【R#349】4つのコーナーストーンとロルフィングの考え方(第2回)〜全7回・CTIコーチングとの比較

はじめに

東京・渋谷でロルフィング・セッションと脳科学から栄養・睡眠・マインドの脳活(脳科学活用)講座を提供している大塚英文です。

ロルフィングとコーチング(以下CTIで学ぶコーチング)──一見、まったく異なる実践領域のように見える。 前者は身体を扱い、後者は言葉を扱う。しかし、その本質にあるのは共通の問いだ。

“人が変化していくプロセスを、どう支えるか?”

ロルフィングとコーチングについて、

の全7回の連載を通じて、色々と考えていきたい。

今回は、第2回。CTIの中核哲学である「4つのコーナーストーン(Cornerstones)」を軸に、ロルフィングと比較しながら、それぞれが前提としている人間観を浮き彫りにする。

変容の場を支える「4つの基盤」

『Co-Active Coaching(4th ed.)』では、すべてのコーチング関係の土台として、以下の4つのコーナーストーン(礎石)が定義されている(p. 8–13):

  1. People are naturally creative, resourceful, and whole.
  2. Coaching addresses the whole person.
  3. Co-Active coaching is a collaborative process.
  4. People’s lives are naturally dynamic.

これらは、CTIの会話型のアプローチだけでなく、身体からの変容を扱うロルフィングの考え方とも、驚くほど似ているので、以下まとめていきたい。

People are naturally creative, resourceful, and whole

CTIの立場

クライアントには人生を変えるための内的リソースがすでに備わっており、コーチはそれを引き出す存在である。コーチングは“fix(修正)”ではなく、“信頼”の行為といえる。

たとえば、キャリアの壁にぶつかっていたあるクライアントが、「もう無理です、限界です」と語ったとき、私はアドバイスを控え、「もしその“限界”の先に、あなたの知恵があるとしたら、それは何だろう?」と尋ねてみたとしよう。「実は、ずっと挑戦したかった領域がある」と口にしたとしたら、その人の中にあった答えが引き出されたといえる。

ロルフィングの立場

ロルファーは、身体を「歪み」や「問題の集合」として見るのではなく、秩序に向かう自己組織化の力を持った存在として捉える。施術者の役割は、そのプロセスを妨げているものをほどき、クライアント自身の内的秩序を回復するサポートである。

“The body is not a machine. It is a self-organizing, meaning-making field.”
― Jeff Maitland, Embodied Being, p. 91

クライアントの肩こりがひどく、肩から整えようと思っても、元に戻ることが目に見えていた。胸から骨盤にかけて、肩をサポートする部位と肩をつながる意識するようなタッチに切り替えた。身体が自然と調和したことにより、肩こりも軽減していった。このケースでは、「治す」のではなく、「起きることを支える」在り方が重要だった、といえる。

Coaching addresses the whole person

(コーチングは人の「全体」に働きかける)

CTIの立場

コーチングは課題解決ではなく、「人間全体」にアクセスする営みである。言語、思考、感情、身体感覚、価値観――そのすべてがセッションのフィールドである。

クライアントが「転職するべきかどうか」で迷っていたとき、問いを重ねるうちに、彼の言葉とは逆に、身体が小さく縮こまっていることに気づいた。「今、その話をしている身体の感覚は?」と問いかけると、「胸が締めつけられてる」と応じた。言葉だけでなく、身体感覚も含めて“その人全体”に働きかけたことで、気づきが深まった。

ロルフィングの立場

ロルフィングは一見「身体」に焦点を当てているように見えるが、感情・認知・動作・呼吸・空間認知など、すべてが身体の一部として統合されていると捉える。施術は「筋膜を操作すること」ではなく、「フィールド全体に働きかける」プロセスである。

あるクライアントの肩の緊張が強かったが、実際には足の接地感のなさから全身に緊張が伝播していた。足元から空間とのつながりを整えると、肩の力が自然と抜けた。人は部分ではなく「場として存在している」ことが改めて実感された。

Co-Active coaching is a collaborative process

(コーチングは共同創造のプロセスである)

CTIの立場

コーチは「導く人」ではなく、クライアントと対等なパートナーである。“Designed Alliance(明示的な関係性契約)”のもと、即興的にその場を共に創っていく。

クライアントとのセッションの例えだが「この問いには正解があるはずだ」と考えていた。しかし、コーチングは共創である。私は「この問いの“意味”を、一緒に探してみませんか?」と提案すると、セッションが激変。セッションは、計画を超えた創造の場となった。

ロルフィングの立場

ロルフィングにも10シリーズという明確な構造はあるが、「その日の身体」こそが道標である。プラクティショナーは計画に固執せず、身体の応答に耳を澄ませながら「共同で変化を創っていく」。

“The practitioner’s job is not to cause change, but to hold the space in which change can happen.”
― Embodied Being, p. 145

セッションで胸へのアプローチを予定していたが、胸の周辺に軽く触れた瞬間、クライアントが涙を流し始めた。予期せぬ反応に応答する形でセッションの流れが変わり、より深い気づきと統合が起こった。即興性と共創が、変化を生み出す鍵となる。

People’s lives are naturally dynamic

(人の人生は本質的にダイナミックである)

CTIの立場

人生はつねに流動している。コーチングは、安定を提供するのではなく、変化と揺らぎの中に「気づき」を見出すプロセスである。

「また悩んでしまいました」と語るクライアントに、「悩んでいる“今のあなた”にも、意味があるとしたら?」と問いかけると、「悩むことを責めるのではなく、味わっていいんですね」と安堵の表情を見せた。動的な人生の一部としてクライアントを扱う視点が、変容への扉となった。

ロルフィングの立場

身体も同様に「固定された理想」ではなく、絶えず変化し続ける存在である。セッションは、理想的な形を“与える”ことではなく、柔軟に変化し続けられる統合力を高めることを目的とする。

“Health is not a fixed state, but a flexible capacity for integration.”
― Embodied Being, p. 110

長年の肩こりに悩むクライアントに、完璧なアライメントを目指すのではなく、「動きの自由度」を育む視点でアプローチしたところ、「肩はまだ少し重いけれど、軽やかに歩ける」と感想をもらった。変化は静的な目標ではなく、動的なプロセスである。


CTIのコーナーストーン × ロルフィングの考え方

CTIのCornerstoneロルフィングにおける対応共通する原則
人は本来、創造的で全体的身体は自己組織化されており、制限を越えられる存在クライアントの内なる力を信じる
全体性に働きかける身体だけでなく、感情・空間・認知も含む「全体」に触れるWhole-person / Whole-beingアプローチ
協働のプロセス施術は対話であり、触れ方も共創的で即興的関係性のアート
人生は動的身体も常に流動的。統合とは「揺らぎに耐える柔軟性」Change is constant, and natural

ボディワークとコーチングの境界を越えて

ロルフィングとコ・アクティブ・コーチングは、 異なる技法を持ちながら、共に変容の本質=自己の力を信じること、そして関係性に根ざした共創に立脚している。

  • ロルフィングは身体からの対話であり、
  • コーチングは言葉からの身体性へのアクセスとも言える。

両者は、「変化は導かれるのではなく、現れてくる」という深い信頼から始まる。

次回予告

第3回は、CTIの3つの原則(Fulfillment / Balance / Process)と、ロルフィング10シリーズの各フェーズ(Sleeve / Core / Integration)との対応関係を探る。対応関係は、私の仮説になるが、参考になると思う。

参考文献

  • Henry Kimsey-House, Karen Kimsey-House, Phillip Sandahl, & Laura Whitworth (2018).
    Co-Active Coaching: The Proven Framework for Transformative Conversations at Work and in Life (4th ed.). Nicholas Brealey Publishing.
  • Jeff Maitland (2017). Embodied Being: The Philosophy and Practice of Manual Therapy. North Atlantic Books.

この記事を書いた人

Hidefumi Otsuka