前回に続き、吉福伸逸氏のセラピストとしての考えについて取り上げたい。1回目は、セラピストとしてどのようにして人を見たらいいのか?について書いた(【RolfingコラムVol.96】参照)。今回は、セラピストが現場で経験する3つの要素について取り上げたい。
「吉福伸逸の言葉」によると、セラピストが現場で経験する要素をコンテキスト、プロセスとコンテンツの3つに分けて考えている。
もっとも大切なのは、コンテキスト。英語でコンテキスト(Context)といえば文脈だが、場、背景、環境という意味もある。
「セラピストはクライアントに対して本質的に何もできないのだ」
という前提で吉福氏はセラピストについて語る。
以前、ロルフィングのPhase IIIのトレーニングの最後の質疑応答で触れたように
「結局、ロルフィングができることは、クライアントに対して何か付加価値を与える(例、治療すること)ではなく、クライアントに対して気づきを与えることぐらいしかできない。そして自ずと、本人にとって適切だと思うこと選択していく。」
という考え方に近く(【RolfingコラムVol.82】参照)、最初にこの言葉を聞いたときに、お、この考え方すごい!と思った。
さらにすごいと思うのは、吉福氏はセラピストがクライアントを誘導する際には害にならないとはいえ、プラスになることはないと断言しているところ。セラピストがお金をいただきながら、クライアントと対峙しているわけだから、治癒したり、導くことを考えている人にとって意外に感じるかもしれない。しかしながら、治癒したり、導くことを考え れば考えるほど、自分のエゴという面が強く出て、相手を見えなくなってしまうということが起こってくる。
では、セラピストは、クライアントに何を提供できるのか?吉福氏は、それをコンテキストと呼ぶ。世界観や人間観といってもいい。つまり、セラピストの世界観や人間観がセラピーに参加している人に対して、影響を及ぼしていることになる。恐ろしいことに、人間観や世界観は、それをセラピストが言語化しようがしまいと、意識化していようと無意識のままであろうと、セラピーの場に強く反映されるということ。その結果として、セラピストが人間として醸し出す雰囲気、気配、波動などが、その場に色濃く映し出されることになる。
結局、完璧な人間というのもいないわけで、限界のある人間がセラピストとして提供できるのはコンテキスト(器と言っていいかもしれない)。それがどれだけ大きいかによって決まってくる。そのためには吉福氏の言葉を拝借すると、
「人が生きていく上で遭遇すると思われるあらゆる形の艱難辛苦、あるいは苦しみのようなものを、できる限り自分自身でも経験して、それによって人間観に大きな歪みが生じず、妥当性のある人間観を持っていられるような人生を生きていれば、セラピストやカウンセラーとしては最高だ」
となる。
私自身、コーチングやNLPを勉強していて感じるのは、精神的にみて問題を抱えている人が、これらを知識として修得していくる人が意外と多いこと。自分の問題を解決するために、若しくは好奇心として、これらを学ぶのは全く問題がないが、セラピストとして独り立ちするためには、自分の精神的な問題を解決することが先決のように思う(この点については、【RolfingコラムVol.96】にも少し書いた)。
理想的なセラピストは、同行者としてクライアントと一緒に歩みながら、コンテキストであり続けるもの。相手に左右されないニュートラルな姿勢を保つことの重要性に気づかされる。
次にセラピーの現場で起きているプロセス(過程)について見てみよう。人間はそもそも肉体的、精神的な問題に対して、自然治癒力というのを備えているのだが、治癒プロセスの際、置かれている環境(家庭、職場、学校、友人関係など)によってそれを許容できず、誤解されたり、諌められたり、攻撃され たりすることで、症状の発現を抑えてしまう。
セラピストの役割は、コンテキストとして症状が出たとしても、信頼感で持って症状が表出することができることを手助けすること。
吉福氏の言葉で言い換えると、
「コンテキストを提供することによって、参加者が何が起こってこようと恐怖感や拒絶感なしにそれに触れていくことができるような状況を作るのが、セラピストにまず要求される役割」
となる。セラピストに求められるのは、なるべく介入せず、そしてプロセスを全面に信じて任せるような場作りということなのでしょう。
最後のコンテンツは内容だが、これは、プロセスの結果として埋め合わせるもの。その内容は十人十色となる。セラピストは予め内容を設定して、プロセスに対してこのような内容になると決めつけてしまう傾向があるが、それは吉福氏によるとダメだということになる。スキルセットが最後に来るというのは意外だが、ロルフィングのトレーニングで学んだときにも言われたことがあるが、心構えがしっかりしていればテクニックは後から付いてくるものなのでしょう。
この原稿をまとめるに当たって、Phase IIIのロルフィングのトレーニング期間に
ロルファーが今までどのように自分自身の身体と向き合ってきたのか?というものがクライアントに伝わるから。
ということを言われたことが頭にあった(【RolfingコラムVol.82】参照)。結局は、セラピストも人間。その人間によって大きな影響があるのだということ。ロルフィングを含め、人と対峙するときにはそういったことを忘れずに、向き合っていきたい。