はじめに
東京・渋谷でロルフィング・セッションと脳科学から栄養・睡眠・マインドの脳活(脳科学活用)講座を提供している大塚英文です。
私は、2015年6月から、ロルフィングのセッションを提供している。「筋膜」へアプローチすることで、身体の姿勢が整えていく。ロルフィングで見る姿勢は「歩く」「立つ」「座る」の3つだ。
地球には「重力」があるにも関わらず、なぜ「姿勢」を維持することができるのだろうか?今回はこの点に関して「固有受容感覚」「前庭感覚」と、「筋紡錘」「γ運動神経系」から解き明かしていきたい。
「姿勢」と人間〜「姿勢反射」から「固有受容感覚」「前庭感覚」「視覚」へ
1915年から1930年にかけて、SherringtonとLiddellは「立つ」姿勢には、重力によって身体を押し潰されないように、重力に対抗して働く「抗重力筋」が働くこと。「抗重力筋」は、身体の「姿勢」を適切に維持し、反射的に働く「姿勢反射」(postural reflex)によって支配されていることを明らかにした。
1934年には「姿勢反射」は、脳(脳幹と小脳)の働きによって決まることが明らかとなり「姿勢」と「姿勢反射」との関係は、一見解決したかのように見えた。
1986年に入り「姿勢」のバランスを維持するために、固有受容感覚(Proprioception)、前庭感覚(Vestibular)、視覚(Visual)の重要性も明らかになってきた。特に、固有受容感覚、前庭感覚は、灰谷孝さんの「人間脳を育てる〜動きの発達&原始反射の成長」によると、無意識を育てることにつながるという。
視覚は、目から入ってくる情報で、姿勢に関わるということは、理解できると思う。一方で、固有受容器と前庭感覚については、意外とわかりにくいので、わかりやすく解説しているので、身体感覚について上手に表現している灰谷さんの本を元に、考え方を紹介したい。
「固有受容感覚」とは?〜私はどこにいるのか?教えてくれる感覚
固有受容感覚は、関節・筋肉の動きを脳に伝える感覚。「姿勢」においては、指先、足の裏、膝など、身体の全部の位置がどこにあるのか?を感知している。灰谷さんによると、固有受容感覚が弱いと、障害物の距離の取り方が掴めず、ぶつかる、人間の距離の取り方にも影響することや、私は誰か、どこにいるのか?を教えてくれる感覚だそうだ。
「前庭感覚」とは?〜自分の中心軸の意識、主体性を発揮
前庭感覚は、身体をまっすぐに保つのに必要な感覚。身体の中心軸を整えることで、この感覚が意識できる。ロルフィング10回を受ける目的は、この感覚を取り戻すこと。灰谷さんによると、重力の中で自分の身体を自由に使えることが、自分の能力を発揮するということにつながると書いている。
さらにいうと、重力がある中で、今この活動にどの程度筋肉の力を入れるのか?ができないそうだ。読み書き聞き取りが苦手な人は、首の筋肉が極端に弱い、無意識的に自分の筋肉をコントロールしにくいことも挙げられる。
筋紡錘とγ運動神経系〜負担の少ない「姿勢」を保つ
「固有受容感覚」と「前庭感覚」の2つは、脳神経系へ情報を伝わることで、脳神経系から、姿勢に関わる筋肉に指示が送られる。この点についても、大きな発見があった。
1986年に、「姿勢」とガンマ運動神経系と筋紡錘との関係も明らかになってきたのだ。
筋紡錘は、筋肉のセンサーであり、筋肉の伸ぴ縮みを感知する感覚器官として知られている。例えば、ヨガや瞑想のクラスに参加した人は、「身体を意識しなさい」という言葉を聞いたことがあると思う。意識した時に、スイッチが入るのが筋紡錘だ。
身体が重力を探知すると、筋紡錘のスイッチが入りやすくなるため、重力を意識しなくても筋紡錘の多い持続的に働く筋肉が無意識に動くことができる。「固有受容感覚」「前庭感覚」が無意識に働くことができるのは、筋紡錘のおかげと言ってもいい。
「姿勢」の筋肉が働くには、脳からの神経系の指示が必要。これは、運動神経と呼ばれ、α運動神経系とγ運動神経の2つが知られている。
α運動神経系(運動神経系の2/3)は、人間の脳によって働く神経系の一つであるため、意識して動かす筋肉に働きかける。スプリント、ウェイトリフティング、物を持ち上げるときなどに使われる。重力下に置かれた時に、一時的に働く筋肉であり、疲れやすい。肩こり、腰痛は、「姿勢」維持に働く筋肉のうち、疲れやすい、一時的に働く筋肉が働いている可能性が高い。
γ運動神経系(運動神経系の1/3)は、直接意識するというよりも無意識や習慣に関わる小脳や延髄などの支配を受けており、筋紡錘の多い、重力下に置かれた時に、持続的に働く筋肉に働きかける。こちらは疲れにくい筋肉のため、できるだけ「姿勢」維持においては、働いてほしい筋肉だ。
このように考えると、疲れない筋肉を働かせ、姿勢を維持することが、重要だということがわかると思う。要は「如何にしてγ運動神経系を活性化して、身体内のエネルギーの効率の高い持続的に働く筋肉を最大限生かしていくか?」と言ってもいい。
「姿勢」に関する歴史は、これまでにして、「姿勢」を整えていく上で、γ運動神経系を活性化し、使えるようになるためにはどうしたらいいのか?紹介したい。
γ運動神経系を活性化するために〜手と足を使う
γ運動神経系を活性化するためには「筋感覚」を使えている状態が鍵となる。
「筋感覚」は「「立つ」姿勢が明らかにする「視覚」と「重力」のバランス」で紹介したように、「手、足、頭・顔を含めた外部の環境を受け取る五感を担当する器官がしっかりと情報を受け取り、的確に身体の内部に情報が伝えることができるかどうか?」に対して働く感覚だ。
なぜ、これらが「γ運動神経系」を活性化するのに大事なのか?手と足(手は手のひら全体、足はアーチを含め全て)がしっかりと使えると、背骨の深層にある「姿勢」に関わる筋肉群が安定するからだ。
例えば、手のひら全体が、力を入れずに「吸い付けられる」ようにヨガ・マットでポーズ(例えば、下向きの犬のポーズ)をとると、肩甲骨の前鋸筋、菱形筋、背骨を結ぶ深層筋が使えるようになる。これらの深層筋が、持続的に働く筋肉に該当し、γ運動神経系を活性化することができるのだ。
ロルフィングの10回セッションは「如何にしてγ運動神経系を活性化して、身体内のエネルギーの効率の高い持続的に働く筋肉を最大限生かしていくか?」を主目的に、全体が組み立てられており、特に「筋感覚」の意識が高められるようにできている。
まとめ
「重力」があるにも関わらず、なぜ「姿勢」を維持することができるのだろうか?今回のブログでは、「固有受容感覚」「前庭感覚」と、「筋紡錘」「γ運動神経系」の視点から明らかにしていき、負担のかからない姿勢を維持していくために、どう身体を意識していけばいいのか?を中心にまとめた。
ぜひご興味のある方、ロルフィングのセッションを受けることをお勧めします(体験セッションも行っています)。少しでも、この投稿が役立つことを願っています。