なぜ「重力」があるのに、姿勢を維持できるのか?

はじめに

私は、2015年6月から、ロルフィングのセッションを提供している。「筋膜」へアプローチすることで、身体の姿勢が整えていく。ロルフィングで見る姿勢は「歩く」「立つ」「座る」の3つだ。

地球には「重力」があるにも関わらず、なぜ「姿勢」を維持することができるのだろうか?今回はこの点に関して「固有受容感覚」「前庭感覚」と、「筋紡錘」「γ運動神経系」から解き明かしていきたい。

この記事は2024年2月に書いたものに、同じ時期に書いた2本の内容を加えて、一本にまとめ直したものである。重力とは物理学から見て何なのか、そして3つの情報収集の仕組みがどう働いているのかを、書き足した。

そもそも「重力」とは何か?〜古代ギリシャ

地球上のすべての人間が感じる「重力」。あまりにも当たり前すぎて、意識することがないかと思うが、物理学では「重力」をどのように捉えているのだろうか。大栗博司博士の「重力とは何か:アインシュタインから超弦理論へ、宇宙の謎に迫る」を参考にまとめてみたい。

重力の歴史は、古代ギリシャから始まる。アリストテレスは、物質には「本来の場所に戻る性質」があると考えた。要は、上に投げた石も本来の場所(地面)に戻るという意味で使っており、力が働いているとは考えていなかった。

当時のアリストテレスは、四つの元素(火・風・土・水)で世界を説明しており、このうち土の成分の多い物体ほど地球の中心に戻ろうとして早く落ちると想定。一方で、天体(太陽、月、星)は、周期的な動きを繰り返すが「本来の場所」を持っていない。天界は、第五の元素(エーテル)からできていて、地上とは違う法則によって支配されていると考えた。

アイザック・ニュートンの登場〜重力を体系化

中世まで支配していた、アリストテレスの考え方は、アイザック・ニュートンの登場によって変化。

物体の運動を変えるのは「力」であることを定義し「力学」という形で、以下のように体系化する。

1)力が何も働いていなければ、物体の運動が変化しない(慣性の法則)
2)力が働くと、運動の方向や速度が変化する(運動の法則)
3)押す力があると、押し返される力が生まれる(作用・反作用の法則)

このような形で、物体が地面に落ちる現象を「力」の働きで説明することができるようになった。つまり、地球からの引力という「力」(重力)によって石の運動が変化するという訳だ。

さて「重力」には5つの特徴があるので、以下説明したい。

特徴①〜重力は、地上と天界共通に働く

ニュートンの凄さは、重力(引力)は「万有」であり、地球上と天界と共通して働くことを解明したことだ。つまり、天界の太陽、月、星もお互いに引力で引っ張り合う、そのことで運動をしていることを明らかにしたのだ。そして、地上と天界には、同じ「力」が働いているということで、理論的に統一させることに成功する。

特徴②〜重力は、電気・磁気の力に比べ弱い

興味深いことに、ニュートンは「力」がなぜ生まれるのか?説明することができなかった点だ。実際、実験によって地上の物質同士に重力が働くことを証明したのは、18世紀の終わりと、100年かかることになる。

なぜ解明に時間がかかったかというと、重力は「弱い」力だからだ。この「弱い」とは電気・磁気の力に比べてだ。実際、テーブルの下に磁石をつけると、重力がかかっても落ちてこないことから、強いことが感覚的にご理解できると思う。

弱い力なのに、なぜ人間は「重力」を意識できるかというと、「重力」は「引力」だけで「斥力」がないかと言われている。一方で、電気、磁気は両方ある。

特徴③〜重力は、遠いところでも働く(遠隔力)

そして、何と「重力」は「離れている物体」を動かす力(遠隔力)を持つのだ。普通、ものを動かそうと思っても、物を手で押すか、歯車を使うなどで、直に触れて力を伝える必要がある。興味深いことに、磁石、重力は、離れたものを動かすことができる。例えば、リモコンとテレビに働くのが遠隔力。

実は、昔の人は「遠隔力」は「神秘的」なものであり、そんなものありえない!と考えていた。駿台予備校講師であり、科学歴史家の山本義隆著の「磁力と重力の発見」によると、磁石の力への理解が深まるにつれて、重力の考え方が徐々に受け入れられたことを歴史的観点から解明しており、世間的にどのように「遠隔力」が受け入れられてきたのか、知る上で好著になっている。

特徴④〜重力は、すべての物質に等しく働く

「重力」の特徴は、重いものと軽いものは同時に地面に落ちる。ということは、すべての物質に等しく働くことだ。普通は、重い物体ほど「地球に引っ張られる力」は強いが、実際、空気抵抗のない場所では、重さに関係なく、物体は同じ速度で落ちるのだ。理由として、「動かしにくさ」=重さ(質量)と「重力の強さ」という2つがピッタリとキャンセルされる為、このようなことが起こる。

特徴⑤〜重力の理論は発展途上

重力の理論は、アインシュタインの一般相対性理論によって発展したと考えられている。物体の質量(重さ)により空間が曲がる。空間が曲がることによって「重力」という引力が働く、更に、空間だけではなく、時間、光も曲がる等。しかしながら、それ以上のことがわかっていなく、しかも、重力を含めた統一理論は未だ確立していない。

我々人間は、母親から人間が誕生すると、真っ先に感じるのは「重力」であり、「重力」との関係を構築し、胎児から成人へ発達していくにつれ、姿勢を整えていくのだ。では、その「重力」の下で、身体はどのように姿勢を保っているのか。

「姿勢」と人間〜「姿勢反射」から「固有受容感覚」「前庭感覚」「視覚」へ

1915年から1930年にかけて、SherringtonとLiddellは「立つ」姿勢には、重力によって身体を押し潰されないように、重力に対抗して働く「抗重力筋」が働くこと。「抗重力筋」は、身体の「姿勢」を適切に維持し、反射的に働く「姿勢反射」(postural reflex)によって支配されていることを明らかにした。

1934年には「姿勢反射」は、脳(脳幹と小脳)の働きによって決まることが明らかとなり「姿勢」と「姿勢反射」との関係は、一見解決したかのように見えた。

1986年に入り「姿勢」のバランスを維持するために、固有受容感覚(Proprioception)、前庭感覚(Vestibular)、視覚(Visual)の重要性も明らかになってきた。特に、固有受容感覚、前庭感覚は、灰谷孝さんの「人間脳を育てる〜動きの発達&原始反射の成長」によると、無意識を育てることにつながるという。

視覚は、目から入ってくる情報で、姿勢に関わるということは、理解できると思う。一方で、固有受容器と前庭感覚については、意外とわかりにくいので、わかりやすく解説しているので、身体感覚について上手に表現している灰谷さんの本を元に、考え方を紹介したい。

「固有受容感覚」とは?〜私はどこにいるのか?教えてくれる感覚

固有受容感覚は、関節・筋肉の動きを脳に伝える感覚。「姿勢」においては、指先、足の裏、膝など、身体の全部の位置がどこにあるのか?を感知している。灰谷さんによると、固有受容感覚が弱いと、障害物の距離の取り方が掴めず、ぶつかる、人間の距離の取り方にも影響することや、私は誰か、どこにいるのか?を教えてくれる感覚だそうだ。

「前庭感覚」とは?〜自分の中心軸の意識、主体性を発揮

前庭感覚は、身体をまっすぐに保つのに必要な感覚。身体の中心軸を整えることで、この感覚が意識できる。ロルフィング10回を受ける目的は、この感覚を取り戻すこと。灰谷さんによると、重力の中で自分の身体を自由に使えることが、自分の能力を発揮するということにつながると書いている。

さらにいうと、重力がある中で、今この活動にどの程度筋肉の力を入れるのか?ができないそうだ。読み書き聞き取りが苦手な人は、首の筋肉が極端に弱い、無意識的に自分の筋肉をコントロールしにくいことも挙げられる。

脳と身体とのコミュニケーション〜動きの指示と情報収集

ここで、身体の側がどう情報を集めているのかを見ておきたい。

心と身体は繋がっているとよく言われている。要は、脳(神経系)と身体は密接にコミュニケーションをとっているのだ。そして、身体から脳へと伝わる情報と、脳から身体へと伝わる情報はそれぞれ、「情報収集」と「動きの指示」という二つの働きがある

筋肉はこれらの2つの働きを担っていながら、同時進行することができない。力みが発生するのは、「動きの指示」による硬直。「情報収集」に専念させると力みが自ずと取れると考えられており、ロルフィングではこの点をチェックしている。

3つの情報収集の仕組み

身体には、視覚(Visual system)、内耳感覚(前庭系、Vestibular system)、筋感覚(固有受容感覚、kinesthetic system)という3つの「情報収集係」があり、これらを活性化することにより、「情報収集」が優位となり、力みが取れると考えてもいい。

上で見た3つと同じものだが、ロルフィングの現場では、この呼び方を使うことが多い。以下、この呼び方で進めたい。

情報収集の仕組み1〜筋感覚

筋感覚とは、手、足、頭、顔等(総称して外部感覚器官と呼ぶ)の外部情報を身体内部に伝えることができる感覚のこと。ロルフィングでは、主に手や足の筋肉の感覚のことを調べることが多い。

手や足が情報を受け取りやすい状態(手指、足指が動きやすくなる)になればなるほど、身体が整いやすくなると言われているが、老化とともに、筋肉や関節が衰え、動きにくくなる。このため筋感覚が低下していく。

簡単に調べる方法として、鉄棒にぶら下がり、何秒維持できるかを見ることもできる。長寿研究の分野では、40歳の時点で男性2分、女性90秒を一つの目安とする見方がある(Peter Attia『Outlive』)。年齢とともに、この目安は下がっていく。

ヨガには「スークシュマ・ヴィヤヤーマ」というエクササイズがある。スークシュマ(サンスクリット語:細かい)、ヴィヤヤーマ(同語:運動)の意味。手足の関節を「呼吸と合わせて」「ゆっくり」「丁寧に」「身体を感じながら」と動かすエクササイズの一つ、手足が自由に動けるようになるのだ(例えば、グーパー、踵や足指一つ一つ動かす)。

これは、まさに「筋感覚」を整えるエクササイズで、感覚の意識を高める上で重要となる。実は、自分の身体の感覚が全く意識できていない人に対しては、このようなエクササイズは有効だ。ぜひ、ご興味のある方はチェックくださいね!

情報収集の仕組み2〜内耳感覚

内耳感覚とは、平衡感覚のこと。重力を感じるのは耳の奥にある内耳。脳(神経系)と共同に働き、身体の向いている方向、傾きや動きを感知することができる。

片足を上げて、目を開いた状態で30秒、目を閉じた状態で15秒というのが、バランスを見るときによく使われている目安だ。これを手がかりに、この感覚を調べることができる。

情報収集の仕組み3〜視覚

視覚は、目から入ってくる情報の収集。こちらの感覚はわかりやすいが、難点が一つある。ロルフ・ムーブメントのインストラクターの一人、Rita Geirola先生によると、
「人間というのは「見る」ということを教育や経験を通じて学ぶ」
というのだ。

このように、人間にとって、内耳感覚、筋感覚は、生まれながらすでに備わっているが、視覚は、経験・教育を通じて学ぶので、感覚の中でもっとも意識しやすい。そのため、一番優位になりやすいのだ。

足の筋感覚の役割〜視覚と内耳感覚

興味深いのは、視覚と内耳感覚の位置だ。人間は、顔の前に目、顔の後ろに耳がついている。このため、視覚を使うと、重心が前側(つま先側)、内耳感覚を使うと、重心が後ろ側(踵側)に行きがち。このように、視覚と内耳感覚のバランスを整える上で、足の筋感覚が重要な役割を果たしているのだ。

「立つ」際に、重要となるのは、足の立ち位置。個人的には、セッション開始時に、踵重心なのか?つま先重心なのか?を中心に調べ、セッション終了時に、どう変化したかを見ている。

3 system in the posture 2

興味深いことに、目の感覚は、意識しやすいので強まる傾向がある。こちらが強くなると逆に内耳感覚の働きや重力が感じにくくなるのだ。視覚(目)は頭の後頭部に繋がっているため、目の酷使は首こりと肩こりへと結びつく。

私の場合には左目の視野が100で球状だとすると、右目は60で若干後方に偏っているように、ワークを通じてわかった。そして、左目を閉じて、右目のみだとすると胸の詰まり感が出た。脳の右半分外側に、当時組んだパートナーに音を出していただき、内耳感覚を活性化させると、右目の視野が広がっていき、胸の詰まり感が取れたのだ。

ロルフィングは、視覚と内耳感覚のバランスに対して、根本的なところに注力するので、首こりや肩こりが改善しやすいのだ。

筋紡錘とγ運動神経系〜負担の少ない「姿勢」を保つ

この3つの感覚は、脳神経系へ情報を伝わることで、脳神経系から、姿勢に関わる筋肉に指示が送られる。この点についても、大きな発見があった。

1986年に、「姿勢」とガンマ運動神経系と筋紡錘との関係も明らかになってきたのだ。

筋紡錘は、筋肉のセンサーであり、筋肉の伸び縮みを感知する感覚器官として知られている。例えば、ヨガや瞑想のクラスに参加した人は、「身体を意識しなさい」という言葉を聞いたことがあると思う。意識した時に、スイッチが入るのが筋紡錘だ。

身体が重力を探知すると、筋紡錘のスイッチが入りやすくなるため、重力を意識しなくても筋紡錘の多い持続的に働く筋肉が無意識に動くことができる。3つの感覚が無意識に働くことができるのは、筋紡錘のおかげと言ってもいい。

「姿勢」の筋肉が働くには、脳からの神経系の指示が必要。これは、運動神経と呼ばれ、α運動神経系とγ運動神経の2つが知られている。

α運動神経系(運動神経系の2/3)は、人間の脳によって働く神経系の一つであるため、意識して動かす筋肉に働きかける。スプリント、ウェイトリフティング、物を持ち上げるときなどに使われる。重力下に置かれた時に、一時的に働く筋肉であり、疲れやすい。肩こり、腰痛は、「姿勢」維持に働く筋肉のうち、疲れやすい、一時的に働く筋肉が働いている可能性が高い。

γ運動神経系(運動神経系の1/3)は、直接意識するというよりも無意識や習慣に関わる小脳や延髄などの支配を受けており、筋紡錘の多い、重力下に置かれた時に、持続的に働く筋肉に働きかける。こちらは疲れにくい筋肉のため、できるだけ「姿勢」維持においては、働いてほしい筋肉だ。

このように考えると、疲れない筋肉を働かせ、姿勢を維持することが、重要だということがわかると思う。要は「如何にしてγ運動神経系を活性化して、身体内のエネルギーの効率の高い持続的に働く筋肉を最大限生かしていくか?」と言ってもいい。

γ運動神経系を活性化するために〜手と足を使う

γ運動神経系を活性化するためには「筋感覚」を使えている状態が鍵となる。

手と足(手は手のひら全体、足はアーチを含め全て)がしっかりと使えると、背骨の深層にある「姿勢」に関わる筋肉群が安定するからだ。

例えば、手のひら全体が、力を入れずに「吸い付けられる」ようにヨガ・マットでポーズ(例えば、下向きの犬のポーズ)をとると、肩甲骨の前鋸筋、菱形筋、背骨を結ぶ深層筋が使えるようになる。これらの深層筋が、持続的に働く筋肉に該当し、γ運動神経系を活性化することができるのだ。

ロルフィングの10回セッションは「如何にしてγ運動神経系を活性化して、身体内のエネルギーの効率の高い持続的に働く筋肉を最大限生かしていくか?」を主目的に、全体が組み立てられており、特に「筋感覚」の意識が高められるようにできている。

まとめ

「重力」があるにも関わらず、なぜ「姿勢」を維持することができるのだろうか?今回のブログでは、物理学から見た「重力」とは何かから始め、「固有受容感覚」「前庭感覚」と、「筋紡錘」「γ運動神経系」の視点から明らかにしていき、負担のかからない姿勢を維持していくために、どう身体を意識していけばいいのか?を中心にまとめた。

ぜひご興味のある方、ロルフィングのセッションを受けることをお勧めします(体験セッションも行っています)。

2026年9月の注記

この記事は、重力を2回説明している。

1回目は物理学の側から。アリストテレス、ニュートン、アインシュタイン。引力だけで斥力がないこと、離れた物体に働くこと、すべての物質に等しく働くこと。2回目は神経生理学の側から。抗重力筋、姿勢反射、筋紡錘、γ運動神経系。

どちらも、自分の外にある枠組みである。物理学者が書いたものと、生理学者が調べたもの。それを借りてきて、身体に起きていることを説明しようとしている。

1年3か月後、2025年のアドバンスト・トレーニングで、重力の扱い方が違っていた。

Jeff Maitlandが示したオーソトロピズム(orthotropism)という考え方がある。ひまわりが自然に太陽へ向かって伸びるように、人間の身体も重力と調和しながら上へと向かおうとする力を内に秘めている、というものだ。ロルフィングの役割は、それを邪魔せず支えることにある(「Advanced Rolferの認定までの歩みについて【総括】〜認定までの道のり」参照)。

ここでは、重力は説明されていない。どういう力なのかは問われず、身体がそれに向かって伸びる、という関係だけが置かれている。

説明する対象から、委ねる相手へ。同じ重力に対して、立ち方が変わっている。

2024年に書いたことが間違っているわけではない。物理学の側も神経生理学の側も、そのまま残っている。ただ、この記事を書いた時点では、説明できれば分かったことになると思っていた。

もう1つ、この記事には手を入れた箇所がある。

鉄棒にぶら下がる秒数を、当初は「理想」として書いていた。出所を確かめたところ、長寿研究の分野で使われている目安で、40歳の時点での数字だった。年齢とともに下がっていく。条件を落としたまま数字だけを書いていたことになる。片足立ちの秒数も、同じように目安として書き直した。

この記事を書いた人

Hidefumi Otsuka