本コラムで何度か取り上げたIda Rolfの著書 ‘Rolfing and Physical Reality’ にはロルフィングについて興味を引くようなことが書かれており、ロルフィング・トレーニングの期間中、何度か立ち返って読むようにしている。例えば、ロルフィングの手技を開発するにあたって、Ida Rolfはオステオパシーやホメオパシーの影響を受けたと述べている。

当時はまだこういった代替療法が疑問視されていた頃の話だったが、Idaは果敢に自分の施術にも取り入れるようになる。例えば、身体の構造が身体のどのように働くのかを決めるという発想は、オステオパシーからの影響が強い。

最も興味深かったのは、ヨガからの影響も受けているということ。Idaは、ヨガが西洋ではやる前の1920年頃にYoga(当時はYogとよばれていた)を学んでいたらしい。そして、身体的な観点からYogaを以下のように見ていたそうだ。
the principle aim of yoga asanas is to increase the space at bony interfaces (joints). That is to say, the assumption of yoga is that bodies need to lengthen, and the means by which this length is achieved are positions in which opposing body parts pull or twist each other.
ヨガのアーサナ(ポーズ)の主要な目的は、骨と骨との間のスペース、すなわち関節を広げること。つまり、ヨガというのは身体が伸びる必要があるという前提に立っており、それは身体の相対する部位が引っ張りあうか、ねじりあう姿勢によって実現される。
これは、ロルフィングの5原則(「5原則」参照)の一つ、2つの方向性という考え(「2方向性(Palintonicity)」参照)に大きな影響を与えているのではないかと思う。

面白いのは、Idaはヨガには一長一短があることを知っていたこと。それは以下の言葉から伺える。
Slowly she realized that the asanas did not achieve length and separation of the joints, that in too many cases there was actual contraction of the joint surfaces
徐々に彼女は、ヨガのアーサナが身体を伸ばし、関節を広げることを実現していないことに気づく。というのも、関節面が収縮しているケースがあまりにも多いことがわかったからだ。
私はヨガを日頃から練習しているが、膝の痛みや肩こり・首こりがなかなか消えることがなく過ごしていた時期があった。西洋で発達したボディワークに興味を持つきっかけとなったのは、せっかく身体の柔軟性や安定性を増すことを目的としてヨガのポーズをとっているのに、なぜこうした力みが出てくるのかという疑問からだった。
私の場合には、ボディワークの一つ、アレクサンダー・テクニックを学び、練習にとり入れることによって、力みが劇的に少なくなることがわかった(「「力を抜くこと」〜アレクサンダーテクニックとヨガ」参照)。参考に、1年間学ぶ機会のあったアレクサンダー・テクニックとロルフィングは共通点が意外と多いことを「ロルフィングとアレクサンダー・テクニックとの関係(1)」で触れた。

ボディワークとヨガとの関係については本コラムで書いたことがあるが(「力が抜けない身体を、どう解くか〜ヨガに足りなかったもの」参照)、ロルフィングを通じて学んだことは、身体観察を重視することで、人間は一人一人違うということを知ったことだ。身体の骨格や構造が違うということは、それぞれに対して多様なアプローチが必要だということを意味する。これはヨガについても当てはまるし、ヨガを含めた代替療法の特徴を表していると思う(「代替療法と多様性」参照)。
生徒の中にヨガの先生が何人か参加しているので、時々ヨガについて話す。
例えば、ロルフィングでは、首の前後のどちらに緊張があるのかをセッション7で見るのだが、前後の筋肉の緊張度合いによっては、下向きの犬のポーズ(Downdogのポーズ)で目線(アシュタンガヨガでいうドリシュティ)をへそに向けるために首を曲げる動作をすると、首こりをさらに悪化させる可能性がある。また、下向きの犬のポーズで膝を曲げ、坐骨を天井に向けるように伸ばすと、背骨が伸びるので腰痛が軽減する可能性がある。
ヨガの発祥の地はインドだ。インド人の身体の使い方や文化に影響を受けている。一方で、日本に限らず欧米の仕事のスタイルはPCを中心としたデスクワークがメイン。それに合わせた練習法を模索していくことも今後大事な視点になると感じる。これからは、ロルフィングから見たヨガ、またはヨガから見たロルフィングという二つの視点から見ていき、本コラムでも取り上げていきたいと考えている。

人間が作り出す身体的なメソッドは、いかなる方法であれ一長一短がある。客観性の担保がもっとも大切なサイエンスですら、何か新しいことが発見されても、わかっていないことを明記する。ヨガにも様々な流派があるが、それぞれ一長一短があるということを理解する必要がある。
ロルフィングも人間が開発した以上、限界がある。この点に関してはPhase IIとPhase IIIのロルフィング・トレーニングで触れているので、本コラムで触れる予定だ。
2026年8月の注記
この記事でヨガについて書いていることは、すべてポーズ単位である。下向きの犬のポーズでドリシュティをへそに向けると首こりが悪化しうる。同じポーズで膝を曲げ坐骨を天井に向けると腰痛が軽減しうる。首の前後どちらに緊張があるかをセッション7で見る、という観察と組み合わせて、個々のポーズの是非を判断している。
十年近く経って、この見方が一段変わった。2024年からブラジリアン柔術を始めて、アシュタンガに足りなかったものが分かったからである。矢状面に偏っている。前後に折り、前後に伸ばす動きが大半を占め、回旋と側方が薄い。柔術は逆で、寝た姿勢から相手との関係のなかで回り、横へ動く。
ポーズ単位で見ていたものが、面という分類軸を得た。どのポーズがよくないかではなく、どの方向の動きが練習全体から抜け落ちているか、という問いに変わっている。個々の指摘の集まりが、一本の軸に整理された。
この記事が Ida Rolf から引いている観察も、いま読むと重い。アーサナは関節を広げるどころか、関節面を収縮させている場合があまりにも多い。1920年代にヨガを学んだ人が、そこから出発してロルフィングを作った。
そして同じことを、この記事を書いた人間も見ていた。柔軟性と安定性のためにポーズを取っているのに、膝の痛みも肩や首のこりも消えない。なぜ力みが出るのか。西洋のボディワークへ向かったのは、その疑問からだった。九十年ほど隔てて、同じ観察が二度なされている。一方はそこから方法を作り、もう一方はその方法を受け取る側に回った。
もっとも、当時の自分が持っていたのは疑問だけで、何が足りないのかを言う語彙はなかった。この記事が書いている二つの視点、ロルフィングから見たヨガとヨガから見たロルフィング、のうち、後者を言葉にするには、ヨガでも西洋のボディワークでもない三つ目のものが要った。
