【R#389】「力を抜く」ということ①──自然と力を抜く3つの方法のご紹介

はじめに

こんにちは。渋谷でロルフィング・セッションを提供している大塚英文です。

身体を整えることを考えている方、身体を使うことたちに知っておいて欲しいことがあります。

それは「力を抜くこと」です。

これは単なる脱力やリラックスの話ではありません。
「なぜロルフィング・セッションを受けると、うまく力を抜くことにつながっていくのか?」という問いにも深くつながる、身体を理解する上での根幹にあるテーマです。

ヨガで出会った「抜ける」感覚

私はヨガを長年実践する中で、何度も「力が抜ける瞬間」を体験してきました。
力が抜けると、背筋が自然に伸び、胸が開き、呼吸が深くなる。
呼吸が深くなると、心が穏やかになり、リラックスが訪れる──。

こうした体験を通して、
「力を抜くことは、心身の調和に欠かせない」と実感しました。

しかし、いくつかの指導者養成コースに参加しても、
なぜ“抜ける”のかという理論的な裏づけには出会えませんでした。
「どうすれば抜けるのか」を、身体の構造や神経の仕組みから理解したい。
そんな思いから、私は西洋のボディワークの世界へと歩を進めていきます。

アレクサンダーテクニックとの出会い──「やめること」を学ぶ

最初に出会ったのが、アレクサンダーテクニックでした。
これはオーストラリア人の舞台俳優フレデリック・マサイアス・アレクサンダーが開発したメソッドで、
頭と背骨の関係性に注目し、身体が無意識に行っている不要な緊張をやめることを学ぶ手法です。

この方法を身につけることで、ヨガのポーズが驚くほど取りやすくなりました。
それは、何かを「する」ことではなく、今まで無意識にしていた“力み”を手放すことによって、
身体が本来の自由を取り戻していく体験でした。

この出会いが、ロルフィングへの道を開くきっかけになります。

ロルフィングへ──構造から「抜ける」身体をつくる

ロルフィングは、生化学者アイダ・ロルフ(Ida Rolf)によって体系化されたボディワークです。
ロルフ、アレクサンダー、モシェ・フェルデンクライスは、
「西洋のボディワーク三大巨匠」と呼ばれるほど、互いに影響を与え合った人物たちです。

ロルフィングでは、筋膜(fascia)に働きかけ、
重力との関係性を再構築することで、身体が自然に整うことを目指します。

10回シリーズは、次のように構成されています。

  • 第1〜3回:表層へのアプローチ──呼吸・胸郭・脚などのスペースを広げる
  • 第4〜7回:深層へのアプローチ──体幹や骨盤底など、深い支えを取り戻す
  • 第8〜10回:統合のプロセス──全身の調和を回復する

このプロセスを経ると、筋肉の余計な緊張が減り、
「支えられながら抜ける」という感覚が生まれます。
つまり、ただゆるむのではなく、「抜いても崩れない身体」をつくるのです。

力を抜くための3つの原理

「抜ける身体」とは、単にリラックスした状態ではありません。
それは、神経・筋肉・構造の連携が整い、
身体が“自然に抜けていく”プロセスを取り戻すことです。

ここで、ヨガとボディワークの両方から導かれる、
力を抜くための3つの原理を見ていきましょう。

① いったん力を入れてから抜く──筋肉と神経のリセット

「力を抜こう」と意識するほど、かえって力が入ってしまう経験はありませんか?
これは、脳が“抜く”という命令を出すとき、
同時に「コントロールしよう」として別の筋肉を緊張させてしまうためです。

そこで有効なのが、いったん力を入れてから抜くという方法。

たとえば肩をぐっと上げて5秒キープし、息を吐きながらふっと下ろす。
この瞬間、筋肉に備わる感覚受容器(筋紡錘・ゴルジ腱器官)が刺激され、
神経系が「いまは休んでいい」と判断して、自然に緩みが起こります。

つまり、抜くとは、がんばって脱力することではなく、
動きの中で“自然にオフになる瞬間”を体験すること
なのです。

② 拮抗筋(相反する筋肉)の働きを使う──バランスが抜けを生む

身体の動きは常に「拮抗筋」と呼ばれるペアで成り立っています。
一方の筋肉(主動筋)が縮むとき、反対側(拮抗筋)はゆるむ。

たとえば、肘を曲げるときは上腕二頭筋(力こぶ)が働き、
同時に上腕三頭筋(腕の裏側)がゆるむ。
このバランスのやり取りが、力の抜けた滑らかな動きをつくっています。

しかし、日常的なクセやストレスで、
どちらか一方が常に緊張していると、もう一方も引きずられて硬くなります。
結果として、関節の動きが詰まり、「力を抜く」ことが難しくなるのです。

ヨガやロルフィングでは、
この拮抗関係を回復する練習を行います。

たとえば、

  • 太ももの前が張りすぎている人は、裏側(ハムストリングス)を使う感覚を取り戻す
  • 肩を上げてしまう人は、背中側の肩甲骨を下げる筋群を働かせる

こうして筋肉同士が“協調的に働く”ことで、
力を抜ける方向が身体の中に自然に生まれていくのです。

③ 中心軸(センター)を意識する──抜くための支えを思い出す

多くの人が「力を抜けない」のは、
抜くための**支え(サポート)**を感じられていないからです。

身体の真ん中には、頭頂から骨盤を通り、足裏へと続く「中心軸(センター)」があります。
この軸が感じられると、外側の筋肉は安心して“支える役割”を手放すことができます。

ヨガではこれを「スシュムナー・ナディ(中心のエネルギーの通り道)」、
ロルフィングでは「Gravity Line(重力線)」と呼びます。

中心を感じることは、重力に逆らわず、
むしろ重力を信頼して身体を預けることでもあります。
この「下に委ねる感覚」があると、
上半身は自然に伸び、首や肩の力も抜けていくのです。

軸を意識することは、単に姿勢を整えるだけでなく、
心理的な安定や、内面的な“安心感”にもつながります。

まとめ:抜ける身体とは、委ねる身体

「力を抜く」とは、何もしないことではなく、
“支えに委ねる”ことを学ぶことです。

地面に預け、重力を感じ、呼吸のスペースを取り戻すと、
身体は自然に整っていきます。

アイダ・ロルフは言いました。

“When the body gets working appropriately, the force of gravity can flow through.
Then, spontaneously, the body heals itself.”
(身体が正しく働くようになれば、重力の流れが通る。そのとき、身体は自然に癒されていく。)

ロルフィングの本質は、まさにこの「重力の流れを取り戻すこと」。
その最初の一歩が、「力を抜く」という行為に他なりません。

次回予告

次回は、この「力を抜く」感覚をさらに深めて、
空間(スペース)を感じることがどのように身体の変化をもたらすのかを見ていきます。
力が抜けるとは、単にゆるむことではなく、
“身体の中に空間をつくる”ことなのです。

この記事を書いた人

Hidefumi Otsuka