【R#355】ロルフィングと「関係性」──「世界は関係でできている」を「身体」からどう見るか?

はじめに

東京・渋谷でロルフィング・セッションと脳科学から栄養・睡眠・マインドの脳活(脳科学活用)講座を提供している大塚英文です。

ロルフィングは、筋膜へアプローチをすることで身体を整える。身体を一つの大きなシステムとして捉えると、関係性という言葉が浮かび上がってくる。

今回のブログでは、物理学者のカルロ・ロヴェッリが提唱する「関係性の物理学」の視点を取り入れつつ、ロルフィングにおける「関係性」の意味について深掘りしたい。特に、ロヴェッリの著書『世界は「関係」でできている』の内容を参照しつつ、身体と世界のつながりについて深めることができればと考えている。

Ida Rolfの「関係性」──重力との協調

“When the body gets working appropriately, the force of gravity can flow through. Then, spontaneously, the body heals itself.”
— Dr. Ida Rolf
「身体が適切に機能するようになると、重力の力が体内を流れることができる。すると自然に、身体は自ら癒されていく。」

ロルフィングの創始者Ida Rolf(アイダ・ロルフ)は、「身体が整う」とは、重力との関係性が調和することにより、身体が癒されると考えた。それは、身体は独立した「物」ではなく、重力との相互作用の中で初めて“生きた身体”として現れるということにつながる。「構造の再統合」とは、世界(重力)との関係性を再構築するプロセスと言ってもいい。

Jeff Maitland:身体=現象の場、関係性の生成

“Seeing is letting ‘what is’ show itself.”
— Jeff Maitland, Embodied Being
「見るということは、“あるがまま”が自ら現れるのを許すことである。」

ロルフィングに哲学的な側面を取り入れたJeff Maitland(ジェフ・メイトランド)にとって、セッションとは「関係を作り」そのもの。ロルフィングは一つの出来事(event)であり、「見ること」「触れること」「待つこと」によって生まれる関係的な空間があって、初めて変化が自然に立ち現れると言っている。

重要なのは、プラクティショナーが主導するのではなく、関係性の場が現れるのを待っていく姿勢である。

Kevin Frank:構造と機能の統合は情報のやり取り

“We’re not touching tissue. We’re touching information.”
— Kevin Frank
「私たちは組織に触れているのではない。情報に触れているのだ。」

Rolf Movementの講師であるKevin Frank(ケヴィン・フランク)は、「情報」という概念を用い、ロルフィングを心身を分けることができないある種の「情報」交換として捉える。そして「情報」はプラクティショナーとクライアントと「関係性」の「場(フィールド)」なかで交わされる。

カルロ・ロヴェッリの関係性の物理学:世界は「関係」でできている

“There are no things, only processes and relations.”
— Carlo Rovelli, Helgoland
「“もの”というものは存在しない。あるのは、プロセスと関係だけである。」

物理学者のカルロ・ロヴェッリ(Carlo Rovelli)の量子重力理論は、「実体(モノ)」を否定し、「関係性(relation)」こそが現実の本質であると主張している。電子や粒子も、独立した存在ではなく、他との関係の中でのみ性質が定義される。

彼の著書『世界は「関係」でできている(Helgoland)』(詳細は「世界は関係でできている〜カルロ・ロヴェッリが語る“つながり”の世界」にまとめた)は、こうした思想をわかりやすく展開。この本は、ロルフィングの身体へのアプローチの考え方と深く響き合う内容が含まれており、興味深い内容になっている。

ロルフィングにおける「よい関係性」とは何か?

ロヴェッリの「関係性=世界の構成原理」と、ロルファーたちの「関係性=セッションの場の質」とを統合して考えると、以下の3つのポイントがあることに気づく。

1. 関係性は固定的でなく、場の関係性によって変化が起きるものである

クライアントの身体構造は固定されたものではなく、セッションの中でその場の関係によって変化が起きる。

2. セッションは情報場(informational field)として成立する

触れる・見る・話す・呼吸を合わせる──すべては情報の交換である。心身・空間・時間が編まれていくプロセスそのものが癒しとなる。

3. よいセッション=自他の境界がほどける瞬間

安全で自由な「間(あいだ)」が生まれたとき、クライアントは自分と世界との関係を再構築できる。

ロルフィング10回シリーズと心・精神への影響

ロルフィング10シリーズは、単なる身体の再構築ではなく、世界との関係性を再構築していくプロセスである。

  • セッション1〜3:呼吸、支持、身体の“開かれ”を通して、外界との接続を再確立
  • セッション4〜7:内なるコアとのつながりを築く
  • セッション8〜10:全体統合=自己と他者・世界との動的な関係性の回復

このプロセスは、心の深層やトラウマに触れる作業でもある。実際に多くのクライアントが、身体の変化とともに「気持ちが軽くなった」「自分に戻った」と語っている。

クライアントの声より

  • 「身体が整うことで、思考が整理されるのか、今、自分に何が必要かクリアになった。」(30代・女性・アナウンサー)
  • 「体と心がリンクすることに気づき、自分の中にしっかりとした土台ができた。」(20代・男性・会社員)
  • 「ロルフィングの素晴らしいところは、自立できるように導いてくれること。」(30代・女性・会社員)

これらの声に共通するのは、「(自分との)関係性の質の変化」が身体だけでなく、思考・感情・人生の手応えそのものに影響を与えているという点だ。

結びに──身体という場で関係性を編み直す

ロルフィングのセッションとは、プラクティショナーとクライアント、そして空間・重力・歴史との関係性を編み直す行為である。ロヴェッリが語っているように、「関係性」こそが存在の本質であるならば、ロルフィングはその本質に触れる「身体を通じた関係性のアート」と言ってもいいのではないかと思う。

体験セッションを含め、ロルフィングのセッションにご興味のある方は、ぜひお問い合わせください。

少しでもこの投稿が役立つことを願っています。

参考文献

  • Ida Rolf, Rolfing: Reestablishing the Natural Alignment and Structural Integration of the Human Body for Vitality and Well-Being
  • Jeff Maitland, Embodied Being
  • Kevin Frank, Notes on Rolfing Movement and Perception
  • Carlo Rovelli, Helgoland(邦訳:『世界は「関係」でできている』)

この記事を書いた人

Hidefumi Otsuka