身体に力が入っているときに、リズムを変えると力が抜ける時がある。例えば、歩行のときにゆっくり歩いているところを早くする。普段は吸いながら腕を上げる人に、吐きながら腕を上げてもらう。身体の使い方を変えるとクライアントは違った身体の使い方が身につくことがあり、Phase IIIのトレーニングでは、セッション中に取り入れることがある。
このように違った身体の使い方、つまり知覚を変えることを、ロルフィングではモダリティ(Modality)を変えてみるという言い方をする。馴染みの薄いこのModalityという言葉をOxford Advanced Learner’s Dictionaryで調べてみると、3つの意味が出てくる。
- the particular way in which something exists, is experienced or is done.(ある事柄の存在様式、経験及び方法)
- the ideas expressed by modals(法助動詞によって表現されるアイデア)
- the kind of senses that the body uses to experience things.(身体が経験する際に用いる知覚の種類)
という3つの意味が出てくる。ロルフィングで使うのは、3.の「身体が経験する際に用いる種類だ」。
ロルフィングで使うのは3の意味、身体が経験する際に用いる知覚の種類だ。
残念なことに、Phase IIIのトレーニングでは、モダリティとは何であり、どういった影響を身体に及ぼすのかについて詳細に学ぶ機会がない。そこで、今回は米国で発達した心理学の一つ、NLP(Neurolinguistic Programming、神経言語プログラミング)からモダリティに迫ってみたいと思う。
なお、私自身がどのような経緯でNLPに興味を持つようになったのか?については「心と身体について〜身体を動かすことによって心が変化する」で触れている。
NLPは、1960年代、心理学を専攻していたリチャード・バンドラーと、言語学者のジョン・グリンダーの2人が開発した心理学のモデルの一種である。このモデルは、3人の天才心理療法士(治療の魔法使いとも言われた)を分析しモデル化することで生まれた。3人とは、催眠療法を実践していたミルトン・エリクソン、ゲシュタルト療法のフリッツ・パールズ、家族療法のバージニア・サティアのことである。
余談になるが、Ida Rolfの著書 ‘Rolfing and Physical Reality’ によると、1950年代までにアイダ・ロルフはニューヨークで25年間施術を行いつつ、米国、カナダや英国でその手技について教えていた。
ロルフィングが世界的に有名になってくるのは、アイダがEsalen Instituteを訪れてからのことだ。フリッツ・パールズが招待したのである。そこでパールズと交流するようになり、Esalen Instituteで本格的にロルフィングのトレーニングを行うようになる。そう考えると、NLPはなんらかの形でロルフィングに影響を与えているように思う。
NLPは、神経(Neuro、五感を通じた情報収集によって世界を認識)、言語(Linguistic、五感を通じて得られた情報を言語化)、プログラミング(Programming、体験や経験によって作られた人間の中にあるプログラム)の3つの言葉からなる。
NLPは、クライアントの現在の状態を分析した上で、クライアントが望ましい状態になるためにはどのように対処したらいいのかを扱う。そのために様々なスキルが用意されている。信頼の獲得や身体観察、言葉の使い方等が挙げられる。その中でモダリティを使ったスキルは、NLPの特徴をもっともよく表していると思う。
「心と身体について〜身体を動かすことによって心が変化する」で触れたように、人間が外界を認識する際、視覚、聴覚、体感覚など、五感で感じた様々な構成要素を組みあわせて記憶するのだが、この構成要素をモダリティという。
興味深いことに人には癖があり、視覚(visual、V)、聴覚(auditory、A)、体感覚(kinesthetic、K)のうち、どれかが優位なケースが多い(合わせてVAKと呼ばれる)。そして、NLPは詳細にVAKを見ていく(そのことをサブ・モダリティ(Submodality)とも呼ぶ)。
ある出来事を経験すると人はそれを記憶する。例えば、ジェットコースターの体験、人から怒られた体験、人から褒められた体験等。その体験はVAKのサブ・モダリティの中に保存される。
私の例をあげたい。
自分が人から怒られた体験を思い浮かべると、視覚的には目線は斜め下の近い距離にその映像が見え、モノクロにみえる。聴覚的には、その出来事は左耳の方が聞き取りやすく、音量の大きさは10段階で6、音声が高く、音のスピードが速いことを聞き取ることができる。体感覚的には、心臓あたりに感じ、温度は冷たく、重さを感じ、ずっしりと固く感じる。
一方で、人から褒められた体験を思い浮かべると、視覚的には目線は中央の上、映像が大きく見え、カラーにみえる。聴覚的には、右耳、音量の大きさが10段階で4、音声が中ぐらい、音のスピードが中ぐらいと聞き取れる。体感覚的には、全身に感じ、温度は暖かく、軽く、柔らかく感じる。
このように、問題のある状態(人に怒られた体験)とうまくいっている状態(人から褒められた体験)で、違ったVAKのサブ・モダリティの形で保存されることがわかる。
では、人から怒られた体験を、うまくいっている状態のVAKに変えてみるとどうなるか。実は、体験してみると驚くのだが、一瞬のうちにネガティブな出来事に対する見方が変わってしまうのだ。
このように体験した記憶はVAKという形で保存される。その後は、同じ出来事に遭遇した時に、出来事に反応するのではなく、出来事の記憶に反応することになる。そして、上記のことが示しているように、VAKを変えることで出来事の記憶を書き換えることができる。
このように考えると、身体観察を行う際に、ネガティブやポジティブな体験がどのようにVAKで保存されているのかを知ることが重要であることがわかっていただけたと思う。
次回、もう少しロルフィングとの関係で語りたいと思う。
2026年8月の注記
この記事の中ほどに、教わらなかったと書いてある。モダリティとは何であり、どういった影響を身体に及ぼすのか、Phase IIIでは詳細に学ぶ機会がない、と。そして、その空白を、二年前まで学んでいたNLPの語彙で埋めている。
十一年たって読み返すと、ここで始まっているのは記事の埋め合わせではなく、仕事の方法そのものだったことが分かる。ロルフィングの語彙に外部の体系を接続して説明する。
この記事が使ったのはNLPだったが、その後はポリヴェーガル理論、ソマティック・エクスペリエンシング、免疫学、神経科学と、対象を変えながら同じことを続けている。教室で説明されなかったから外を探した、という一回きりの行動ではなく、以後の書き方の型が、ここで形を取っている。
もっとも、借りた枠組みには限界もあった。VAKという分類は、1970年代に3人の心理療法士の観察から取り出されたもので、実験による裏づけを持つ体系ではない。視覚・聴覚・体感覚という三つ組は、姿勢の3要素 で扱った視覚・内耳感覚・筋感覚とは別の由来を持ち、重ねて読むことはできない。当時はその区別がついていなかった。
そして、トレーニングの側にも、モダリティを扱う枠組みは存在していた。2015年3月の教室には出てこなかった。
三年後のRolf Movement Training で、France Hatt-Arnold から Territorial Body と Body of Action という分け方を教わることになる。身体の部位ごとに、どの知覚を通じて経験させるかが対応づけられていた。自分の身体の内側を意識できていない人には固有感覚が得られる動きを、身体の各部位へのアプローチには Peripersonal Space に対する動きを、身体が自分のものだという感覚には周囲の環境を通じた動きを。
France は1986年に Rolf Movement の認定を受け、ロルフィングの認定はその4年後にあたる。動きの側から入った人である。そして Hubert Godard に20年学んでいる。姿勢を組み立てる持続的な働き、Pre-movement とそれへの働きかけ、協調の習慣を変えるうえで知覚が果たす役割。教室で渡された対応表は、その二十年から出てきたものだった。
2015年のこの記事は、呼吸だけでなくイメージ、嗅覚、視覚も使えると並べて終わっている。三年後に渡されたのは、その並びが、どこに何を当てるかという対応関係になったものだった。並んでいたものが、後に対応表になっている。
Peripersonal Space という語には、さらに前がある。Phase I で配られながら読まなかった論文に、この語が使われていた。読まないまま三年後の教室で実務の手続きとして受け取り、さらに後に、パーソナル・スペースについて自分で一本書くことになる。






