【R#336】エネルギーワークとボディワークを情報の観点で捉えてみる〜AT-1(9)

はじめに

東京・渋谷でロルフィング・セッションと脳科学から栄養・睡眠・マインドの脳活(脳科学活用)講座を提供している大塚英文です。

先週(2025年4月8日〜)から、東京の市ヶ谷で日本ロルフィング協会主催のアドバンスト(上級)・トレーニング(AT)に参加している(講師は、Ray McCallと田畑 浩良さんの2名)。

今回は、エネルギーワークとボディワークを「情報のやり取り」という視点から捉え直し、両者の関係性や統合的な理解についてまとめる。

エネルギーの定義

「エネルギー」という言葉は、物理学では「仕事をする能力」と定義され、線形的な因果関係に基づいている。​一方、ボディワークで扱うエネルギーは、非線形で非局所的な現象を含み、既存の科学的枠組みでは説明が難しい。​

たびたび、本ブログで登場するJeff Maitlandは、エネルギーワークや繊細な技法は、明確なタッチやプレゼンス、グラウンディングが身についた後のトレーニングの終盤で扱うべきであると以下の言葉で述べている。

“You don’t teach energetic work and subtle skills in the beginning, because that only confuses students. Those kinds of approaches need to come at the end stages of training, after they have learned clear touch, presence, and how to be in a grounded, calm state.”
「エネルギーワークや繊細な技法を最初の段階で教えるべきではありません。それは学生を混乱させるだけです。そういったアプローチは、明確なタッチ、プレゼンス、落ち着いたグラウンディングした在り方が身についた後の、トレーニングの終盤で扱うべきものです。」

このような状況なため、ロルフィングの教員(Faculty)との間でも賛否両論があるため、基礎トレーニング(BT)の中で「エネルギー」扱うことなく、慎重に扱われている。なんといっても、今回のATで初めて大々的に取り上げたトレーニングでもあるのだ。

ボディワークとエネルギーワーク

ロルファーのKevin Frankによると、ボディワークは筋膜や骨格などの物理的構造へのアプローチであり、エネルギーワークは目に見えない情報のフィールドへのアプローチと分けて考えることが可能だという。

​両者は対立するものではなく、情報の伝達という共通項を持つ連続体の両端と捉えることができる。​要は、ボディワークもエネルギーワークも、すべて「情報のやり取り」として理解できる。​

エネルギーと情報モデル

エネルギーワークを情報のやり取りとして捉えると、以下のような視点が得られる。​

1. 生体は自己組織化システムである

General System Theory(一般システム理論)では、生体は外部からの情報刺激に対して自己組織的に反応し、秩序を再構築すると考える。​Rayは、これを「身体は自己調整できるシステムである」と表現している。

2. エネルギーは情報的構造としての「場」である

Bob Schreiのソースポイントセラピー(Source Point Therapy)では、身体の周囲に秩序情報のフィールド(ブループリント)が存在し、身体はそれとつながっているとされている。​これは、身体が常に外部と情報交換している「開かれたシステム」として捉える。​

3. 二元論を超えた全体論的視野

General System Theoryは、主観と客観、心と身体、内と外といった二元論的な分離を超え、構成要素相互の関係性そのものに意味を見出す。​Kevin Frankは「ボディワークとエネルギーワークの区別は本質的にはない。すべては“情報”である」と表現している。​

参考に、情報理論には、2つのアプローチがあり、一般ソマティックスとの比較でみるとわかりやすい。


General SomaticsとGeneral System Theoryの違い

項目General Somatics(一般ソマティクス)General System Theory(一般システム理論)
主な関心身体の主観的体験、知覚、感覚、自己調整の学習複雑系の構造と相互関係性(生体・生態系・社会などすべての「システム」)
アプローチ第一人称の体験的視点(felt sense)構成要素間の情報・相互作用・自己組織化の法則を記述
代表的理論家Thomas Hanna、Moshe Feldenkrais などLudwig von Bertalanffy(創始者)、Gregory Bateson など
身体観身体=主観的に感じる“自己”の場身体=情報を統合・自己調整する動的なシステム
応用領域ソマティクス教育、動きの再学習医学、心理学、社会学、エコロジー、教育、ロルフィング など

Jeff Maitlandのエネルギーの捉え方

Jeff Maitlandは、禅と現象学の影響を受け、知覚そのものが「意識の在り方」によって変化することを強調している。​

Jeffにとってのエネルギーワークは、「癒しが自然に起こる場(フィールド)を保持すること」プラクティショナーの役割は、癒しを引き起こすことではなく、癒しが起こる空間を保つことにある。その結果、あるがままが立ち現れていくという。

まとめ

エネルギーワークとボディワークを「情報のやり取り」という視点から捉えることで、両者の関係性や統合的な理解が深まると思う。​

この視点は、クライアントの自己調整力を引き出し、より深い変容を促すための重要な鍵となるのではないかと感じ、今回のブログで取り上げた。

少しでもこの投稿が役立つことを願っています。

この記事を書いた人

Hidefumi Otsuka