はじめに
こんにちは。渋谷でロルフィング・セッションを提供している大塚英文です。

これまでのブログでは、第1回で「力を抜く」というテーマを通して、“支えに委ねる”ことの大切さを。
第2回では、「空間(スペース)を感じる」ことが、身体の自由と呼吸の深さを取り戻す鍵であることをお伝えしました。
そして今回のテーマは、ロルフィングの核心でもある「重力との関係」です。力を抜くとは、単に筋肉をゆるめることではなく、重力という見えない力と調和すること。
この関係を理解することで、身体がどのように変わり、なぜロルフィングが“抜ける身体”を生み出すのかが見えてきます。
重力は常に働いている──「見えない先生」
私たちは生まれてから死ぬまで、常に「重力」という力の中で生きています。それは避けようのない現実であり、
同時に“最も確かな支え”でもあります。
ロルフィングの創始者アイダ・ロルフは、こう言いました。
“When the body gets working appropriately, the force of gravity can flow through.
Then, spontaneously, the body heals itself.”
(身体が正しく働くようになれば、重力の流れが通る。そのとき、身体は自然に癒されていく。)
ロルフィングの目的は、重力を敵ではなく味方として使うこと。重力と喧嘩するのではなく、重力に支えられながら動く。この状態こそが、真に「力が抜けた」状態なのです。
「支えられている」とき、身体はゆるむ
たとえば、椅子に深く腰を下ろしたとき。背中を預け、足裏で地面を感じると、身体全体がふっと軽くなる瞬間があります。
これは、重力に「抵抗」するのをやめ、「支えられている」ことを感じた瞬間。
人は支えを信頼できるときに、はじめて力を抜けます。それは物理的な支えだけでなく、心理的にも同じこと。安心があるとき、身体は自然にゆるむのです。ロルフィングでは、この“支えられている感覚”を、身体の構造そのものから再教育していきます。
「重力に逆らう」から「重力に委ねる」へ
現代人の多くは、無意識に“重力に逆らって”生きています。姿勢を良くしようとして背中を固めたり、デスクワークで前のめりになったり。そのたびに、外側の筋肉が働きすぎ、重力の流れをブロックしてしまいます。
しかし、重力は「押しつぶす力」ではなく、本来は「支える力」でもあります。大地が私たちの身体を受けとめてくれている──そのことに気づくとき、身体の緊張は静かにほどけていきます。
力を抜くとは、重力に逆らうことをやめ、重力の流れに委ねること。まさに“立ち方”や“歩き方”が変わる瞬間です。
ロルフィングが教える「立つ」とは何か
ロルフィングのセッションでは、立つことそのものが「学び」の場になります。
人は、ただ立っているだけで、重力との対話をしています。
・地面を押し返そうとしているのか
・地面に支えられているのか
・身体の重さを感じているのか、それとも逃がしているのか
これらを観察しながら、セッションでは「力を抜いて立つ」=「支えに委ねて立つ」感覚を取り戻します。
すると、骨格が再配置され、外側の筋肉(Phasic筋;重力に対して一過的に働く筋肉、エネルギーを使うので疲労感が伴う)は余分な働きをやめ、内側の深層筋(Tonic筋:重力に対して持続的に働く筋肉、エネルギーを使わないので疲労感がない)が静かに活動を始めます。
結果として、立つことが努力ではなくなるのです。
上下・前後・左右──重力と空間のバランス
ロルフィングでは、身体を6つの方向──上・下・前・後・左・右──の空間の中で観察します。
重力に身を委ねることは、“下”に沈むことではなく、“下に支えられながら上に伸びる”ことです。
まるで、根を地中に張った木が、その根の支えによって枝を空へと広げていくように。
下へ委ねるほど、上への伸びが生まれる。この「上下の関係」が整うことで、前後・左右のバランスも自然に安定していきます。
これが、ロルフィングがいう“統合された姿勢(integrated posture)”です。
「力を抜く」とは、重力に対してニュートラルであること
ここまで見てきたように、力を抜くとは、単なる筋肉のゆるみではなく、重力に対してニュートラルな状態になることです。
重力と戦わず、支えに頼りすぎず、ただその流れを通す。
身体が上下に開かれ、地面と空の両方向に支えられているとき、重力は「負担」ではなく、「流れ」になります。
この状態にあるとき、呼吸は深く、動きは軽く、心は静かです。それが、ロルフィングが目指す“自然に抜けた身体”なのです。
まとめ──重力とともに生きるということ
・重力は常に働いており、身体の最も確かな支えである
・力を抜くとは、重力に逆らうのをやめ、委ねること
・重力に委ねたとき、内側のトニック筋が働き、外側の力みがほどける
・身体が重力と調和したとき、自然に空間と安定が生まれる
力を抜くとは、「地球の力と和解すること」でもあります。重力に抗わず、そこに委ねる。その瞬間、身体は軽く、心は穏やかになります。
私たちはみな、重力とともに生きています。それを感じ、信頼できるようになるとき、“抜く”ことは努力ではなく、自然な在り方に変わっていくのです。
