業を手助けするために行うもの。最終的には、相手の中に答えがあるということを理解させるものであることが大事のように思う。適切な質問を通じて相手に気づきを与えるということ。今後とも大事にしていきたい考えだ。

知覚に働きかけるということ

ここまでが、2016年2月までに書いたものである。すべて言葉と知覚の話だった。相手がどの感覚を使っているのかを見て、その言語体系に合わせる。相手が知覚できる範囲でしか伝わらないという前提から始める。

その後、ロルフィングの側から同じ場所に届いた。

Rolf Movementというトレーニングを2017年から2019年にかけて受けた。ロルフィングの基礎トレーニングとは別の、30日間の課程である。この課程が扱うのは、重力への方向づけ、知覚、協調、表現性、神経系の調整だ。知覚が、姿勢と機能の持続的な変化を決めるものの一つとして並んでいる。

その理論の背骨にあたるのが、Hubert Godardという人の仕事である。彼はもともとダンサーで、ダンスを教えていたときの観察が出発点になっている。同じ課題を出しても、スタジオでどう話すかによって、人の踊り方が変わる。言葉が変われば、その人の感じ方が変わり、感じ方が変われば動きが変わる。

この順序は、2016年に書いていたことと同じである。ただし向きが逆だった。当時の私は、相手の知覚に合わせて言葉を選ぶ、という側から書いていた。相手に届けるための工夫としてである。Godardの側から見ると、言葉は届けるための手段ではなく、相手の知覚そのものを変える働きかけになる。

Rolf Movementの課程では、言葉の選び方が実技の一部だった。「伸ばす」と言うのか「伸びる」と言うのかで、その人の身体の使い方が変わる。教師のRita Geirolaさんは、誰に向けて教えるのか、そのときにどの言葉を選ぶのかを、課程の主題として扱っていた。

一人一人が自分の文化を背景とした言葉の使い方を持っているので、教えるプロセスそのものを通して学んでほしい、と。

セッションで相手の言語体系に合わせるという話と、同じことである。ただ、2016年の時点でコミュニケーションの技術として考えていたものが、身体に働きかける手段でもあったことを、後から知った。

なお、本文にある「1500セッションのタロット」「4000以上のロルフィング・セッション」は、2026年9月現在の数である。人数では、380名の方にセッションを提供している(2026年8月現在)。2016年1月の執筆時点では、タロットが600人近く、ロルフィングは提供を始めて半年だった。

物語の一部にならないこと

もうひとつ、後から言葉を得たものがある。

2016年に書いたのは、自分のストーリーを語り出さないということだった。相談を受けると、どうしても自分の考えが相手の悩みに反映される。そうならないように気をつける、という書き方をしている。

2025年のアドバンスト・トレーニングでは、Kind Indifference(優しい無関心)という語が中心のひとつになった。相手に関心を持たないという意味ではない。関わりながら、距離を保つということである。

同じことを、オステオパスのJim Jealousは、

The process is none of your business. Observe, but do not become part of the story.

クライアントのプロセスは、私たちの“ビジネス”ではない。観察はしても、ストーリーの一部になってはいけない。

と表現している。

2016年に書いていたのは、自分の物語を語らないということだった。この言い方では、相手の物語の一部にならないということになる。語らないだけではなく、入らない。

セッションの場には、相手のプロセスが進んでいる。こちらがそこに入ってしまうと、進んでいるものの向きが変わる。話を聞くというのは、その外側にいながら見ているということでもある。

まとめ

コミュニケーションとは知覚することだ。受け手が知覚して初めて成り立ち、相手が知覚できる範囲内でしか成立しない。だから初回の1時間で、その人がどの感覚を使い、どの言葉をどういう意味で使っているのかを見ている。

そして、伝えきらない。100%ではなく70%にとどめ、残りを相手の考える時間にする。答えは相手の中にあり、こちらができるのはきっかけを作ることだけだからだ。

身体からのアプローチを行っているが、それにも増して大切なのは人の話を聞くことだ。様々なヒントも得られやすいし、気づきも多い。そして、相手の話を聞くと学ぶことが多い。

セッションを受けるかどうかを考えている方は、実際に受けた方の記録も参考になると思う(「ロルフィングを受けた方の体験記── 症状・目的別に読む」)。10回のセッションで身体に何が起きるのかは、別にまとめている(「ロルフィングの10回セッションとは何か──身体が変わる3つのフェーズと各回の流れ」)。

2026年9月の注記

この記事に書いたのは、セッションの前に1時間かけて何を見ているか、ということだった。課題、価値観、言葉、五感。当時はこれを、身体に触れる前の準備だと思っていた。相手を知るための時間であり、その後に始まる施術とは別のものだと。

Rolf Movementのトレーニングを受けて、その順序が変わった。

Rolf Movementで扱うものに、Pre-movementがある。Aline Newton先生によると、動作を行う前に身体を安定化させるために、どこに力が入っているのかということである。動作が行われる前の動作、という意味だ。人は動き出す前に、既に何かをしている。

これを担っているのは、重力の下で持続的に働く筋肉である。ロルファー・ダンサーのHubert Godard氏によるTonic Functionという仮説では、重力の下で働く筋肉を2種類に分ける。一時的に働くほうは、すぐに働き、すぐに疲れる。持続的に働くほうは、疲れることを知らないが、意識していないと感覚がつかめない。Pre-movementを担当しているのは、後者である。

この筋肉には、時間がかかる。Gael Rosewood先生のワークショップで、働くのに5秒ほど、弛緩するのにも5秒ほどかかると知った。速い層ではない。

Godardがこれを見つけたのは、ダンスを教えていたときだった。同じ課題を出しても、スタジオでどう話すかによって、人の踊り方が変わる。動きを直したのではなく、話し方が変わったから動きが変わった。

言い換えると、話しかけた時点で、相手の動く前の状態が変わっている。

そうだとすると、1時間の話は準備ではない。相手の言葉に合わせて話しているとき、こちらは既にその人のPre-movementに触れている。施術の前の時間ではなく、施術と同じところに手をかけている時間だった。

そして、この層は速くならない。掴むのに5秒かかる筋肉に対して、急いで働きかけることはできない。1時間という長さは、こちらの丁寧さの問題ではなく、触れている層の側の性質だったことになる。

もう一つ、後から気づいたことがある。

この記事には、相談を受けるときの話と、教えるときの話が混ざって入っている。「100%を教えるのではなく70%にとどめる」というのは、教えることについて書いた文章だ。当時は、たまたま近い話だと思って並べていた。

Rolf Movementでは、その二つが同じものとして扱われていた。Godardの出発点が指導の場だったこと自体がそうだが、教師のRita Geirolaさんは、誰に向けて教えるのか、そのときにどの言葉を選ぶのかを、課程の主題として置いていた。一人一人が自分の文化を背景とした言葉の使い方を持っているので、教えるプロセスそのものを通して学んでほしい、と。

言葉を選んで相手の知覚に働きかけるという点で、教えることとセッションは同じ技術である。2016年に別々のつもりで並べていた二つは、別々ではなかった。

この記事を書いた人

Hidefumi Otsuka