セッション中に言葉が消える瞬間──身体が動き出すのを、ただ待つということ

はじめに

どういうわけか、頭ではリラックスしていると思っていても、身体は緊張を保ち続けていることがある。なぜなんだろうか?

「力の抜きかたが分からないんです」
「なぜ、こんなに力が入っているのか分からなくて」

腰痛や肩こりを抱えて来られる方から、よく聞く言葉である。多くの場合、本人は意識的に力を入れているわけではない。むしろ「できれば抜きたい」と思っている。

それでも身体は、同じ場所に力を入れ続け、痛みやこわばりとしてサインを出し続けている。

更に、別のブログでは、身体が「NO」と言っているのに、それを無視してしまうとき、症状は最後に残されたメッセージになるかもしれない、ということについても書いた。

今回は、そのさらに奥にある体験について書きたい。セッション中に、言葉が消える瞬間についてである。

力を抜こうとしても、抜けない身体

セッションを始めると、「力の抜きかたが分からない」と感じている身体には、いくつか共通した特徴が見えてくる。

  • 意識が身体から離れ、頭のほうに集まっている
  • 足先が冷たく、床を踏んでいる感覚が薄い
  • 重心が前にあり、身体がわずかに前のめりになっている
  • 骨盤が前傾し、腰や肩まわりに持続的な緊張がある

本人は力を入れている自覚がなくても、身体は「支え続ける姿勢」「頑張り続ける姿勢」をやめられていない。

この状態では、「力を抜いてください」と言われても、どこを、どう抜けばいいのかが分からないのは自然なことである。

「分からない」のは、感覚が悪いからではない

腰や肩に慢性的な緊張がある人ほど、次のような言葉を口にすることが多い。

  • 「ここに力が入っている感覚がない」
  • 「触られても、よく分からない」
  • 「昔からこんな感じなので、これが普通だと思っていました」

これは感覚が鈍いのではない。長い時間をかけて、その緊張と一緒に生きてきた結果である。

過去のストレス、環境への適応、無意識の踏ん張りや我慢。そうしたものが積み重なり、身体は「力を入れ続ける状態」を安全な選択として覚えてきた。

だからこそ、理由が分からないまま力が入っている、という感覚が生まれる。

ある筋膜に触れ、ただ待つ

ロルフィングのセッションでは、ある筋膜の部位に手技でアプローチする。

しかし、そこで「変えよう」とはしない。ただ触れ、その部位が「動きたい」という意思を持つまで待つ。

やがて、身体が動き出したい方向へと、ゆっくり動き始める。まるで、沈黙していた部位が、暖かみを持って目を覚ますかのような感覚である。

その瞬間、クライアントの言葉が消える。全く、説明も、分析も、いらなくなるのだ。

「リリース」という言葉への違和感

筋膜リリースという言葉がよく使われる。

しかし「リリース」という言葉には、どこか施術者優位の響きがある。

施術者が緩める。
施術者が治す。
施術者が変える。

しかし実際に起きていることは、違う。

必要な動きも、
必要な位置も、
必要な答えも、

クライアントの身体が、自ら見つけている。

施術者はニュートラルになる。方向を決めない。急がせない。

ある意味では、リソース(治療に必要な力)はクライアントの側にある。身体はホリスティックに整う力を持っている。

ホリスティックな力とは、身体は単なる部品の集まりではなく、「関係性の網の目」として捉えられる。介入の目的は、部分ではなく全体の秩序と調和を取り戻すことになる(詳しくは「ホリスティックの治療とは何か?〜「パラダイム」から問い直す──Relaxation(癒し)/Corrective(矯正)/Holistic(全体)」参照)。

安心・安全な場が整ったとき

施術者が整えるのは、「変えてやる」ことではない。

安心して変化してもよい環境である。安心と安全が感じられたとき、筋膜は勝手に動き出す、と言っていい。

動き出した結果として、身体に空間(間・スペース)が生まれる。

スペースが生まれると、余計な緊張がほどけていく。鎧が、少しずつ外れていき、身体が徐々に自由になっていくのだ。

鎧が外れると、何が起きるのか

徐々に鎧が外れてくると、マインド(頭)で自己防衛する必要がなくなる。

すると、心(感情)や身体感覚が、前に出てくる。

言葉が減る。沈黙が生まれる。しかしその沈黙は、何も起きていない時間ではない。

むしろ、もっとも深い調整が起きている時間である。

1〜3回、4〜7回のプロセス

ロルフィングでは、1回から3回にかけて、身体をガチガチに守っている外側の筋肉(鎧)へアプローチし、スペースが生まれるようにセッションを行っていく。

4回から7回にかけては、中心軸を整えるため、深層の筋肉へと探究を進めていく。この過程の中で、身体の鎧と同時に、マインドの鎧も外れていく。

すると、物事を頭だけでなく、感情や身体感覚で捉えられるようになる。その間に訪れる沈黙を、私は何度も見守ってきた。

あの時間が、予想できない身体の変化が、とても神秘的であり、面白い。

力が抜け始めると、身体の使い方が変わる

腰や肩の変化と同時に、次のような声が聞かれることがある。

  • 「立っているのが楽です」
  • 「肩が下がった感じがします」
  • 「無意識に力が入っていたことに、初めて気づきました」

これは、痛みだけが取れた、という話ではない。身体全体の使い方が変わり始めているサインである。

力が抜けるとは、だらけることでも、姿勢が崩れることでもない。必要なところに、必要なだけ力を使える状態である。

言葉が消えるとき

頭で整理された言葉と、体験の言葉は同じではない。身体がNOと言っているのに無視しているとき、言葉は多い。

しかし、身体が動き出す瞬間、言葉は消える。

説明がいらなくなる。

そのとき、判断は頭で作るものではなく、内側から浮かび上がるものになる。

おわりに

セッション中に言葉が消える瞬間は、施術者が何かをした瞬間ではない。

クライアントの身体が、自分で動くことを選んだ瞬間である。

私は、その沈黙を見守る立場にいる。

身体は、安心とスペースがあれば、自ら整う。その事実に、何度立ち会っても驚かされる。

もし今、

  • 腰や肩の力を抜きたいのに、やり方が分からない
  • なぜ緊張しているのか、自分でも分からない
  • 何度も同じ痛みを繰り返している

そんな状態が続いているなら、一度、身体の側からその理由を確かめてみるのも一つである。

セッションで実際に何を行い、どのような流れで身体を見ていくのかについては、下記のページで詳しく紹介している。

▶︎ ロルフィング – 施術の流れ

この記事を書いた人

Hidefumi Otsuka