Phase II(9)〜初心者の心〜鈴木俊隆の言葉より

今は仕事や生まれ故郷から離れ、全く違った環境や違った脳(能力)を使うロルフィングのトレーニングに専念できている。初心者であり、全くなにもないところから新たに建物を作っているというイメージが強い。

この気持ちをうまく伝えているのは、禅師の鈴木俊隆の「Zen Mind, Beginner’s Mind」の言葉だと思う。

In the beginner’s mind there are many possibilities, in the expert’s mind there are few.
初心者の心には多くの可能性があるが、専門家の心には可能性がほとんどない。

という。

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ロルフィングのトレーニングでも何度かこの言葉が使われるが、ロルフィングの勉強は、相手のスペースの意識を広げるのみならず、自分のスペースを広げる意識も大事になる(ロルフィングのスペースについての考えは「力を抜くこと(2)」参照)。そのスペースを広げるためにはある程度、心が開いていることが望ましいと思う。

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今、ロルフィングの手技を学んでいるが、うまくいかないこと(例、力を入れすぎる、指や手を痛める、力加減がよく分からない等)が多い。それが許される環境で、学ぶというのは、実際に仕事の場合には難しいと思う。試行錯誤を通じてしか上手くなれないというのはわかっていてもだ。そして、ある程度知識や専門的な見方ができると、ある基準を持って判断や分析が働くようになる。

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その点について鈴木老師は、


As soon as you see something, you already start to intellectualize it. As soon as you intellectualize something, it is no longer what you saw.
何かを見ると、知性が働き始める。知性で考えると、実際見るものと違うものになる。

という。

ロルフィングの場合には、目で見るのみならず、身体で感じることが求められる(「目で見ること、身体で感じること」参照)。おそらく、今この瞬間をキャッチするのは、五感をフル動員して行うことが重要だからなのでしょう。

初心者の気持ちは、仕事から離れて旅を通じて、大事だということに気づいた大切な考え方でもある。この気持ちはこれからも大事にしていきたい。

2026年8月の注記

この記事を書いてから11年が過ぎた。2015年3月に認定ロルファーとなり、2019年にRolf Movement Practitioner、そして2025年には認定アドバンスト・ロルファーとなっている(「Advanced Rolferの認定までの歩みについて【総括】〜認定までの道のり」参照)。

鈴木老師の言う「専門家の心」の側に、いつのまにか移っていたことになる。

この記事を書いた時点では、禅とロルフィングの結びつきを、自分の外側にある比喩として使っていた。ところがPhase IIIに進むと、配布された論文のなかにJeff Maitlandの名前があった。アイダ・ロルフの教えを理論化し、手順に縛られないロルフィング(Non-Formulaic)への道を開いた人物である。

Maitlandは、Purdue大学で哲学を教えた学者であると同時に、禅僧でもあった。師事したのは佐々木承周老師。日本生まれの臨済宗の禅僧で、渡米して米国臨済寺とマウント・バルディ禅センターを創設した人物である。Maitland自身も「法覚」という法名を持つ。この系譜については、田畑浩良さんが「禅と癒やしの技法について」(note)に詳しく書かれている。

彼が最も強調したのが「観察する力(Seeing)」を鍛えることであり、それは単なる目視ではなく、感覚器官全体を使って身体を聴くことだという。この考え方は、鈴木老師の「何かを見ると、知性が働き始める」という言葉とほぼ同じ場所を指している。禅は、ロルフィングにとって外からの引用ではなく、理論の内側に入り込んでいた(「ロルフィングにおける原理・原則と観察力 — Jeff Maitlandのアプローチ」参照)。

もうひとつ。2025年のアドバンスト・トレーニングで講師のRay McCallと田畑浩良さんが繰り返し強調したことも、この記事に書いたことと重なっていた。ロルフィングにおいて最も重要なのは技術ではなく、クライアントの身体が何を必要としているかを聴く知覚力と在り方(Being)だという。技術が身についた後にこそ、判断や分析が先回りすることを警戒する必要がある。

11年前に読んだ「何かを見ると、知性が働き始める」という言葉は、初心者に向けた戒めとして受け取っていた。実際には、経験を積むほど効いてくる言葉だった。

この記事を書いた人

Hidefumi Otsuka