【R#334】ロルフィングにおける原理・原則と観察力 — Jeff Maitlandのアプローチ〜AT-1(7)〜

はじめに

東京・渋谷でロルフィング・セッションと脳科学から栄養・睡眠・マインドの脳活(脳科学活用)講座を提供している大塚英文です。

先週(2025年4月8日〜)から、東京の市ヶ谷で日本ロルフィング協会主催のアドバンスト(上級)・トレーニング(AT)に参加している(講師は、Ray McCallと田畑 浩良さんの2名)。3週間にわたって、火曜日〜金曜日に行われ、6日目(4月16日)を終えた。

改めてAT取り上げられたのが、Jeff Maitlandがまとめあげたロルフィング理論のフレームワークだ。Jeffの思想を軸に、ロルファーにとって実践的に役立つ視点で紹介したい。

Jeff Maitlandとは?

Jeff Maitlandは、Purdue大学で哲学を教えたバックグラウンドを持つロルファーです。
特に、現象学(Phenomenology)と禅の思想をロルフィングに取り入れたことで知られています。

彼の貢献は、単なる手順(Protocol)に頼るのではなく、
「原理・原則(Principles)」に基づくロルフィングを可能にした点にあります。

Ray McCall氏は、次のように紹介しました。

「Maitlandは、Ida Rolf博士が作った10シリーズを”脱構築”し、原理・原則へと昇華させた。」

5つの原理・原則(Principles)

Maitlandは、以下の5つの原理を整えました(最後のCLOSUREはPedro Pradoと共同提唱)。

  1. WHOLISM(全体性)
     身体を部分ではなく、全体のシステムとして捉える。
  2. SUPPORT(支持)
     構造が自己支持できるように促す。
  3. ADAPTABILITY(適応性)
     環境への柔軟な適応を支える。
  4. PALANTONICITY(二方向性)
     上下・内外など相反する力のバランスを見る。
  5. CLOSURE(完了・クロージング)
     プロセスに「終わり」をもたらし、次の段階へ移る。

これらの原理を理解することで、
単なる手技ではない、「身体の統合」という大きな目的が明確になります。

なぜ「脱構築」が必要だったのか?

もともと、ATには、下記のアドバンスト・シリーズの手順(Recipe)が決まっていた。

  • 身体軸(LINE)に戻す
  • Zポジション、Cポジションに置く
  • 膝・肘・肩のHINGEを整える

参考に、これを作ったのはIda Rolfではなく、Peter MelchiorとEmmett Hutchinsだ。

Ray曰く、

「この手順に固執すると、クライアントに負担をかけすぎる可能性がある。」

Maitlandはここに問題を見出し、「原理・原則に基づき、個々に応じたセッションを組み立てる(Non-Formulaic)」スタイルへと導いた。

観察力(Seeing)とは何か?

Jeffが最も強調したのが、「観察する力(Seeing)」を鍛えること。

重要なのは、

「単なる目視ではない。感覚器官全体を使って”身体を聴く”ことだ。」

彼は、Somatic Sensorium(身体感覚の総動員)によって情報を得ることを推奨した。

Rayも

「’Seeing with your own eyes’ は誤解を生む。身体全体で受け取ることが観察だ。」

と語っている。

  • 見る
  • 感じる
  • 聴く
  • 動きの質を受け取る
    といった多次元的な感覚を活性化させることが、「観察力」を本当に育てる方法なのです。

ロルフィングのセッションでどう生かすか?

ATでは、セッションでこの考え方を生かすには、以下を意識するといいと学んだ。

Somatic Sensoriumを使って感じ取る
 (”見よう”とするのではなく、”開いて受け取る”)

原理・原則を軸にセッションを組み立てる
 (クライアントに必要なSupport、Wholism、Adaptabilityを見極める)

Protocolに縛られず、個別に応じた対応をする
 (流れを固定せず、必要なことだけを行う)

まとめ

Jeff Maitlandがロルフィングにもたらした最大のギフトは、
「固定された型から自由になり、本質に立ち戻る道を開いたこと」
ということに気づかされたことだと思う。

手技のスキルを超えて、

  • クライアントの中にある自己組織化の力を信じ、
  • 自らの感覚を磨き、
  • より深い「統合」へと導く。

私自身、このアプローチはあまり意識していなかったので、今後、この在り方をセッションの提供するプロセスで深めていきたい。

少しでもこの投稿が役立つことを願っています。

この記事を書いた人

Hidefumi Otsuka