はじめに
東京・渋谷でロルフィング・セッションと脳科学から栄養・睡眠・マインドの脳活(脳科学活用)講座を提供している大塚英文です。
今回は、人間が他の動物と違い、長い時間「走ること」ができることについて、面白いことがわかっているのでご紹介させていただきたい。
「歩く」「走る」は違う筋肉を使う
人間の特徴は「二足歩行」、いや正確には直立した状態で二足歩行する「直立二足歩行」に特徴がある、と以前「歩くこと」について書いた時に取り上げた。
ダニエル・リーバーマン著の「運動の神話(下)」によると、「歩くこと」と「走ること」では、違った筋肉を使うらしい。歩くときには、少なくとも片方の足が常に地面に接地しており、重力の力を使って逆さまの振り子のような働きをし、一歩踏み出すごとに、身体は山のような形を描いでその上を乗り越える。
一方で、「走る」ときには、足はホッピング(飛び跳ねる、バネのような棒になるイメージ)のように動き出す。身体の重心は、一歩踏み出したときに、上昇する代わりに、腰、膝、足首が曲がるにつれて下降する。これらの関節を曲げると、足の腱(特に、アキレス腱→人間は他の動物とは違いアキレス腱が長い)が伸びて、バネのように動く。
後半には、この腱が反動すると同時に、筋肉が収縮して関節を伸ばし、身体を宙に押し上げる。その間、身体は、やや前傾になり、肘、膝などが曲がり、腕は脚と反対側に動く。「走る」とは、片方の足から片方の足へ、飛び移ることと考えるとわかりやすい。
長く走れるには?①〜アキレス腱、土踏まずは弾性を持つ
人間の面白いところは、二足で長く走ることができることだ。人間の足にはアキレス腱のような長くて弾性のある腱が備わっているだけではなく、足裏にも土踏まずに沿うようにバネが備わっている。腱は歩いているときは必要がないが、「走る」ときにはバネの役割を果たす。
カンガルーや鹿を含め「走る」のが得意な動物は、弾性を持つ長い腱があるが、類人猿は、腱が短い。要は、人間は長い腱を独自に進化させたと言えるのだ。このように考えると、アキレス腱のゴムバンドのように伸び縮みしていると言えることから、早く進む(スプリント)ではなく、遠くへ行く(走る)ために備えたものといってもいい。
長く走れるには?②〜大量の汗をかけること
次に、興味深いのは、汗だ。より遠くへ行くために、人間が獲得した最も重要で特殊な能力は、大量の汗をかくこと。「走る」と、体温を大幅に上昇する。冬は快適だが、高温多湿な条件下では、危険。熱を逃す必要があるか、「走る」のを止める必要がある。
皮膚から汗が出ると、熱がうまく逃げて、皮膚が冷えるのだ。ほとんどの動物は、浅速(せんそく)呼吸(短く浅い呼吸)を行って、喉と舌の唾液を蒸発させることで、熱を逃す。周辺の皮膚が冷やされ、その下にある静脈が冷やされて、血液循環で全身が冷やされる。問題なのは、舌、口、鼻など表面積はわずかなのだ。
人間は、手足、胸部に500万から1000万におよぶ汗腺を持っており、体毛も薄くなっていることから、空気が皮膚の表面を自由に移動。熱を素早く放出できる。なんと、人間は、1時間「走る」と、1リットル(あるいはそれ以上)の汗をかく。
長く走れるには?③〜心臓のポンプ能力、遅筋
更に、類人猿のような小さくて厚い心臓ではなく、大きく弾性のある心室を進化。大量の血液を効率よく送りと溶けることができる。そのため、脳へ精密に血液を供給でき、運動において、脳を効率よく冷やすことが可能。そして、人間の足の筋肉には、疲労に強い遅筋が50〜70%含まれていて、11〜13%しかないチンパンジーより多い。
長く走れるには?④〜「走る」スピードのピークは?
最後に、クリストファー・マクドゥーガル著の「BORN TO RUN:走るために生まれた」には、走ることについて興味深いことが書かれている。
2004年のニューヨーク・シティ・マラソンが開催された際に、年齢別のタイムの比較が行われ、わかったことがあったそうだ。19歳を振り出しとして、ランナーは毎年早く走れるようになり、ピークの27歳を迎える。その後、タイムは落ちるが、64歳の時に、19歳の時のスピードに戻るというのだ。
そう考えると、人間は長く走ることが得意と考えてもよく、同書に書かれているように
「年をとるから走るのをやめるのではなく、走るのをやめるから年をとる」
といってもいい。
実は、西洋における現代病(心臓病、脳卒中、糖尿病、うつ、がんを含む)は、われわれの祖先は知らなかったそうだ。当時は医療がなかったが「足を動かすこと」という、特効薬があったのだ。
「走る」とロルフィング〜足裏に注目してセッションする
以前、ロルフィングでは「筋膜」に注目すると書いた。筋膜は、筋肉、内臓、骨、神経を含めた身体の各部位を配置し、身体のエネルギーを効率よく使えるようにする、いわば「姿勢」にとって大事な臓器だ。
ロルフィングは、10回のセッションから構成されているが、2回目に「足裏」を含め、足を効率よく動かすために必要な「筋膜」を整える。
「では、なぜ足裏なのか?」
実は、足裏が緊張していると、背中にある腰、肩、首まで、緊張する。逆に、緩めると背中全体が緩むからだ。
実際、
1)土踏まずを含めた足裏全体の筋肉を使える状態に緩める
2)下半身全体と足裏とのつながりの意識を強化する
3)足裏から上半身(背骨)の意識をつなげる。
を意識しながら行う。
足裏のセッションを受け終わること、足裏が地面に吸い付くような状態になるので、つま先と踵のバランスが改善していく。同時に、走りやすいという実感が湧いてくるといってもいい。
まとめ
今回のブログでは、なぜ、人間は長い時間走ることができるのか?を中心にまとめさせていただいた。そして、ロルフィングの特徴である、筋膜へアプローチすることで、なぜ、効率よく走ることができるようになるのか?も紹介した。
少しでも、この投稿が皆さんに役立つことを願っています。