はじめに
東京・渋谷でロルフィング・セッションと脳科学から栄養・睡眠・マインドの脳活(脳科学活用)講座を提供している大塚英文です。

人が変化していくプロセスをどう支えるか?〜ロルフィングとコーチングから考える
ロルフィングとコーチング──一見、まったく異なる実践領域のように見える。 前者は身体を扱い、後者は言葉を扱う。しかし、その本質にあるのは共通の問いだ。
“人が変化していくプロセスを、どう支えるか?”
私は、CTI(The Coaches Institute)のCo-Active Coaching(以下コーチング)を2009年に学んだ。コーチングのスキルを追究して行く中で、ロルフィングに出会った。お互いに異なるように見える2つの手法。
いずれも共通しているのは「変容」という共通テーマに向き合っている点だ。今回、ロルフィングとコーチングについて以下の7つの視点から紐解いていくことにする。
- 【第1回】ニュートラルとプレゼンス
- 【第2回】4つのコーナーストーン
- 【第3回】3つのPrinciplesとロルフィング10シリーズの対応
- 【第4回】セッション間のプロセスの持ち方
- 【第5回】関係性の質(Designed Alliance / Right Relationship)
- 【第6回】スキルの比較(CTIの5スキルとロルフィングの技法)
- 【第7回】総括
全体を通じて、「触れる」「問う」「聴く」「在る」という多面的に「変容」について考えていきたい。身体から働きかけるロルフィングと、言葉を通して深層に触れるコーチングを比較することで、人の変容とは何か、考えるきっかけになれると確信している。
第3回は、CTIの3 Principles(Fulfillment / Balance / Process)は、ロルフィング10シリーズの3つの構造段階(Sleeve / Core / Integration)を比較した上で、自分なりの仮説を考えてみたい。
ロルフィング10セッションの考え方
Dr. Ida Rolfは、身体を静的な形ではなく、重力との動的関係の中で自己を保持する存在と捉えた。
“In human structure, there is a superficial sleeve, and there is a core… The sleeve is made up of the outer layers of myofascia. The core comprises the more interior structures.”
「人間の構造には、表層(スリーブ)とコアがある。スリーブは外側の筋膜層で構成され、コアはより内側の構造を指す」
— Rolfing, p. 56
“In order to have order, there must be balance between the sleeve and the core. But true integration is something more: it is the body as a whole relating to gravity in a dynamic, adaptable way.”
「秩序を得るためには、スリーブとコアの間にバランスがなければならない。しかし真の統合とは、それ以上のものであり、身体全体が重力と動的かつ適応的に関係している状態である」
— Rolfing, p. 66
ロルフィングの身体の整え方とCTIの3 Principlesが示すBeingの変容の道筋は、以下のように対応しているのではないかと思う。
CTIの3 Principles × ロルフィング10シリーズ
CTIのPrinciple | ロルフィングのフェーズ | 身体構造視点 | 共通のテーマ |
---|---|---|---|
Fulfillment | セッション1〜3 | Sleeve(表層) | 呼吸・接地・世界との接点の再構築 |
Balance | セッション4〜7 | Core(深層) | 中心から選ぶ/内的方向性の回復 |
Process | セッション8〜10 | Integration(統合) | CoreとSleeveの協調・自由な自己表現 |
各フェーズの意味と引用を交えた解説
1. Fulfillment(フルフィルメント) × Sleeve(1〜3回)
呼吸と世界に開かれた身体感覚
『Co-Active Coaching(4th ed.)』では、Fulfillmentとは次のように定義されています:
“Fulfillment is the experience of living a life grounded in what matters most.”
「フルフィルメントとは、最も大切な価値に根ざした人生を生きる体験である」
— Co-Active Coaching, p. 13
この体験には、自己とのつながりの回復が不可欠。
ロルフィングでは、セッション1〜3で「呼吸(セッション1)・接地(セッション2)・身体の輪郭(セッション3)」など、Sleeve(表層)構造を自由にする。このように、クライアントは初めて「世界に開かれた身体」として自己を感じられるようになる。
共通点:本当の願い・価値・方向性は、「感受性のある身体」なしには立ち現れない。
体験談:
「初回のセッション後、久しぶりに身体が軽くなった感覚がありました。呼吸がしやすくなり、周囲とのつながりを感じるようになりました」
― クライアントA
2. Balance(バランス) × Core(4〜7回)
中心軸から選ぶ自由と方向性
“Balance is the ability to consider a situation from multiple perspectives, to make powerful choices, and to take decisive action.”
「バランスとは、複数の視点から状況を考慮し、力強い選択を行い、果断な行動を取る能力である」
— Co-Active Coaching, p. 14
これは、視点と選択肢の自由度が増すことで、意図的に人生をデザインできる状態。
ロルフィングでは、セッション4〜7で、Core(中心軸)を作り上げることで、身体が重力と共に立つ感覚を呼び起こす。中心軸を整えることこそ、意識的に「内的選択」を行う上で、一つの支えになっていく。
共通点:中心があるからこそ、選ぶことができる。行動が「内なる意志」に根ざすようになる。
体験談:
「中盤のセッションを通して、内側の安定感が増しました。迷いが減り、自分の本音に従って行動できるようになりました」
― クライアントB
3. Process(プロセス) × Integration(8〜10回)
揺らぎの中で居る力、全体性として動く力
“Process is the ability to be with what is, to stay present to emotional experience, and to allow the unfolding of life.”
「プロセスとは、今ここにあるものと共に在り、感情体験に開かれ、人生の展開に身を委ねる力である」
— Co-Active Coaching, p. 15
ここでは、「解決」ではなく、「居る」ことそのものが力とみなされます。
ロルフィングでも、セッション8〜10で行われるのはCoreとSleeveの動的な統合であり、
固定された理想形ではなく、変化の中で全体性を保つ能力の育成です。
“True integration is not a fixed posture but a dynamic adaptability to gravity.”
「真の統合とは、固定された姿勢ではなく、重力に対する動的な適応力である」
— Rolfing, p. 68
共通点:統合された存在とは、変化を恐れず、変化の中に居続けられる力そのもの。
体験談:
「10回目が終わったとき、身体全体がつながっている感覚がありました。動きも自然で、変化に対しても穏やかでいられるようになりました」
― クライアントC
まとめ:統合とは、全体として「今、ここに在る力」
Ida Rolfが語ったように:
“Integration is not an end-state. It is a capacity to relate.”
「統合とは最終形ではない。それは“関係する力”である」
— Rolfing, p. 70
そしてCo-Active Coachingも、変容とは「Being」と「関係性」から始まることを繰り返し強調する。変化とは、「整えること」ではなく、「世界と調和しながら自己を生きること」につながる。
次回予告
第4回は、セッションとセッションの間の“プロセスの持ち方”に焦点を当て、 CTIにおけるForward & Accountabilityと、ロルフィングにおける自己組織化プロセスの違いを比較します。
参考文献
- Dr. Ida Rolf (1977). Rolfing: Reestablishing the Natural Alignment and Structural Integration of the Human Body for Vitality and Well-Being. Healing Arts Press.
- Henry Kimsey-House et al. (2018). Co-Active Coaching: The Proven Framework for Transformative Conversations at Work and in Life (4th ed.). Nicholas Brealey.
- Jeff Maitland (2017). Embodied Being: The Philosophy and Practice of Manual Therapy. North Atlantic Books.