【R#354】ロルフィングとコーチングの交差点──「変容を支える在り方」の探究(第7回)〜全7回・CTIコーチングとの比較

はじめに

東京・渋谷でロルフィング・セッションと脳科学から栄養・睡眠・マインドの脳活(脳科学活用)講座を提供している大塚英文です。

全7回・全体のご案内

今回は、ロルフィングとCTI(Co-Active Coaching)という、一見異なる実践が、いかにして「変容」という共通のテーマに向き合っているのかを、7つの視点から紐解いてきた。

各記事は独立してお読みいただけますが、全体を通じて読んでいただくことで、「触れる」「問う」「聴く」「在る」という「変容」について多面的に見えるようになると考えている。

共通点:違う手法、同じ在り方

ロルフィングとコーチングは、一方は身体を媒体とし、他方は言葉と対話を媒体とする。

しかし、どちらも以下の原則を共有している

  • クライアントの中にある力を信じる
  • 変化は「起こす」ものではなく、「起きるのを支える」もの
  • プレゼンスと関係性が変容の本質を決定する

この意味で、ロルファーもコーチも、「何かをする人」ではなく、場を保ち、共に在る人であると言える。

神経科学者であり精神科医のDaniel J. Siegelは、The Developing Mind(3rd edition)にて「統合(integration)」について以下のように述べている。

“Integration creates a flexible, adaptive, coherent, energized, and stable (FACES) flow of energy and information.” (統合とは、柔軟で、適応的で、首尾一貫していて、活力に満ち、安定したエネルギーと情報の流れを生み出す)

― Daniel J. Siegel, The Developing Mind (3rd ed., 2020)

この視点は、まさにロルフィングが身体の構造を、CTIが人の内的経験を、「分離からつながりへ」と導く共通の意図を持っていることを裏付けている。

一方で、David Robsonは『The Intelligence Trap』において、知性とは単なるIQではなく、変化への柔軟性と自己修正の能力に根ざすという。

“Intelligent people can be blind to their own flaws if they lack the metacognitive skill to question their assumptions.” (賢い人であっても、もし自らの前提を問い直すメタ認知能力がなければ、自分の欠点に盲目になり得る)

― David Robson, The Intelligence Trap (2019)

これは、変容の場において「知っていること」よりも「開いていること」が重要であるという、ロルフィングとCTIの態度を支えるものである。

各回のまとめ

第1回:ニュートラルとプレゼンス

  • ニュートラルとは「非操作・非干渉の深い関与」
  • プレゼンスとは「空間全体に作用するBeingの質」

第2回:4つのコーナーストーン

  • 人は創造的で、全体で、変化し続ける存在
  • ロルフィングも身体を「秩序と可能性の場」として扱う

第3回:3つのPrinciplesと10シリーズの対応

  • Fulfillment → Sleeve
  • Balance → Core
  • Process → Integration

第4回:セッション間のプロセスの持ち方

  • CTIはForwardを明示して行動に落とす
  • ロルフィングは余白の中で自然な変容を信頼する

第5回:関係性の質とセッション構造

  • CTIは対話で関係性を明示的にデザイン(Designed Alliance)
  • ロルフィングは非言語的な触れ方で信頼を育む(Right Relationship)
  • セッション構造:CTIは Design → Explore → Forward /ロルフィングは Sleeve → Core → Integration

第6回:スキルの比較(CTIの5スキルとロルフィングの技法)

  • Listening, Intuition, Curiosity, Forward/Deepen, Self-Management
  • それぞれに対応する「触れ方」と「在り方」が存在し、実践例も紹介した。

言葉と身体、対話と触れ方の橋を架ける

この連載で明らかになったのは、ロルフィングとCTIは手段の違いを超えて、同じ哲学に根ざしているということ。

  • コーチングは、身体性への言語的なアクセスである
  • ロルフィングは、言葉にならない身体の対話である

両者が交わる点には、以下のような価値がある。

共通する本質コーチングの言語ロルフィングの身体性
プレゼンス傾聴、沈黙、Being WithListening Touch、空間保持
意図の放棄Fixしない姿勢Right Action、共鳴
信頼クライアントの資源を信じる身体の自己組織化を信じる

誰に、どちらが適しているか?

この探究の中で自然と浮かび上がってきたのは、コーチングとロルフィングのどちらが今の自分に合っているのか?という問いだ。

以下にいくつかの指針を紹介したい。

コーチングがより適している人

  • 内面の思考や感情のパターンを言語化して整理したい
  • キャリアや人間関係の選択肢に迷っており、方向性を明確にしたい
  • 会話を通じて自分自身とのつながりを深めたい
  • 日常生活の中で「行動」に変化を起こしたい

ロルフィングがより適している人

  • 言葉では捉えきれない身体的な不調・違和感を抱えている
  • 姿勢や動き、呼吸などに変化を起こしたい
  • 深いリラックス状態やプレゼンスを体験したい
  • 身体感覚を通して「Being」にアクセスしたい

そして、多くの人にとって大切なのは、「今、どちらが必要か」を感じ取りながら、ときに両方を補完的に使う柔軟性なのかもしれない。


まとめ:私たちは「何をするか」より、「どんな場で共に在るか」によって変わる

変容とは、意図と行動、知覚と感受、思考と構造の統合された体験。そのためには、テクニックよりも「在り方」が求められる。

✨「触れる」とは、「共に居ること」。
✨「問いかける」とは、「相手の命に耳を澄ますこと」。

この全7回の連載が、言葉と身体、内面と外側、DoingとBeingの間に架け橋をかける一助となれば幸いです。


参考文献

  • Henry Kimsey-House, Karen Kimsey-House, Phillip Sandahl, & Laura Whitworth (2018). Co-Active Coaching: The Proven Framework for Transformative Conversations at Work and in Life (4th ed.). Nicholas Brealey.
  • Jeff Maitland (2017). Embodied Being: The Philosophy and Practice of Manual Therapy. North Atlantic Books.
  • Dr. Ida Rolf (1977). Rolfing: Reestablishing the Natural Alignment and Structural Integration of the Human Body for Vitality and Well-Being. Healing Arts Press.
  • Daniel J. Siegel (2012). The Developing Mind: How Relationships and the Brain Interact to Shape Who We Are(2nd ed.). The Guilford Press.
  • David Robson (2019). The Intelligence Trap: Why Smart People Make Dumb Mistakes. W. W. Norton & Company.

この記事を書いた人

Hidefumi Otsuka