ロルフィングのセッションの後半(特に8回と9回)になると、身体部位に施術するという手法から、クライアントご自身が能動的に身体を動かすことで身体部位へアプローチするというムーブメントへと重心が移る。Phase IIIでは、このムーブメントを練習し、セッションへ取り入れる機会が多くなっている。
以前、本コラムで、ロルフィングは無意識になっている身体地図(ボディスキーマ)を書き換えることにあると述べた(「Case Presentation(2)〜セッション7を終えて」参照)。ムーブメントを取り入れると、動きを通じて身体地図に働きかけることができるようになり、クライアントの選択肢の幅が広がるのだ。
実は、ロルフィングには認定ロルファーとロルフ・ムーブメントという2つの資格があり、ムーブメントは独立してトレーニングを行う。認定ロルファーであり、ロルフ・ムーブメントの資格をもつ鎌田孝美さんが、最新のブログ記事「ロルフムーブメントと身体地図」」で、ロルフィングにおけるムーブメントの意義を分かりやすく紹介している。
ロルフィング、とくにロルフムーブメントは、身体の無意識を意識化する作業です。無意識に働いているsensory motor neurons(注:自分の身体を自分のものとして感じることができるセンサーのこと;感覚ー運動神経)を意識化して、無意識の反応を意識化する。
これがなぜ重要かというと、できない動きができるようになるからです。ロルフムーブメントではイメージを多用します。イメージングにより、未開だった、あるいは事故などにより断絶した感覚ー運動神経を蘇らせるということが可能になるからです。たとえば脳卒中や事故の後遺症に対するリハビリに使えるし、あるいは今の動きをさらに洗練されたさらなる高みに持って行きたいプロの運動家などに応用出来ます。
「できない動きができるようになる」というところがミソだ。
本日(2015年3月13日)のトレーニングは、クライアント・セッションがないOPENの日であったため、練習会と質疑応答(Q&A)が行われた。
ムーブメントをセッションに取り入れる意義は分かったが、いざPhase IIIのセッションで取り入れてクライアントと一緒に進めると、何をやっていいのか分からなくなり、クライアントとのコンタクトを失ってしまうことが多い。そこで、自分を見失うことなくムーブメントをセッション中に取り入れるにはどうしたらいいのか、Q&Aで聞いてみた。

Jörg先生によると、
身体内にスペース(空間)を作り、2つの方向性をもつようにすること(create space and orientation)
がムーブメントにおいて大切だという。
細かいところは以前の記事に譲るとして、大まかに述べると、身体のスペースについては、身体内にスペース(空間)があることに意識を向ける(英語でevoke)ことで、余計な筋肉の力が抜けていくというロルフィングの考えからきている(「Articulationという言葉〜身体に空間を作るということ」参照)。
また、ロルフィングでは、Phasic Muscle(一時的に働き、疲労しやすい筋肉)よりもTonic Muscle(持続的に働く、エネルギー効率の高い筋肉)を活性化する方向に施術が組み立てられているが、Tonic Muscleは身体に2つの方向性をもたせることで働くようになる(「2方向性が身体を調える〜Tonic Functionと歩行・座位」参照)。
そしてロルフィングの5原則からクライアントのニーズについて考える(「5原則」参照)。
例えば、クライアントはSupport(サポート)が必要なのか、それともAdaptability(適応性)が必要なのか。下半身が上半身のSupportに必要な場合には、どの体勢からムーブメント・セッションをクライアントと一緒に実践するのか。そして、クライアントが無理のない範囲でどこまでムーブメントができるのか。こうしたことを考える。
時に、クライアントとのコンタクトができないこともあるが、その場合には、
ペースを落とす(Slow down)
ムーブメントの可動範囲を少なくしていく(Decrease the range of motion)
ことを考慮する。
なお、クライアントの使ったことのなかった動きを意識化することに対しては、可動範囲が少なくてもよく、特にこういったムーブメントがあるのだという決まりがあるわけではない。
これは一つのフレームワークと言えるが、こういったフレームワークを各セッションでJörg先生は紹介してくれるので、本当にありがたいと思う。
ムーブメントはクライアントの選択肢を広げるために今後是非とも取り入れたい手法だ。そして、トレーニング中でも現在、最も時間を割いている手法だ。これまでの長時間にわたるトレーニングの模様をビデオで録画してきたが、今後それらを復習し、自分なりのムーブメントを取り入れたセッションができるようになればと思っている。
2026年8月の注記
この記事でJörg先生が渡したのは、create space and orientation という一言だった。身体のなかに空間を作り、二つの方向性をもつようにすること。加えて、5原則からクライアントのニーズを見ること、コンタクトが取れなくなったらペースを落とすこと、可動範囲を小さくしていくこと。フレームワークと呼んではいるが、実際に手元にあったのはこれだけである。
この語のうち Orientation は、二年後から始まる Rolf Movement Training で、Fixed Point と対にされた正式な用語として現れる。Pre-movement、Phoric Function も同じトレーニングで渡された。「身体地図と幻肢」で立てた「では、どうやって書き換えるのか」という問いに、2015年の記事は答えていない。答えは二年後に来たが、body schema の語彙ではなく Tonic Function の語彙で来た。用語としては途切れ、扱う事柄だけが翻訳されて続いた。
ただし、その語彙の一つは、途切れる前の教室で既に口にされていた。体系としてではなく、行き詰まった生徒に渡す手がかりとして。
可動範囲を小さくしていくという助言も同じ性格を持つ。動きが起こる前の準備の段階に働きかけるという考え方は、後に Pre-movement という概念で説明され直すことになる。当時は理由の説明がないまま、そうするとうまくいくという形で渡された。
現象が先にあり、名前が後から来るという形は、このシリーズで何度か書いてきた。ここで起きているのはその逆にあたる。名前のほうが先にあり、体系が後から来た。二年のあいだ、この語は意味の分からないまま手元に置かれていたことになる。
なお、この記事の末尾に書いた「今後是非とも取り入れたい手法だ」は、2017年3月に果たされる。そのときのワークショップで教わった Gael Rosewood は、1969年にエサレンでアイダ・ロルフと出会い、1971年に始まった最初の Rolf Movement Training の参加者だった。



