宣伝をしていないのに人が来た

ロルフィングを仕事にして(第1回)

2015年6月29日、渋谷でロルフィングのセッションを始めた。最初の1週間に来たのは9人で、大半が体験セッションだった。1年後の2016年7月には、フル・セッションが610本、10回を終えた人が32名になっていた。

開業した当初、ロルフィングの宣伝はしていなかった。それでも人が来た理由を、開業前の準備までさかのぼって書いておきたい。

開業を決めたとき、課題は「どうやるか」だった

2015年3月にミュンヘンで認定を受け、4月に帰国した。5月に参加した遊識者会議で、山口揚平さんの講演を聞いた。仕事では「何をやるか?」よりも「どうやるか?」が大事で、特に利益の出る仕組みづくりの確立が大切だ、という話だった。

製薬業界に戻るという選択肢もあった。ただ、外資系製薬会社でメディカル・マーケティング業務に携わっていたころ、数字に追われる中で、薬の適正な情報を必ずしも届けられていない現状に何度も出会っていた。ピーター・ドラッカー(Peter F. Drucker)の言う「顧客の創造」が、製薬会社では「患者の創造」になってしまう。その矛盾を感じていた。

このとき大事だと思ったのは、「他人に依存せず、自分で選択をすること。そして、お金を稼ぐ場合には、自分のみならず他人の幸せを感じることをすること」だった。開業を決めた時点で、「どうやるか」が課題になっていた。

先輩のロルファーに聞いたこと

帰国してからの休養期間に、日本で開業しているロルファーの伊藤彰典さん、佐藤耕祐さん、佐藤博紀さんに会った。どうしたらお客さんが来るのか、ビジネスとして成り立たせるにはどうしたらいいのかを聞いた。

学んだことは2つあった。体験セッションを加えることと、施術室を独立して確保することである。

場所は、6月1日に渋谷駅から徒歩5分圏内の40平米の部屋に出会い、1週間以内に契約した。料金は、体験セッションを1回3,000円、ロルフィングの各回を1回10,000円にした。体験は、費用を抑えた形で提供した。

体験セッションでは、ロルフィングとは何かを短く説明し、立つ・歩くを見たうえで、必要なところだけを施術した。施術の回数は減らし、体験が混乱しないようにした。体験していただくのが一番だと、最初の1週間で実感した。

書いてきたことが、応援してくれる人を増やした

会社を辞めた直後、弟から、資格を取るまでの過程を書けば応援してくれる人が増える、と言われた。正直に書くことの大切さも教わった。

2014年7月にロルフィングのコラムを書き始め、世界一周とトレーニングの1年間で、記事は288本になった。Facebookでシェアすると、トレーニングを終えたロルファーの鎌田孝美さんが何度も取り上げてくれた。ヨガの練習仲間からは「いつ始めるの?」と声をかけられた。

振り返ると、「結果的に、ロルフィングの開業をしていく上で、周囲の期待値を上げ、応援していただける仲間も増えていった。」そして、いろいろな人からの紹介で、開業の当初から多くのお客さんが来てくれた。

開業して1か月の時点で、ロルフィングのことを全く宣伝をしていないにもかかわらず、思いがけないところから「セッションを受けてみたい」という声が届き、初めて会った人から「ロルフィングのブログを読んでいるよ!」と言われた。コラムの読者の何人かが、お客さんとして来ていた。

「いいね!」の数は多くなかった。Facebookの友人は1,650人ほどいたが、ブログ記事の「いいね!」は10〜20ほどである。それでも、来てほしいと考えていた人たちが来た。

人が集まる場を、開業前から持っていた

会社員だった2008年ごろから、「毎週知らない人と出会う」ことを実践していた。最初の誘いを断らない、人と会う仕組みを作る、情報は発信するところに集まってくる、見返りを求めない。行動しながら学んでいくうちに、一時は1日に1人のペースで新しい人に会うようになった。

Facebookのつながりが1,000人を超えたころ、2012年から奥沢で人が集まれる広い部屋を借り、ワークショップやヨガのレッスンを開いた。運営と集客をここで小さく経験していたことが、開業の後に役に立った。小さい形で事前に活動し、準備することの大切さを、2周年のときに書いている。

最初の数か月

2015年7月のロルフィングのセッションは24回だった。9月の末には、セッション・ルームでのセッションが100回を超え、初めて10回を終えた人が出た。

開業から3か月のころには、もう次の不安があった。いま来ている人たちが10回を終えて巣立った後、新しい人は続けて来るのか。宣伝で呼び込むより、口コミで広まる方がいいと思っていたが、それができるのかは分からなかった。

佐藤博紀さんと伊藤彰典さんに会ったとき、この話になった。二人の答えは、自分の気持ち次第というものだった。自分の気持ちがしっかりとしていてクライアントに向き合えば、自然と集まってくる。自分がコントロールできないことを考えるより、できることに集中した方がいい、と解釈した。

5か月目の12月には、こう書いている。「集客を振り返ると、ほぼ全て口コミの紹介が中心。」一人一人のお客さんを大切にすることが、次につながっていた。

レンタルで、仲間を増やす

セッションの入っていない時間は、部屋を貸した。料金は渋谷付近の同じような部屋より低くした。

ねらいは2つあった。一つは、活動を知ってもらうこと。部屋にはパンフレットがあり、借りた人のお客さんの目に触れる。もう一つは、応援してくれる仲間を増やすことだった。営業の言葉を磨くより、どうしたら活動を理解して応援してもらえるかを考えた方がいい。一人でやれることには限りがあるからだ。

開業8か月の時点で、「お客さんを取得するよりも自分の仲間を増やすことに専念してきた。」と書いている。その結果として、集客が2〜3年めのロルファーと同じだけのお客さんが集まっている、とも。レンタルは、ほとんど告知していないのに、ヨガやピラティスの指導者、ロルファーの利用が増えていった。

職人のスキルだけでは、人は集まらない

一方で、口コミだけに頼る危うさも感じていた。知人を介した口コミも役立つのだが、それだと、いいときと悪い時に左右されてしまう。

2016年1月、「売れる仕組み実践会」を主宰する宮城真吾さんのセミナーで、個人事業に要る力を3つに分けて聞いた。ビジネス力(経営力、設計力)、売れる力(集める力、売る力、稼ぐ力)、そして職人のスキルである。職人のスキルだけで個人事業を始めると、それとは違う力が要る集客で壁にぶつかる。

資格を取ると、スキルを磨くためにセミナーに通いたくなる。自分もそうだった。けれども、このころから考えを変え、今のスキルでも質は十分だと信じて、なるべくセッション・ルームにいてセッションに集中するようにした。製薬会社にいたころから、「いい薬は売れるとは限らない。どのように伝えるのか?が大事!」と考えていた。

1年目の終わりに

2016年4月には、月に60セッション近く(平均で週15セッション)が見込めるようになっていた。そこで、開業1周年を機に、2016年6月1日からロルフィングのセッションを1回5,000円上げることにした。最初から支えてくれたお客さんは、その年の末まで以前の料金のままにした。

「私にとって料金を上げることは一つのチャレンジに思っています。」と告知に書いた。告知の後も、新しいお客さんは着実に増えていった。

開業の直前に、Excelのファイルに1年の目標を書いていた。10回を終える人の数も、月の売上も入れていた。1年後に見返すと、ほぼ全てが達成されているか、それ以上になっていた。2016年7月26日の時点で、フル・セッションは610本(月平均50本)、10回を終えた人は32名。多い週には25セッションになった。

2016年5月までに来た約100人は、平均39歳で、7割が女性だった。当初、35歳の女性を想定してブログを書いていたので、それに近い。身体の感覚に優れた人の割合も高かった。

まとめ

最初の1年に人が来たのは、宣伝のおかげではなかった。トレーニングの間から書き続けたブログが応援してくれる人を増やし、開業前から人が集まる場を持っていたことが紹介につながった。体験セッションという入口と、レンタルで仲間を増やす工夫もあった。

ただ、それは口コミと勢いで回っていた1年でもあった。開業から3か月で感じていた「10回を終えた人が巣立った後、新しい人は来るのか」という不安は、開業から2年あまりで現実になる。

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12年の集客と事業の記録は、ロルフィングを仕事にして──集客と事業の記録にまとめている。

この記事のもとになった記録

この記事を書いた人

Hidefumi Otsuka