【R#351】セッション間のプロセスの持ち方:行動の設計と自己調整について(第4回)〜全7回・CTIコーチングとの比較

はじめに

東京・渋谷でロルフィング・セッションと脳科学から栄養・睡眠・マインドの脳活(脳科学活用)講座を提供している大塚英文です。

人が変化していくプロセスをどう支えるか?〜ロルフィングとコーチングから考える

ロルフィングとコーチング──一見、まったく異なる実践領域のように見える。 前者は身体を扱い、後者は言葉を扱う。しかし、その本質にあるのは共通の問いだ。

“人が変化していくプロセスを、どう支えるか?”

私は、CTI(The Coaches Institute)のCo-Active Coaching(以下コーチング)を2009年に学んだ。コーチングのスキルを追究して行く中で、ロルフィングに出会った。お互いに異なるように見える2つの手法。

いずれも共通しているのは「変容」という共通テーマに向き合っている点だ。今回、ロルフィングとコーチングについて以下の7つの視点から紐解いていくことにする。

  • 【第1回】ニュートラルとプレゼンス
  • 【第2回】4つのコーナーストーン
  • 【第3回】3つのPrinciplesとロルフィング10シリーズの対応
  • 【第4回】セッション間のプロセスの持ち方
  • 【第5回】関係性の質(Designed Alliance / Right Relationship)
  • 【第6回】スキルの比較(CTIの5スキルとロルフィングの技法)
  • 【第7回】総括

全体を通じて、「触れる」「問う」「聴く」「在る」という多面的に「変容」について考えていきたい。身体から働きかけるロルフィングと、言葉を通して深層に触れるコーチングを比較することで、人の変容とは何か、考えるきっかけになれると確信している。

第4回は、セッション間のプロセスの持ち方、行動設計と自己調整についてまとめたい。

変容はいつ起きるのか?

「変容」とは、セッションの“中”だけで起きるものではない。 本当の変化は、セッションとセッションの“あいだ”──すなわち、 日常の中で自分と向き合う時間、余韻、観察、選択の積み重ねの中で起きていく。

CTI(Co-Active Coaching)とロルフィングは、それぞれに異なるアプローチでこの“あいだ”を支えていく。

  • CTIにおけるForward & Accountability
  • ロルフィングにおける自己調整と統合の時間 

を比較し、変容を支える「場の持ち方」の違いと共通性を明らかにしていく。

セッションの“あいだ”に焦点を当てる理由

セッション単体で変化が起きることもありますが、真の変容はセッションとセッションの“あいだ”にどう在るかに大きく左右される。

  • CTIでは、「次回までに何を持ち帰り、どんな実験をするか」が変容を進める鍵。
  • ロルフィングでは、「身体のなかで何が自然に起きていくか」に委ねる姿勢が基本。

この違いは、「変化を設計するか」 OR「変化にスペースを与えるか」という方向性の違いでもある。

CTIにおけるセッション間のプロセス管理

「Action and Accountability(行動と責任)」の設計

“Coaching is not complete without forward movement. Change continues between sessions.”
— Co-Active Coaching, p. 109

  • セッションの終わりに「Forward」を明確にする
  • 次回までの「実験」や「問い」「約束」をクライアントが持ち帰る
  • クライアント自身が「変化の主体」であることを強調し、行動→内省→次回の設計へと循環する
  • セッション間での自己観察や小さな実験(”homework”)がプロセスを活性化させる
  • 「進んでいる/止まっている」などのメタ認知も重要視される

キーワード:選択・行動・観察・次回への接続

ロルフィングにおけるセッション間のプロセス保持

「身体の自己調整力」にゆだねる姿勢

“You don’t go looking for something—you let what is show itself.”
— Embodied Being, p. 145

  • セッション後は「統合のための時間」として最低1週間〜10日空ける。
  • クライアントに特定の課題を与えることは少なく、余韻”と感覚の波を自然に経過させる
  • セッション後に「観察日誌」をつけるよう促すことはあるが、それも無理強いしない
  • 「身体が再構成しようとするプロセス」そのものを信頼する
  • 「行動」よりも「内的再編成(Repatterning)」を重視する

キーワード:自己調整・非操作・空間保持・変容の発芽


行動設計とプロセスの保持

項目CTI(コーチング)ロルフィング(ボディワーク)
アプローチ「前に進む」を設計する「変化が起こる場」を保持する
セッション後の指針次回までの行動・実験・問い感覚の変化を感じる/観察する
クライアントの役割主体的な選択者・実行者身体プロセスの“聴き手”として在る
守るべき原則Forward and AccountabilityIntegration and Patience
変化の捉え方意識的に選ぶ → 行動する無意識が再編成するのを見守る

共通点:変容は「セッションの外」で熟成される

  • CTIでは、変化はセッション外での行動によって定着する
  • ロルフィングでは、変化はセッション外の「空間と時間の中」で自然に組み直される

どちらも、「セッションそのもの」よりも、「セッションのあいだ」が本質的であるという前提に立っている。


まとめ:行動を導くか、空間を保つか──変化の起こし方と待ち方の違い

  • CTIは、「変容をデザインして実践する」体系。
    → クライアントの行動化力と意志を信じる
  • ロルフィングは、「変容が現れる場を整える」体系。
    → 身体の自然な再統合プロセスを信じる

✨行動か、待機か、どちらが優れているかではなく、
どちらも“変化の光と影”を支える方法

次回予告

第5回は、関係性の設計──CTIの“Designed Alliance”と、ロルフィングにおける“Right Relationship”を比較し、 変化を支える「関係性の質」について考察していく。

参考文献

  • Henry Kimsey-House et al. (2018). Co-Active Coaching: The Proven Framework for Transformative Conversations at Work and in Life (4th ed.). Nicholas Brealey.
  • Jeff Maitland (2017). Embodied Being: The Philosophy and Practice of Manual Therapy. North Atlantic Books.

この記事を書いた人

Hidefumi Otsuka