【R#331】AT(4)〜意図と志向性の違い〜セッションに臨む2つの「在り方」〜ニュートラルを理解するには?

はじめに

東京・渋谷でロルフィング・セッションと脳科学から栄養・睡眠・マインドの脳活(脳科学活用)講座を提供している大塚英文です。

私は、2025年4月8日から、東京の市ヶ谷で日本ロルフィング協会主催のアドバンスト(上級)・トレーニング(AT)に参加している(講師は、Ray McCallと田畑 浩良さんの2名)。本日で3日目を終了。3日目は、生徒同士によるセッションの練習を行なった。

具体的には、田畑さんが開発したイールドによる3回セッションのうちの1回を行った(田畑さんのアプローチについては次回、HARA(腹)とニュートラルを説明するときに触れる)。

前回、Jeff Maitlandの3つの問いかけ(3 questions)に触れ、どのようなアプローチ(考え方)で(セッションを)開始するか?セッションに臨む際の在り方(考え方や知覚とも表現)の重要性について書いた。

その「在り方」の中でも、Rayがたびたび強調しているのが「ニュートラル(Neutral)」を意識することだった。

一方で、ただ単なる「ニュートラル」を意識するのではなく、
まずは・・・
「相手の身体は自己調整すること(Body is self-organizing)ができると信じること」
を意識すること。

「相手(クライアント)の自己調整する能力がある」と信じる「在り方」が、安心・安全な関係性を築く鍵となりこと。クライアントとの非言語のコミュニケーションや相手の身体で何が起きているのか?聴き取ることへとつながること。

といった準備が必要となる。

その準備をした上で、なぜニュートラルになることが重要なのか?今回は、INTENTION(意図)とINTENTIONALITY(志向性)とその結果生み出されるDevelopmental(段階的)とFruitional(新たに生み出す)から説明していきたい。

ニュートラルになること〜平均的から独自性へ

ロルフィングの基礎トレーニング(BT)で学ぶことは、1回目から10回目までのセッションを手順通り行うこと(Rayは、Formulaic approachと呼ぶ)。一方で、今回のATで学ぶことは、一人一人のクライアントの違いを認め、一人一人合ったセッションを提供することだ。

以前、創始者のIda Rolfは、BTを身につける意義として、身体をどのように見るのか?その見方が身につくまで(セッションの提供を5年以上)と話していたそうだ。つまり「身体をどのように見るのか?身につける」基礎的な素養を身につけることだ。

そのことで、平均的な人間に対して、どのような手技を使うのか?一通り身につけることだ。一方で、ある程度、身体に対する見方が身につく。原理原則を学ぶことで、次のステップである、一人一人にあったセッションを提供することが可能となる。

平均的に物事を見る方法から一人一人独自に見ていく方法へ切り替えるためのヒントは何か?キーワードとなるのが「ニュートラル」だ。

意図と志向性の違い〜身体の捉え方を知る

Rayは、ニュートラルについて時間をかけて説明していく。まずは、INTENTION(意図)とINTENTIONALITY(志向性)の2つの物事の捉え方(知覚)があることを知ることだ。

意図とは?

意図(もしくは意念)を使った物事の捉え方とは、自分の中でクリアな状態で「身体で何が起きているのか?」わかっており、「クライアントよりもプラクティショナーの方が賢い」だから「全ては因果関係で説明できる」「変化を説明できる」という立場に立つ。

志向性とは?

一方で「志向性」は、現代哲学者の一人、エトムント・フッサール(Edmund Husserl)が創始した現象学(Phenomenology)の用語として知られている。

現象学とは「意識の構造そのものを問い直す」姿勢から生まれた哲学の考え方の一つだ。

現象学によると、意識には、作用する側(プラクティショナー、ノエシスと呼ぶ、意識作用)と対象(クライアント、ノエマ、意識対象)の二重構造を持つことを前提に世界を捉える。

私たちの意識は常に何か対象に向けられていることから、「意識」と「対象」には、切り離せない「関係性」(「志向性」と表現)があると考える。

志向性の用語を理解すると、現象学は理解が深まる。というのも、
1)意識(プラクティショナー)は必ず何か(対象、クライアント)についての意識である
2)私たち(プラクティショナー)が物事(クライアント)を知覚する際、その対象(クライアント)に意味を与えている
3)対象(クライアント)は主観的な体験(身体の経験、治療効果)を通じて現れる

ロルフィングとの関係でいうと、クライアントの身体への「志向性」を意識すると、単なる技術的手順を超えた治療効果をもたらす可能性があるのだ。

現象学を理解した上で、志向性を使った物事の捉え方で見ると、「クライアントの身体は自己調整できる」「クライアントの方がプラクティショナーよりも賢い」だから「因果関係で説明することはできない」が「その人に必要な変化」が期待できるという立場に立つ。

意図と志向性の違いについて表にまとめると、以下のようになる。

項目意図志向性問いとしては?
主体プラクティショナークライアント誰が中心か?
立場プラクティショナーの方が賢いクライアントの方が賢いどちらの叡智を使うか?
変化・因果関係直線的・段階的
Developmental
(段階的変化)
因果で説明可能
非直線的・プロセス
Fruitional
(新たに生み出す)
因果で説明できない
どのように変化が進むか?段階的?新たに生み出すのか?
アプローチの仕方技術・手順で変化を起こす関係性・体験を通じて変化が起きるどんなアプローチで効果が出るか?
捉え方科学的・分析的現象学・知覚的どのような在り方で世の中を見るか?

DevelopmentalとFruitionalの違い

意図で持ってセッションに臨むと、段階的な変化(Developmental、段階的)が期待できる。対照的に、志向性で持ってセッションに臨むと、相手のプロセスに委ねる、創発的(Fruitional)変化が認められる。

段階的な変化(Developmental)とは?

段階的な変化(Developmental)とは、西洋的であり、直線的な変化であり、因果関係で説明できるもの。いわば、問題があり、それに対する解決策を出す。プラクティショナーにはクライアントに対して変化が求められる(Agent of Change)。

手技(技術・スキル)に依存する形になるが、上手くいけば、プラクティショナーは褒められる。問題なのは、問題が解決したとしても、新たな問題が発生する可能性もあり、永遠に解決できないという悪循環に陥ることもある。

創発的変化(Fruitional)とは?

創発的変化(Fruitional)とは、東洋的で、プロセスを大事にする非直線的な変化、因果関係は説明できないもの。プラクティショナーはクライアントの身体を聞き、それ従う。いわば、Presence(その場にとどまる、Agent of Presence)ことが求められる。

この変化には、起こるべきことは起こる(What needs to happen needs to happen)という見方が必要となる。手技も大事だが、プロセスを観察し、予想外の変化も許容することが求められる。

そのため、段階的な変化よりも難易度が高く「起こることを許す(Letting Happen)」と「何かを起こす(Making things happen)」の適切なバランスが要求される。いわば、ニュートラル(Neutral)なマインドだ。

表にまとめると以下のようになる。

項目Developmental
(段階的変化)
Fruitional
(創発的変化)
ベースとなる姿勢意図志向性
アプローチの特徴手順通り・構造的
変化を因果関係で説明可能
即興的・プロセス的
予想外の変化を許容
主導プラクティショナー
知識が答えを知っている
クライアント
身体が答えを知っている
プラクティショナーの立場変化を起こす
(Making things happen)
Agent of Change
変化が起きる
(Letting Happen)
Agent of Presence

新たに生み出す変化とニュートラル

一人一人独自性を認め、治療効果を上げるためには、クライアントの自己調整に身を委ねていくという志向性とその結果として生まれるFruitionalな変化が必要。そのために、プラクティショナーには、ニュートラルなマインドセットが求められるのだ。

ニュートラルな状態で臨むと、クライアントと適切な距離感をとることができ、クライアントが一人一人独自のプロセスを経る必要があると認識し、最終的にその人が自分に合った形で表現できるようになり、大きな変化が生まれる。

では、そのニュートラルとはどのような状態に置くと、生まれるのか?次回、その点について、HARA(腹)という考え方から迫っていきたい。

まとめ

今回は、一人一人に合ったセッションを提供していく上で、ATで学んだ2つの見方、INTENTION(意図)とINTENTIONALITY(志向性)の2つの物事の捉え方(知覚)についてまとめた。

意図で持ってセッションに臨むと、段階的な変化(Developmental、段階的)が期待できること。対照的に、志向性で持ってセッションに臨むと、相手のプロセスに委ねる、新たに生み出す(Fruitional)変化が認められること。等も紹介。

一人一人に合ったセッションを提供する際に、Fruitionalな変化とニュートラルの考えが重要であることについても書いた。

少しでもこの投稿が役立つことを願っています。

この記事を書いた人

Hidefumi Otsuka