東京・渋谷でロルフィング・セッションと脳科学から栄養・睡眠・マインドの脳活(脳科学活用)講座を提供している大塚英文です。
2025年4月8日〜25日の最初の3週間(各週4日間、火曜日〜金曜日、合計12日間)、東京の市ヶ谷で日本ロルフィング協会主催のアドバンスト(上級)・トレーニング(AT)が終わった(講師は、Ray McCallと田畑 浩良さんの2名)。

ATの総括〜ニュートラルについて7回の連載
ATの前半のトレーニングを振り返ってみて、最も学んだことは、セッションの中で「ニュートラル(Neutral)」になるとは何か?だった。
今回、ATを総括する意味で、7回に分けて、以下のタイトルで「ニュートラル」についてまとめたい。
- 1. ニュートラルとは何か
- 2. プレゼンスとは何か
- 3. 制限と可能性の扱い方
- 4. エネルギーワークと身体意識の関係
- 5. Right Action(正しい行い)の実践
- 6. Listening Touch(ニュートラルな触れ方)
- 7. 統合(Integration)とは何か
今回は「Right Action(正しい行い)」についてまとめたい。
Right Actionとは何か?
ロルフィングにおけるRight Action(正しい行い)とは、単なる「正解の手技」や「正しい操作」ではない。
「Right Action」は、ロルファーのJeff Maitlandの著作(『Embodied Being: The Philosophical Roots of Manual Therapy(2015)』および『Spacious Body: Explorations in Somatic Ontology(2000)』)などに登場する。

この考え方は、禅(Zen)と現象学(phenomenology)に深く影響を受けており、特に「あるがまま(what is)」を尊重し、それを変えようとするのではなく、現れるのを許す姿勢が基本にある。
Embodied BeingからRight Actionについて引用する。
“Right action is not something we impose on the body from the outside through technique. Rather, it is the kind of action that emerges when we are fully present, seeing clearly, and responding appropriately to what is given. It is action that accords with what is, not with what we think should be.”
「Right Action」とは「技術的に外から課すもの」ではなく、「完全なプレゼンスのもとで、見えたものに適切に応答する行為」であるという哲学的な考え方を含む。中でも”what is”(現れていること/あるがまま)との調和に重きを置いている点、特徴的だ。
仏教における「正見(Right View)」や「正道(Right Path)」のような倫理観・存在論とも響き合っており、単なるテクニックではなく、プラクティショナーの在り方(being)から生まれる自然な行為として理解してもいい。
ロルフィングのセッションを提供していく上で「Right Action」を取るには、
- Letting(起きるに任せること)
- Making(関わって起こすこと)
この二つのバランスを適切にとることが求められる。
つまり、何もしないわけでもなく、無理に変えようとするわけでもない。状況を深く聴き取りながら、「今ここ」で最もふさわしい介入を選び取ること──それがRight Actionと言える。
Right Actionに必要な3つの要素
Right Actionを実際にセッションで体現するためには、次の3つの要素が不可欠になる。
ニュートラルなプレゼンスを保つ
プラクティショナーがニュートラルであることは「Right Action」の大前提。
- 結果に固執せず
- 自分の「やりたいこと」ではなく
- クライアントのプロセスに耳を傾ける
ニュートラルなプレゼンスがあるからこそ、何を「Let(任せ)」、どこに「Make(働きかけ)」るかを、自然に感じ取ることができる。
身体と空間のダイナミクスを感じ取る
Right Actionは、単にクライアントの身体内部だけを見ていては、行うことができない。
- 身体と空間との関係性
- 身体内部の制限と可能性のバランス
- プラクティショナー自身の身体と意識の状態
これらを、広く、微細に感じ取る力が求められる。いわゆる、拡張された身体意識(エネルギーワークで養われる意識)が不可欠となる。
意図(Intention)ではなく、志向性(Intentionality)を持つ
Right Actionを実践するためには、「こう変えたい」という意図(Intention)に縛られないことが重要。
- ゴールを設定することはできる
- しかし、そのゴールに固執せず、プロセスに開かれていること
これが、志向性(Intentionality)に立脚するということ。志向性を持つことで、
Right Actionは生きたものとして現れてくる。
Right Actionの具体例
例えば、クライアントの肩が硬く動きづらいと感じたとする。
- 筋膜を押して解放しようとすれば、介入が強すぎて防御反応を引き起こす可能性あり。
- 完全に放置すれば、変化のチャンスを逃してしまう。
求められるRight Actionは、
- クライアントの身体が自ら開きたがっている微細な動きやスペースを探る
- その動きが自然に広がるのを「少しだけ」支える
- 動きたがらない部分には、無理に介入せず尊重する
というように、「介入」と「手放し」の絶妙なバランスをとること。
Right Actionとは「技術」ではなく「在り方」である
強調したいのは、Right Actionは特定のテクニックではないということ。
Right Actionは、プラクティショナーの在り方(being)そのものから滲み出てくるもの。
- ニュートラルであること
- プレゼンスを持つこと
- 身体と空間を聴き取ること
- 志向性を保つこと
これらを日々の実践で育む中で、Right Actionは自然に「起こってくる」ものと捉えて良さそうだ。
まとめ
- Right Actionとは、「起きるに任せる」と「働きかける」のバランスを取ること
- そのためには、ニュートラルなプレゼンスと拡張された身体意識が不可欠
- 意図に固執せず、志向性を持ってプロセスに開かれる
- Right Actionは、技術ではなく、プラクティショナーの在り方から生まれるものである
Right Actionを生きること──それは、ロルフィングという仕事を、単なる手技の集積ではなく、アート(芸術)と探究へとつながると考えてもいい。
少しでもこの投稿が役立つことを願っています。