はじめに
東京・渋谷でロルフィング・セッションと脳科学から栄養・睡眠・マインドの脳活(脳科学活用)講座を提供している大塚英文です。

ロルフィングとコーチング(以下CTIで学ぶコーチング)──一見、まったく異なる実践領域のように見える。 前者は身体を扱い、後者は言葉を扱う。しかし、その本質にあるのは共通の問いだ。
“人が変化していくプロセスを、どう支えるか?”
ロルフィングとコーチングについて、
- 【第1回】ニュートラルとプレゼンス
- 【第2回】4つのコーナーストーン
- 【第3回】3つのPrinciplesとロルフィング10シリーズの対応
- 【第4回】セッション間のプロセスの持ち方
- 【第5回】関係性の質(Designed Alliance / Right Relationship)
- 【第6回】スキルの比較(CTIの5スキルとロルフィングの技法)
- 【第7回】総括
の全7回の連載を通じて、色々と考えていきたい。
今回は、第2回。CTIの中核哲学である「4つのコーナーストーン(Cornerstones)」を軸に、ロルフィングと比較しながら、それぞれが前提としている人間観を浮き彫りにする。
変容の場を支える「4つの基盤」
『Co-Active Coaching(4th ed.)』では、すべてのコーチング関係の土台として、以下の4つのコーナーストーン(礎石)が定義されている(p. 8–13):
- People are naturally creative, resourceful, and whole.
- Coaching addresses the whole person.
- Co-Active coaching is a collaborative process.
- People’s lives are naturally dynamic.
これらは、CTIの会話型のアプローチだけでなく、身体からの変容を扱うロルフィングの考え方とも、驚くほど似ているので、以下まとめていきたい。
People are naturally creative, resourceful, and whole
CTIの立場
クライアントには人生を変えるための内的リソースがすでに備わっており、コーチはそれを引き出す存在である。コーチングは“fix(修正)”ではなく、“信頼”の行為といえる。
たとえば、キャリアの壁にぶつかっていたあるクライアントが、「もう無理です、限界です」と語ったとき、私はアドバイスを控え、「もしその“限界”の先に、あなたの知恵があるとしたら、それは何だろう?」と尋ねてみたとしよう。「実は、ずっと挑戦したかった領域がある」と口にしたとしたら、その人の中にあった答えが引き出されたといえる。
ロルフィングの立場
ロルファーは、身体を「歪み」や「問題の集合」として見るのではなく、秩序に向かう自己組織化の力を持った存在として捉える。施術者の役割は、そのプロセスを妨げているものをほどき、クライアント自身の内的秩序を回復するサポートである。
“The body is not a machine. It is a self-organizing, meaning-making field.”
― Jeff Maitland, Embodied Being, p. 91
クライアントの肩こりがひどく、肩から整えようと思っても、元に戻ることが目に見えていた。胸から骨盤にかけて、肩をサポートする部位と肩をつながる意識するようなタッチに切り替えた。身体が自然と調和したことにより、肩こりも軽減していった。このケースでは、「治す」のではなく、「起きることを支える」在り方が重要だった、といえる。
Coaching addresses the whole person
(コーチングは人の「全体」に働きかける)
CTIの立場
コーチングは課題解決ではなく、「人間全体」にアクセスする営みである。言語、思考、感情、身体感覚、価値観――そのすべてがセッションのフィールドである。
クライアントが「転職するべきかどうか」で迷っていたとき、問いを重ねるうちに、彼の言葉とは逆に、身体が小さく縮こまっていることに気づいた。「今、その話をしている身体の感覚は?」と問いかけると、「胸が締めつけられてる」と応じた。言葉だけでなく、身体感覚も含めて“その人全体”に働きかけたことで、気づきが深まった。
ロルフィングの立場
ロルフィングは一見「身体」に焦点を当てているように見えるが、感情・認知・動作・呼吸・空間認知など、すべてが身体の一部として統合されていると捉える。施術は「筋膜を操作すること」ではなく、「フィールド全体に働きかける」プロセスである。
あるクライアントの肩の緊張が強かったが、実際には足の接地感のなさから全身に緊張が伝播していた。足元から空間とのつながりを整えると、肩の力が自然と抜けた。人は部分ではなく「場として存在している」ことが改めて実感された。
Co-Active coaching is a collaborative process
(コーチングは共同創造のプロセスである)
CTIの立場
コーチは「導く人」ではなく、クライアントと対等なパートナーである。“Designed Alliance(明示的な関係性契約)”のもと、即興的にその場を共に創っていく。
クライアントとのセッションの例えだが「この問いには正解があるはずだ」と考えていた。しかし、コーチングは共創である。私は「この問いの“意味”を、一緒に探してみませんか?」と提案すると、セッションが激変。セッションは、計画を超えた創造の場となった。
ロルフィングの立場
ロルフィングにも10シリーズという明確な構造はあるが、「その日の身体」こそが道標である。プラクティショナーは計画に固執せず、身体の応答に耳を澄ませながら「共同で変化を創っていく」。
“The practitioner’s job is not to cause change, but to hold the space in which change can happen.”
― Embodied Being, p. 145
セッションで胸へのアプローチを予定していたが、胸の周辺に軽く触れた瞬間、クライアントが涙を流し始めた。予期せぬ反応に応答する形でセッションの流れが変わり、より深い気づきと統合が起こった。即興性と共創が、変化を生み出す鍵となる。
People’s lives are naturally dynamic
(人の人生は本質的にダイナミックである)
CTIの立場
人生はつねに流動している。コーチングは、安定を提供するのではなく、変化と揺らぎの中に「気づき」を見出すプロセスである。
「また悩んでしまいました」と語るクライアントに、「悩んでいる“今のあなた”にも、意味があるとしたら?」と問いかけると、「悩むことを責めるのではなく、味わっていいんですね」と安堵の表情を見せた。動的な人生の一部としてクライアントを扱う視点が、変容への扉となった。
ロルフィングの立場
身体も同様に「固定された理想」ではなく、絶えず変化し続ける存在である。セッションは、理想的な形を“与える”ことではなく、柔軟に変化し続けられる統合力を高めることを目的とする。
“Health is not a fixed state, but a flexible capacity for integration.”
― Embodied Being, p. 110
長年の肩こりに悩むクライアントに、完璧なアライメントを目指すのではなく、「動きの自由度」を育む視点でアプローチしたところ、「肩はまだ少し重いけれど、軽やかに歩ける」と感想をもらった。変化は静的な目標ではなく、動的なプロセスである。
CTIのコーナーストーン × ロルフィングの考え方
CTIのCornerstone | ロルフィングにおける対応 | 共通する原則 |
---|---|---|
人は本来、創造的で全体的 | 身体は自己組織化されており、制限を越えられる存在 | クライアントの内なる力を信じる |
全体性に働きかける | 身体だけでなく、感情・空間・認知も含む「全体」に触れる | Whole-person / Whole-beingアプローチ |
協働のプロセス | 施術は対話であり、触れ方も共創的で即興的 | 関係性のアート |
人生は動的 | 身体も常に流動的。統合とは「揺らぎに耐える柔軟性」 | Change is constant, and natural |
ボディワークとコーチングの境界を越えて
ロルフィングとコ・アクティブ・コーチングは、 異なる技法を持ちながら、共に変容の本質=自己の力を信じること、そして関係性に根ざした共創に立脚している。
- ロルフィングは身体からの対話であり、
- コーチングは言葉からの身体性へのアクセスとも言える。
両者は、「変化は導かれるのではなく、現れてくる」という深い信頼から始まる。
次回予告
第3回は、CTIの3つの原則(Fulfillment / Balance / Process)と、ロルフィング10シリーズの各フェーズ(Sleeve / Core / Integration)との対応関係を探る。対応関係は、私の仮説になるが、参考になると思う。
参考文献
- Henry Kimsey-House, Karen Kimsey-House, Phillip Sandahl, & Laura Whitworth (2018).
Co-Active Coaching: The Proven Framework for Transformative Conversations at Work and in Life (4th ed.). Nicholas Brealey Publishing. - Jeff Maitland (2017). Embodied Being: The Philosophy and Practice of Manual Therapy. North Atlantic Books.