生活習慣から身体を整える 第2回(全3回)
本記事は「生活習慣から身体を整える」シリーズ全3回の第2回である。本シリーズは、ロルフィングのセッションの中でよく聞かれる、日々の生活で何ができるかという問いに答えるものになる。第2回では、水と塩を扱う。
水は、姿勢に関わる
私は、2015年6月から渋谷にて、ロルフィング・セッションを提供している。
人間の体内に占める水の割合は、7割と言われる。筋肉の中も7割近くが水だ。ということは、水が十分に取り入れられていないと、筋肉——つまり姿勢——や、脳の働きに影響が出る。さらに、腸内に生息する腸内細菌も、生きていく上で水を必要としている。
今回は、水をどのように取り入れたらいいのかを、次の視点から考えてみたい。
水分不足をどう判断するのか 身体はどう水を取り入れるのか 実際、水をどう取り入れたらいいのか 腎臓と水との関係をどう見たらいいのか なぜ、水には塩が要るのか
水分不足を知るには?
十分に水が取り入れられたかどうかをチェックする方法を、Huberman Labのポッドキャストが紹介している。二つある。
指先を指で摘み、5秒以内に戻らない。 爪を押して、1秒以内に色が変化しない。
これらが認められた場合には、水が不足している可能性が高い、と。
実は、ここは確からしさの段階が違う。
この二つは、臨床では皮膚ツルゴールと毛細血管再充満時間と呼ばれるもので、どちらも古くから使われてきた所見だ。ただし、脱水の判定としての精度は低いことが分かっている。系統的レビューでは、毛細血管再充満時間や皮膚の所見は、脱水の診断や重症度の評価において有用性が限られるとされている。頻脈、血圧の低下、粘膜の乾燥、眼窩の陥凹なども同様で、いずれも診断精度が低い。
年齢の影響がとくに大きい。加齢で皮膚の弾力が落ちるため、高齢者では脱水がなくても20秒かかることがある。65歳以上では皮膚ツルゴール単独では有効でないというレビューがあり、看護の教科書にも「研究では良い指標ではないことが示されている」と書かれている。小児でも、中程度の精度にとどまると結論されている。
痛くもないし道具も要らないので、やってみること自体は構わない。ただ、これで水分が足りているかどうかが決まるわけではない。
体内に水はどう取り入れられるのか
水について話すために、身体の中で水がどのように取り入れられているのかを見ておきたい。
人間が水を飲むと、二つの方法で体内に取り入れられる。一つ目は、水が拡散的に入っていく方法。二つ目は、アクアポリンという蛋白質を使って能動的に運ばれる方法だ。前者はゆっくり、後者は速く入っていく。飲料として摂った水は小腸で吸収されるが、そこではアクアポリンが使われている。
逆に、体内の水を内臓の外へ出すこともある。消化・吸収に必要な酵素——胃酸、膵液、小腸液——の大部分は水だ。アクアポリンを使って、身体の中から内臓の側へ水を運び出すことで、消化・吸収が進んでいく。涙も目から出てくる水で、こちらもアクアポリンを使う。
ロルフィングで扱う筋膜にも、アクアポリンがある。
セッションで筋膜へアプローチすると流れが良くなるが、これは水が筋膜の中に入ってきて、筋膜が動かしやすくなるからだ。私自身も、セッションを行う中で水の重要さを体感している。
一方で、靭帯や骨への水は、前者の拡散的な方法で取り入れられるらしい。
どれだけ飲むか
暑い夏になると、人間は汗をかく。体温の上昇を避けるために、水を使って熱を外へ逃がす。このために水を失う。睡眠時に200〜500ミリリットルの汗、朝の排尿で、それぞれ水を失っている。
スポーツ・トレーナーで大学の教授をしているアンディ・ガルピンは、早朝に400ミリリットルから800ミリリットルの水を補うといいとアドバイスしている。さらに、15〜20分おきに体重1キログラムあたり平均2ミリリットル(60キログラムなら120ミリリットル)を10時間かけて取ること、およそ2リットルを勧めている。ただし単独で水を取る必要はなく、水を含む食物から摂ることもできる。炭水化物や塩分を取り入れることで、身体の中に水を保持することもできる。
私も経験的に、朝、水を十分に取っていないときは頭が十分に働かない印象があり、この方法をとってから改善された。
ここで、別の見方も置いておきたい。
長寿医療を専門とする医師のピーター・アティアは、一律の目標を置くことに慎重だ。「1日8杯」という規則に異を唱え、尿が完全に透明であれば最適な水分状態だ、という思い込みも否定している。個別化されないまま水を過剰に摂ると、血清ナトリウムが希釈され、低ナトリウム血症のリスクが上がる、と。
彼が挙げる目安は、2〜3リットル。ただしその中には、水分の多い食べ物——果物、野菜、スープ——や他の飲み物も数に入る。そして判断の仕方は、固定した目標に従うことではなく、喉の渇きと尿の色になる。淡い黄色を目安に、と。
同じ領域で、勧め方が違っている。
これは、どちらかが間違っているという話ではないように思う。ガルピンはトレーナーで、目標を設定して達成させるのが仕事だ。アティアは医師で、患者ごとの安全域を見るのが仕事になる。数字の出し方に、立っている場所が現れている。
腎臓も休む
なぜ、水分を10時間以内に摂ることが勧められるのか。
前回書いたように、人間には体内時計があり、腎臓もその支配を受けている。人体はコンビニのように24時間営業ではなく、10時間働いた後に休息モードに入っていく。尿を作る腎臓が夜通し働くと、夜間の排尿に悩むことになる。それをなくすためにも、10時間の期間で水の摂取を考える必要がある。
なぜ「塩」か
水を取り入れるためには、もう一つ必要なことがある。塩を意識することだ。
理由は二つある。
第一に、人間の血液は一定の塩濃度に保たれており、低くても高くても問題になる。
第二に、塩には保水の働きがある。塩が多いと保水の機能が高く、少ないと水を失う。このため、いくら水を取っても、十分な塩がないと水が排泄されてしまう。
ここで「塩」とは、塩化ナトリウムだけを指すのではなく、マグネシウム、カリウムを含めたミネラル分を含めて話したい。
血液の塩濃度は、OVLTと呼ばれる脳の部位によってモニターされている。血中の水分量の低下(血圧低下)、もしくは塩分量が少ない場合に、身体の水分補給を促す。逆に、血圧上昇、塩分量上昇の場合は、腎臓から塩分の排泄を行う。
どれだけ摂るか──ここも分かれている
では、塩分をどれだけ取ればいいのか。
Huberman Labの動画で、ジェームズ・ディニコラントニオ博士は、1日8〜12グラムの塩が求められると述べている。アメリカで推奨されている量の1.5倍から2.0倍にあたる。小さじ1杯半から2杯の量だ。
実は、ここも確からしさの段階が違う。
ディニコラントニオの主張は『The Salt Fix』という本にまとまっているが、書籍の内容を評価する枠組みで検証されている。そこでの結論は、推奨範囲にナトリウムを制限する食事が心血管・代謝の健康に有害だという主張を、引かれている参考文献が説得力をもって支持していない、というものだった。4点満点の1点にとどまっている。
具体的な指摘もある。本が引く観察研究には方法論上の問題があるが、そのいずれも本の中で認められていない。多くの試験で使われた極めて低いナトリウム摂取量は、ガイドラインが言う水準よりもさらに下で、「2300ミリグラム未満に抑える」ことを検証していない。そして6件の前向きコホート研究のメタ分析では、1日2グラムから6グラムの範囲で用量反応の関係が見られている。2グラムを超えて1グラム増えるごとに、心血管疾患のリスクが上がる、と。
日本の文脈も置いておきたい。WHOの推奨は1日5グラム。厚生労働省の目標量は男性7.5グラム未満、女性6.5グラム未満だ。8〜12グラムという数字は、これを上回る。
アティアの位置も、ここでは違う。彼は水だけを電解質なしで飲むことにも問題がありうるという立場だが、電解質の補給が必要なのは、激しく汗をかく人、低炭水化物食の人、強度の高いトレーニングをする人だ、と限定している。
研究者が機序を語り、トレーナーが数値を出し、医師が誰にとってかを限定する。三者が違うことを言っているように見えるが、見ている場所が違うのだと思う。
前回、何が正しい食事かという問いに一つの答えはない、と書いた。塩の量も同じで、汗をかく量、食事の内容、血圧の状態によって変わる。自分の身体で確かめていく以外にない。
糖質制限をしている方へ
アティアが挙げた「低炭水化物食の人」について、もう少し書いておきたい。
炭水化物は、身体の中で水を保つ働きを持っている。ここには機序がある。
炭水化物はグリコーゲンとして筋肉と肝臓に蓄えられるが、グリコーゲン1グラムに対して、水がおよそ3グラム結びついている。成人が蓄えられるグリコーゲンは400から500グラムほどなので、そこに1.5リットル前後の水がぶら下がっている計算になる。
蛋白質や脂質には、この形の水の蓄えがない。
糖質制限を始めると、最初の1週間で体重が大きく落ちることがある。多くは、グリコーゲンとそれに結びついていた水が抜けたものだ。
そしてもう一つ、塩のほうの経路もある。炭水化物を制限すると、身体は電解質の処理の仕方を変える。インスリンの値が低いと、腎臓はより多くのナトリウムを排泄する。ナトリウム利尿と呼ばれる過程だ。そしてナトリウムと他の電解質のあいだには微妙な均衡があるため、ナトリウムが失われると、他の電解質の値も乱れる。
水だけでなく、塩も一緒に抜けていく。糖質制限をしている方が、水と塩を意識したほうがいいのは、このためだ。
グリコーゲンの水は、貯水池ではなかった
ここで、面白い研究を一つ紹介したい。
グリコーゲン1グラムに3グラムの水が結びついているなら、こういう考えが出てくる。マラソンの最中にグリコーゲンが使われていけば、結びついていた水が解き放たれるのではないか。1.2リットルほどが利用できるようになるのではないか、と。走る前にグリコーゲンを満たしておけば、脱水に対する蓄えになる、という話になる。
2017年に、これを実際に測った研究がある。
グリコーゲンとリン酸カリウムの混合液で浸透圧を測ると、2パーセントの濃度では、予測値267に対して実測値265。ほぼ一致した。つまり、グリコーゲンに結合した水は、すべてのイオンに対して利用可能な状態にあり、身体全体の浸透圧の系の一部として振る舞っている。濃度を上げると1割から2割ほど「保護された」と見なせる水が現れたが、大部分は通常の浸透圧の考え方どおりだった。
そして2リットルの脱水を想定した計算では、グリコーゲンを満たして運動を始めたときの血漿量への利点は、1.57パーセント、55ミリリットルにとどまった。
結論は、グリコーゲンに結合した水は別個の貯留庫としては現れず、脱水時の水分を独自に補うことはできない、というものだった。
行きは通るが、帰りは通らない。糖質制限でグリコーゲンが減れば水が失われる、という向きは正しい。だが、グリコーゲンを蓄えておけば脱水のときに取り崩せる、という逆向きは成り立たなかった。
「結合水」という言い方が、別扱いされる水があるように聞こえていた。測ってみると、その水は身体全体の系の中にいて、他の水と区別がついていなかった、ということになる。
3年間、糖質制限をしていた人の話
アティアは、2011年から2014年までの3年間、厳格な栄養学的ケトーシスの状態にあった。長距離を泳ぐアスリートでもある。持久系の競技を続けながら、代謝の不調の兆候を見つけたのが、そこに入ったきっかけだった。
本人は、この3年間ほど痩せていて、精神的にも身体的にもよい状態だった時期は成人してからなかった、と書いている。生体指標も最良だった、と。
やめた理由は、効果への疑いではない。野菜をもっと食べたかったこと。1日4,500キロカロリーという目標を満たすために、サワークリームを1容器食べるようなことをしていたこと。そして、子どもに対してバランスの取れた食べ方の手本にならないこと。
ただ、彼が移行期について書いていることが、ここでは参考になる。ケトン食に入るとき、多くの人が適応に苦労する。眠りにくい、運動しづらい、全般的な疲労。理由の一つは、身体がまだ脂肪に適応しておらず、炭水化物を制限したことで変わった水と電解質の均衡を、扱わなければならないからだ、と。
低炭水化物食の分野では、移行期にナトリウムが不足したときの症状として、疲労、脱力、頭痛、集中困難が挙げられている。カリウムが不足すると筋痙攣や動悸、マグネシウムが不足すると夜間や運動後の筋痙攣。対処としては、最初の1週間ほど、スープやブイヨンでナトリウムを足すことが勧められている。
糖質制限そのものの是非は、ここでは扱わない。ただ、始めるなら水と塩を意識したほうがいい、というのは、機序から言えることになる。
マグネシウムのこと
塩を考える際、塩化ナトリウム以外にマグネシウムの存在を忘れるわけにはいかない。
マグネシウムは、多くの酵素反応に関わっている。筋肉の弛緩、心筋の形成、神経の興奮を抑える働きなど、関わる範囲が広い。そのため不足すると、影響も広い範囲に及ぶ。ビタミンD、Kと一緒に働くことも知られている。全世界を見てもマグネシウム不足は指摘されている。
マグネシウムを多く含むのは海水塩や岩塩だ。海水塩として含有量が多いのは、ぬちまーすや雪塩などが挙げられる。岩塩については、色々と調べていただきたい。
個人的には、にがり(天海のにがり)を食事に取り入れることや、入浴の際にエプソムソルトを入れることでマグネシウムを補うこともある。
サプリメントとしては、クエン酸マグネシウム、トレイン酸マグネシウム、りんご酸マグネシウムといった種類がある。
カリウム、ナトリウム、カフェイン
塩の中で、ナトリウムとカリウムは身体の中で共同で働き、脳神経系から情報を伝えるときに重要な役割を果たす。推奨される量は、どのような食事を摂るかによって決まる。
お茶やコーヒー、チョコなど、カフェインを含む嗜好品には利尿作用がある。このため、カフェインを摂った場合は、1.5倍の水と少々の塩を取り入れるという意識が必要になる。
塩と砂糖の、調整の違い
身体の中で、塩分と砂糖の調整には違うメカニズムが働くことが知られている。
砂糖は、摂取すればするほど、もっと求め、多く取り入れようとする。ポジティブフィードバックが働く。一方で塩は、多く摂るほど、身体には摂取を減らせという指令が出て、しっかりと調整される。ネガティブフィードバックが働く。
しかし、塩分と砂糖が混じっている加工食品——例えば煎餅——だと、砂糖が混じることで脳が塩の量を知覚できなくなり、無制限に取ってしまう現象が起きる。現に問題になっているのは、加工食品と塩だ。
上記の仕組みを理解し、砂糖や加工食品を減らすことができれば、塩そのものを気にする度合いは下がる。
熱中症対策として──首よりも手のひら、足裏、額
気温の高い夏は、体温が上がりやすい。
人間の脳幹には体温を調整する部位があるが、首に冷えたタオルを乗せると、脳幹に直接情報が伝わる。脳幹は体内が冷たいと認識するため、さらに体温を上げようとする。このため、首に冷えたタオルはお勧めしていない。
その代わりに、手のひら、足裏、額のどれかに氷水や冷えた水を当てることで、体温を下げることができる。これらの場所は毛髪がないため、血管が特殊な構造をしている。直接冷やすことで、血液そのものを冷やすことができる。
ただし、熱中症の応急処置としては、首や脇の下、太ももの付け根を冷やす方法が一般に推奨されている。上に書いたのは、体温を下げる効率という観点からの話になる。具合が悪くなったときは、一般的な方法をとっていただきたい。
まとめ
今回は、水と塩について、日常生活で取り入れることのできる習慣を中心にまとめた。
水だけを飲んでも、身体には残らない。塩が要る。そして、どれだけ摂るかという問いには、立場によって違う答えが返ってくる。
生活習慣を改善することで、できることは沢山ある。ただし、数字をそのまま当てはめるのではなく、自分の身体で確かめていくことになる。
次回は、日中の身体の使い方——覚醒と代謝について扱いたい。
生活習慣から身体を整える(全3回)
- 第1回:身体には時計がある──光と食事が、一日を決める
- 第2回:水は、塩がないと身体に残らない──摂るということ(この記事)
- 第3回:集中も、脂肪の燃焼も、神経系から始まる──日中の使い方
2026年9月の注記
この回のもとになった記事は、2023年の6月末と7月に書いたものだ。水と塩。
第1回の注記で、アティアの4つの柱——運動、睡眠、栄養、感情とストレス管理——について書いた(「健康寿命を延ばすためにどのように考えるか──Peter Attiaの『Outlive』に学ぶ」参照)。読み返して気づいたのだが、水と塩は、その4つのどこにも入っていない。
栄養の柱で扱われるのは、何をどれだけ食べるか、血糖値がどう動くか、蛋白質が足りているか、といったことだ。水をどれだけ飲むか、塩をどれだけ摂るかは、その枠には入ってこない。
それでもこの回を書いたのは、セッションの中で聞かれるからだった。冒頭に書いたとおり、生活習慣をどう改善したらいいのか、という形で質問が来る。そして水のことは、よく出てくる。
枠組みのほうから降りてくるものと、現場から上がってくるものが、違っているということになる。
本文では、水の量についても塩の量についても、勧め方が人によって違うことを書いた。研究者が機序を語り、トレーナーが数値を出し、医師が誰にとってかを限定する。三者が同じ領域で違うことを言っている。
枠組みに入っていないというのは、そういうことでもあるのだと思う。どこかに定まった答えがあって、それを取ってくればいい、という種類の問いではなかった。
