【R#411】なぜ私は10年ぶりに料金を改定したのか── 身体を整えるから、認識を整えるへ

はじめに

この6月、ロルフィングのセッション料金を改定しました。10年ぶりのことです。

ずっと同じ料金で続けてきたので、「なぜ今になって?」と思われる方もいるかもしれません。それと同じくらい、自分でも「なぜ10年も変えなかったのだろう」と振り返っています。今日はそのことを、できるだけ正直に書いてみます。

変えなかった理由

変えなかった理由は、いくつか重なっています。

ひとつは、物価です。この10年、日本の物価はほとんど動きませんでした。据え置くことに、特別な無理はありませんでした。

もうひとつは、コロナ禍です。多くの人が体も暮らしも揺れていた時期に、料金を上げる気にはなれませんでした。

そして、アドバンスト・トレーニングを受けるのが、自分にとっては遅かったこと。ロルファーとしてもう一段深いところへ進む前に、料金だけを先に動かすのは、どこか順番が違う気がしていました。

では、なぜ今なのか

正直に言えば、経済的な判断がいちばん大きいです。物価が動きはじめ、10年の据え置きをこのまま続けるのは現実的ではなくなりました。そこは、飾らずに認めておきたいと思います。

ただ、それだけなら、わざわざここに書く気にはなりませんでした。

この10年で、延べ185名の方が、10回のシリーズを最後まで歩いてくださいました。そして何より、自分の手と理解が、はっきりと変わりました。ようやく「自分の中で納得できる」と言える手応えが育ってきて、ちょうどいいタイミングだ、と素直に感じています。

身体を整えるから、認識を整えるへ

この10年でいちばん変わったのは、私自身が「ロルフィングとは何か」をどう捉えているか、でした。

10年前の私にとって、ロルフィングは、こわばった体をほどき、姿勢や動きを整える仕事でした。それは今も変わりません。けれどこの数年、ある問いが手の中で少しずつ育っていきました。体が変わることと、その人の感じ方や生き方が変わることは、どこでつながっているのか——。

言葉にすると、私のなかの「ロルフィングの定義」そのものが、こんなふうに動いてきました。

2016年2026年
身体を整える認識を整える
身体を見る身体を通して人を見る
身体を楽にする身体・心・認識の統合を目指す
技術を提供する探究の場を提供する
身体に触れる人生に伴走する

左側が消えたわけではありません。姿勢が整うことも、症状がやわらぐことも、今も大切な入口です。ただ、その先に広がる景色が、はっきり見えるようになりました。

この転換点になったのが、2025年の春から夏にかけて受けた、アドバンスト・ロルファーになるための24日間のトレーニングでした。講師のRay McCallと田畑浩良さんが繰り返し説いていたのは、「変化を起こすこと(Making)」と「変化が起きる場を整えること(Letting)」のバランスです。

10年前の私は、どちらかといえば前者に偏っていました。技術で体を動かそうとしていた。けれど深い変化は、こちらが力でこじ開けるのではなく、その人の体が自分から動きなおせる“場”が整ったときに、ひとりでに起きはじめます。それを、頭ではなく手で理解できるようになりました。

同じ研修で、もうひとつ深く影響を受けた考え方があります。哲学者でロルファーでもあるJeff Maitlandが示した、ボディワークの三つのまなざし——「癒す(Relaxation)」「直す(Corrective)」「全体を整える(Holistic)」です。先ほどの表で右へ動いていく感覚は、ちょうどこの「全体を整える」へと重心を移すことと重なっていました。三つのまなざしについては、別の記事「ホリスティックの治療とは何か」に詳しく書いています。

これは、フッサールが「志向性(intentionality)」と呼び、メルロ=ポンティが「身体図式(body schema)」と呼んだもの——知覚と身体は切り離せない、という現象学の核心とも地続きの話です。私が手の中で感じていたことには、ずっと前から名前がついていたのだと、あとから知りました。

体がゆるむと、感じ方が変わります。床の感触、重力のかかり方、呼吸の深さ。そしてその先で、自分や世界の捉え方そのものが、すこし動きはじめます。だからこそ、セッションのあいだやその後を、どんなセルフケアでつないでいけばいいのかも、以前よりずっと具体的にお伝えできます。

同じ「1回のセッション」でも、その中身は10年前とは別のものになりました。料金は、その深まりに正直であろうとした結果です。

改定しても、変わらないこと

目の前の一人に、その日の体に、ていねいに向き合うこと。それだけは、最初の日から何ひとつ変わっていません。

新しい料金は6月15日から始まります。詳しい内容は、いまの自分に向き合う時間として──料金改定のお知らせにまとめました。気になることがあれば、いつでも声をかけてください。

この記事を書いた人

Hidefumi Otsuka