はじめに
渋谷を拠点にロルフィング®のセッションを行っている大塚英文です。
日々、さまざまな身体に触れながら、「考えること」「感じること」「身体感覚(肚・丹田)」が、自然にひとつの判断としてまとまっていく状態を、セッションを通して支えています。

ボディワークの現場にいると、あることに気づく。
それは、人間の経験は
思考
感情
身体感覚
の三つに分かれているようでいて、実際にはひとつの流れとして起きているということだ。
ロルフィングのセッションの中で、筋膜の緊張がほどけた瞬間に、突然感情が浮かび上がることがある。涙が出る人もいれば、長く抑えていた怒りを感じる人もいるし、深い安堵や静けさを感じる人もいる。
こうした現象は偶然ではない。人間の感情や意識は、身体の状態と深く結びついているからだ。
感情は身体から生まれる
神経科学者・Antonio Damasio(アントニオ・ダマシオ)は、感情について次のように説明している。
感情とは、心理的な出来事ではなく、身体状態の変化を伴う生理的プロセスであると。
例えば怒りが起きるとき、
身体では
- 心拍数が上がる
- 呼吸が速くなる
- 筋肉が緊張する
といった変化が起きる。
そしてその身体変化を脳が知覚したとき、私たちはそれを「怒り」として感じる。
つまり、
身体反応 → 感情の知覚
という順序が存在しているのだ。
Feeling(感じること)こそが意識である
この点について、近年とても興味深い理論を提唱しているのが、神経心理学者・Mark Solms(マーク・ソームス)だ。
Solmsは次のように述べている。
Feeling is consciousness.
つまり、「感じていること」そのものが意識であるという考え方。
私たちは通常、意識=思考だと考えがち。
Solmsによれば、意識のもっとも原初的な形は、身体から生まれる感覚(feeling)といっている。
例えば
- 空腹
- 痛み
- 不安
- 安心
こうした身体的な感覚が、意識の土台をつくっている。言い換えれば、私たちは感じているからこそ意識しているのだ。
問題は感情ではなく「感情への抵抗」
ここでとても重要な視点がある。
多くの人は、
怒り
悲しみ
恐れ
といった感情そのものを問題だと考える。
実際には、問題は感情ではなく、感情への抵抗なのだ。
例えば
失敗への恐れを感じないようにすると、安全な選択ばかりを選ぶようになる。
対立を避けるために怒りを抑えると、人に合わせ続けることになる。
悲しみを感じないようにすると、心が麻痺していく。
このように、感情を避けようとすると、そのエネルギーは消えるのではなく、身体の緊張として残る。
感情の抵抗は身体に現れる
ボディワークの現場では、このことが非常に明確に見えてくる。
例えば、
- 呼吸が浅い
- 胸が硬い
- 首や顎が緊張している
- 腹部が固まっている
こうした身体パターンは、単なる筋肉の問題ではない。
そこには、感じられなかった感情への抵抗が含まれていることがある。
身体は、感じられなかったものを、緊張として保持するのだ。
Overthinkingは身体から切り離された思考
最近よく言われる「Overthinking(考えすぎ)」も、この視点から理解できる。
多くの場合、Overthinkingとは感じられていない感情を、思考で処理しようとしている状態だ。
怒り
悲しみ
恐れ
といった感情を身体で感じることができないとき、脳はそれを思考で解決しようとする。
本来、感情は本来、身体を通して動くプロセス。思考だけでは処理できない。
ボディワークが意識に触れる理由
ここでボディワークの意味が見えてくる。
ロルフィングでは
- 重力との関係
- 呼吸
- 筋膜の緊張パターン
を整えていく。
身体状態が変化すると、神経系の活動も変わる。すると、feeling(感じ方)が変化する。
Solmsの理論に従えば、feelingが変わるということは、意識そのものが変わることを意味する。
つまりロルフィングとは、身体を通して意識を変化させるプロセスとも言えるのだ。
まとめ
ロルフィングのセッションを通して私が感じるのは、
人間の体験は
思考
感情
身体感覚
に分かれているのではなく、本来はひとつの統合された流れだということだ。
身体が整うと、
呼吸が変わり
神経系が落ち着き
感じ方が変わります。
そしてそのとき、
考えること
感じること
身体感覚
が自然に一致していく。
ロルフィングの仕事とは、身体を通して
感情への抵抗がほどけ、意識が統合されていく場をつくること
なのだと思う。
