トレーニングも後2日となった。今回は、ロルフィングのトレーニング中に時々話題になるアレクサンダー・テクニック(AT)について紹介し、ロルフィングとの共通点について考えたい。

実は、ロルフィングのトレーニングを受ける1年以上も前、当時練習していたアシュタンガ・ヨガのマイソールクラスで、AT教師の荒牧稔博先生(以下トシ先生)からATを知ることができた。
興味を持った理由として、トシ先生は、短期間で非常に難しいアシュタンガ・ヨガのシリーズをマスターしていったこと。その秘訣はどこにあるんだろうかということで興味を持った。もちろん、私自身、アシュタンガ・ヨガを実践しているのに身体に力みがあるというのも大きな理由でもあった(「力が抜けない身体を、どう解くか〜ヨガに足りなかったもの」参照)。
ATについては、「力が抜けない身体を、どう解くか〜ヨガに足りなかったもの」でも触れたが、頭と脊柱の関係に注目することで、身体の不必要な自動的な反応に気づき、それをやめていくことを学習する。力を抜くことを身体で覚えていく方法の一つだ。オーストラリア人の俳優・朗誦家フレデリック・マサイアス・アレクサンダー(Frederick Matthias Alexander)によって開発された。
余談になるが、ロルフィングを開発したアイダ・ロルフ、フレデリック・アレクサンダー、フェルデンクライス・メソッドを開発したモーシェ・フェルデンクライス(Moshe Feldenkrais)は、西洋ではボディワークの三大巨匠と呼ばれ、モーシェとアイダは同世代を生き、ロルフィングもATの影響を受けた。
そこで、トシ先生が通っているBody Chanceに伺うことにした。当時、参加した体験セッションは、校長のジェレミー・チャンス先生と通訳のバジル・クリッツアー先生の2人(共にAT教師)。
そこでの体験をシェアしたい。
物を拾うという動作を通常のやり方で行った後、先生が一人一人、ATが重要視する頭と脊椎との関係に身体意識を向けるために、AO関節(頭蓋骨と脊柱の接点)に軽く手を当ててガイドしていった(ハンズ・オンという)
不思議なことに、その作業をするだけで首こりが軽減した。当時、衝撃を受けた。その後、何度か基礎コースに通っていくうちに、ヨガのポーズも改善していったこともあり、プロ・コースに参加したくなった。そこで、2013年4月より、仕事で忙しくなった関係上途中で休学するまでの約8か月間(2週間に一度のペース)学ぶことになる。
プロ・コースはATの教師を目指すためのコースだが、私の受けたトレーニングは、解剖学とATのハンズ・オンを受けることがメインだった。実は、プロ・コースでは、ハンズ・オンをATの教師から受けることで、身体にその感覚をしみこませる。ロルフィングで言うところのEmbodimentだ(「身体感覚:Embodimentとは何か?」参照)。
毎回のATのトレーニングは、PC動作、座る、寝転がる、ヨガのポーズなど基本的な動作を取り上げる。いずれも、頭と脊椎との関係に意識を向け、身体にそれを徐々に覚えさせることに費やす。
このATのハンズ・オンについて、ロルフィング・トレーニングのPhase IIで教わったGiovanni先生もよく知っていて、ATでは少なくとも3年かけて養う(AT教師は合計で約1,200時間のトレーニングを受けることになる)。ちなみに、ロルフィング用語ではハンズ・オンのことをγタッチ(身体がγ運動神経系が優位な状態の手になり施術をする)と呼ぶ。そして、ロルフィングは、そのタッチ感覚で施術を行うことが重要だ。
以前「疲れる筋肉と、疲れない筋肉〜姿勢を支えるTonic Function」で触れたが、ロルフィングは、
如何にしてα運動神経系に支配されるPhasic muscle(疲労感のある一時的に働く筋肉)よりも、γ運動神経系の支配を受け、身体内のエネルギーの効率の高いTonic muscle(持続的に働く筋肉)を働かせるか
にある。
ATでは、頭と脊椎との関係を通じて、このγ運動神経系を身体内で優位に働かせ、ハンズ・オンに反映する。ロルフィングと同じようにTonic Muscleを働かせる身体へ再教育していく。そういった意味で、ロルフィングとATは目指している方向性が似ている。
身体にATをしみこませた後、ATを他人に施術する準備が整う。そこで、さらに施術するにあたって、しっかりと頭と脊椎との関係ができた上でのこと、そのプロセスを詳細に見ていく。ATは、それなくして相手にも施術ができないと考えるからだ。
まさに、Phase IIIで教わった
ロルファーが今までどのように自分自身の身体と向き合ってきたのかというものがクライアントに伝わる
に似ている(「今までどのように自分自身の身体と向き合ってきたのかがセッションに出る」参照)。
ロルフィングとATにはトレーニングの仕方にも共通点がある。ロルフィングで重視されるのは、各セッションでどのようにして身体観察(Body reading)を行うのかを繰り返し観察すること。この手法は「Seeingと知覚すること(1)〜概念を持つと、見えるようになる」で触れたが、身体に対する見る目を養うまで情報を与え続けることで磨く。
同じように、ATも頭と脊柱との関係が身体内でしっかりとしみこむまで続く。いずれもボディワークの特徴である、分析する目を養うというよりも知覚することを学ぶ、という共通点を持っていると思う。
このように二つのメソッドは、いかに余計な力を抜くかという目的に向かっているという意味で非常に共通点が多く、面白い。また、アプローチが違うので、ある意味、ATとロルフィングは相補的な関係にあるともいえる。その点については別の機会に譲りたい。
2026年8月の注記
この記事は、ロルフィングを一つの定式で言い切っている。α運動神経系に支配される Phasic muscle よりも、γ運動神経系の支配を受ける Tonic muscle をいかに働かせるか。そして、アレクサンダー・テクニックのハンズ・オンをγタッチと呼び、同じ神経系の話として並べている。認定の前日に書かれた記事で、トレーニング期間中の最後の一本にあたる。
この定式に出てくる語は、基礎トレーニングの最初の課程で配られた資料に既にあった。姿勢の制御をめぐる研究の年表で、Sherrington から Magnus、Rademaker、Bernstein を経て Penfield に至る並び。そこに gamma innervation と muscle spindles が書き込まれていた。筋紡錘を小さな脳と呼ぶ言い方も添えられていた。
その資料は読まなかった。だからこの語は、資料からではなく、別の入口から手に入れたことになる。教室で Giovanni 先生から聞き、アレクサンダー・テクニックのプロ・コースで身体に入れ、それを自分で並べ直して定式にした。配られた紙の上にあったものと、二年かけて別の道筋で辿り着いたものが、同じ語だった。
この定式には、その後まだ先がある。γ運動神経系と持続的に働く筋という組み合わせは、Rolf Movement Training で Tonic Function という名前を持つ体系として渡される。Hubert Godard の名前とともに。姿勢を組み立てる持続的な働き、動きが起こる前の段階、協調の習慣を変えるうえで知覚が果たす役割。2015年に一行で書いたものが、三十日の課程の主題になっていた。
末尾に、ロルフィングとアレクサンダー・テクニックは相補的な関係にあるともいえる、と書いてある。十年後、アドバンスト・トレーニングで Neutral という概念を教わることになる。頭と脊椎の関係ではなく、Hara を含む三つの要件として。重心の側から入る。目指しているところは近いのに、どこから入るかが違う。相補的、という言葉で当時つかんでいたのは、この違いのことだったのだと思う。




