【R#350】3つのPrinciplesとロルフィング10シリーズ(第3回)〜全7回・ CTIコーチングとの比較

はじめに

東京・渋谷でロルフィング・セッションと脳科学から栄養・睡眠・マインドの脳活(脳科学活用)講座を提供している大塚英文です。

人が変化していくプロセスをどう支えるか?〜ロルフィングとコーチングから考える

ロルフィングとコーチング──一見、まったく異なる実践領域のように見える。 前者は身体を扱い、後者は言葉を扱う。しかし、その本質にあるのは共通の問いだ。

“人が変化していくプロセスを、どう支えるか?”

私は、CTI(The Coaches Institute)のCo-Active Coaching(以下コーチング)を2009年に学んだ。コーチングのスキルを追究して行く中で、ロルフィングに出会った。お互いに異なるように見える2つの手法。

いずれも共通しているのは「変容」という共通テーマに向き合っている点だ。今回、ロルフィングとコーチングについて以下の7つの視点から紐解いていくことにする。

  • 【第1回】ニュートラルとプレゼンス
  • 【第2回】4つのコーナーストーン
  • 【第3回】3つのPrinciplesとロルフィング10シリーズの対応
  • 【第4回】セッション間のプロセスの持ち方
  • 【第5回】関係性の質(Designed Alliance / Right Relationship)
  • 【第6回】スキルの比較(CTIの5スキルとロルフィングの技法)
  • 【第7回】総括

全体を通じて、「触れる」「問う」「聴く」「在る」という多面的に「変容」について考えていきたい。身体から働きかけるロルフィングと、言葉を通して深層に触れるコーチングを比較することで、人の変容とは何か、考えるきっかけになれると確信している。

第3回は、CTIの3 Principles(Fulfillment / Balance / Process)は、ロルフィング10シリーズの3つの構造段階(Sleeve / Core / Integration)を比較した上で、自分なりの仮説を考えてみたい。

ロルフィング10セッションの考え方

Dr. Ida Rolfは、身体を静的な形ではなく、重力との動的関係の中で自己を保持する存在と捉えた。

“In human structure, there is a superficial sleeve, and there is a core… The sleeve is made up of the outer layers of myofascia. The core comprises the more interior structures.”
「人間の構造には、表層(スリーブ)とコアがある。スリーブは外側の筋膜層で構成され、コアはより内側の構造を指す」
— Rolfing, p. 56

“In order to have order, there must be balance between the sleeve and the core. But true integration is something more: it is the body as a whole relating to gravity in a dynamic, adaptable way.”
「秩序を得るためには、スリーブとコアの間にバランスがなければならない。しかし真の統合とは、それ以上のものであり、身体全体が重力と動的かつ適応的に関係している状態である」
— Rolfing, p. 66

ロルフィングの身体の整え方とCTIの3 Principlesが示すBeingの変容の道筋は、以下のように対応しているのではないかと思う。

CTIの3 Principles × ロルフィング10シリーズ

CTIのPrincipleロルフィングのフェーズ身体構造視点共通のテーマ
Fulfillmentセッション1〜3Sleeve(表層)呼吸・接地・世界との接点の再構築
Balanceセッション4〜7Core(深層)中心から選ぶ/内的方向性の回復
Processセッション8〜10Integration(統合)CoreとSleeveの協調・自由な自己表現

各フェーズの意味と引用を交えた解説

1. Fulfillment(フルフィルメント) × Sleeve(1〜3回)

呼吸と世界に開かれた身体感覚

『Co-Active Coaching(4th ed.)』では、Fulfillmentとは次のように定義されています:

“Fulfillment is the experience of living a life grounded in what matters most.”
「フルフィルメントとは、最も大切な価値に根ざした人生を生きる体験である」
— Co-Active Coaching, p. 13

この体験には、自己とのつながりの回復が不可欠。

ロルフィングでは、セッション1〜3で「呼吸(セッション1)・接地(セッション2)・身体の輪郭(セッション3)」など、Sleeve(表層)構造を自由にする。このように、クライアントは初めて「世界に開かれた身体」として自己を感じられるようになる。

共通点:本当の願い・価値・方向性は、「感受性のある身体」なしには立ち現れない。

体験談:

「初回のセッション後、久しぶりに身体が軽くなった感覚がありました。呼吸がしやすくなり、周囲とのつながりを感じるようになりました」
― クライアントA


2. Balance(バランス) × Core(4〜7回)

中心軸から選ぶ自由と方向性

“Balance is the ability to consider a situation from multiple perspectives, to make powerful choices, and to take decisive action.”
「バランスとは、複数の視点から状況を考慮し、力強い選択を行い、果断な行動を取る能力である」
— Co-Active Coaching, p. 14

これは、視点と選択肢の自由度が増すことで、意図的に人生をデザインできる状態。

ロルフィングでは、セッション4〜7で、Core(中心軸)を作り上げることで、身体が重力と共に立つ感覚を呼び起こす。中心軸を整えることこそ、意識的に「内的選択」を行う上で、一つの支えになっていく。

共通点:中心があるからこそ、選ぶことができる。行動が「内なる意志」に根ざすようになる。

体験談:

「中盤のセッションを通して、内側の安定感が増しました。迷いが減り、自分の本音に従って行動できるようになりました」
― クライアントB


3. Process(プロセス) × Integration(8〜10回)

揺らぎの中で居る力、全体性として動く力

“Process is the ability to be with what is, to stay present to emotional experience, and to allow the unfolding of life.”
「プロセスとは、今ここにあるものと共に在り、感情体験に開かれ、人生の展開に身を委ねる力である」
— Co-Active Coaching, p. 15

ここでは、「解決」ではなく、「居る」ことそのものが力とみなされます。

ロルフィングでも、セッション8〜10で行われるのはCoreとSleeveの動的な統合であり、
固定された理想形ではなく、変化の中で全体性を保つ能力の育成です。

“True integration is not a fixed posture but a dynamic adaptability to gravity.”
「真の統合とは、固定された姿勢ではなく、重力に対する動的な適応力である」
— Rolfing, p. 68

共通点:統合された存在とは、変化を恐れず、変化の中に居続けられる力そのもの。

体験談:

「10回目が終わったとき、身体全体がつながっている感覚がありました。動きも自然で、変化に対しても穏やかでいられるようになりました」
― クライアントC


まとめ:統合とは、全体として「今、ここに在る力」

Ida Rolfが語ったように:

“Integration is not an end-state. It is a capacity to relate.”
「統合とは最終形ではない。それは“関係する力”である」
— Rolfing, p. 70

そしてCo-Active Coachingも、変容とは「Being」と「関係性」から始まることを繰り返し強調する。変化とは、「整えること」ではなく、「世界と調和しながら自己を生きること」につながる。

次回予告

第4回は、セッションとセッションの間の“プロセスの持ち方”に焦点を当て、 CTIにおけるForward & Accountabilityと、ロルフィングにおける自己組織化プロセスの違いを比較します。


参考文献

  • Dr. Ida Rolf (1977). Rolfing: Reestablishing the Natural Alignment and Structural Integration of the Human Body for Vitality and Well-Being. Healing Arts Press.
  • Henry Kimsey-House et al. (2018). Co-Active Coaching: The Proven Framework for Transformative Conversations at Work and in Life (4th ed.). Nicholas Brealey.
  • Jeff Maitland (2017). Embodied Being: The Philosophy and Practice of Manual Therapy. North Atlantic Books.

この記事を書いた人

Hidefumi Otsuka