生活習慣から身体を整える 第1回(全3回)
本記事は「生活習慣から身体を整える」シリーズ全3回の第1回である。本シリーズは、ロルフィングのセッションの中でよく聞かれる、日々の生活で何ができるかという問いに答えるものになる。第1回では、身体の中にある時計を扱う。このシリーズは、2023年の夏に7回にわたって書いたものを、2026年にまとめ直したものになる。睡眠、水、食事のタイミング、塩、日光、集中力、体脂肪。主題ごとに分けて書いたのだが、読み返すと同じ話が何度も出てくる。冷たいシャワーが4回、ドーパミンとノルアドレナリンが3回、体内時計が4回。まとめる際に、重なりを削り、そのぶん出所と検証の状況を書き足した。7回を3回にしたので、一回あたりは長くなっている。
正しい食事、正しい姿勢
私は、2015年6月から渋谷・恵比寿・代官山にて、ロルフィング・セッションを提供している。
セッションの中で、生活習慣について聞かれることが多い。とくに食事については「何を食べたらいいですか」という形で来る。
その前に、少し遠回りをしたい。
身体の姿勢は、「正しい姿勢」「間違った姿勢」「負担のかかる姿勢」で語られることが多い。では「正しい」姿勢はどうやって決まったのか。実は、他人によって決められている。親、学校の先生、職場の同僚、上司、パートナー。しかもそれが無意識に行われているので、セッションに来て初めて気づく方が多い。
同じことが食事についても言える。外部の環境によって、本人にとって適切な食事が選ばれていく。雑食、マクロビ、糖質制限、パレオ、地中海式、日本料理、菜食主義。親、学校の先生、憧れの先生、国家、文化、そして「科学」。
残念ながら、人間は長期にわたって食事の実験を行うことが不可能だ。しかも、思い入れの強い食事法から別の食事に変えるのは厳しい。マインドにも関わっているからだ。
バランスの良い食事を摂りましょう、とよく言われる。だが、アスリート、妊娠中の女性、10代、ボディビルダー、糖尿病のある方、それぞれに合った「バランス」とは何かという視点で見ていくと、答えは一つにならない。
食事と姿勢は似ている。最終的には、自分に合ったものを自分なりに見つけていくことになる。
そのうえで、何を食べるかより先に見ておきたいものがある。いつ食べるか、だ。
身体には時計がある
2017年のノーベル生理学・医学賞は、体内時計の遺伝子の発見に与えられた。
人間には体内時計があり、そのリズムに沿って消化・吸収が行われている。そしてリズムが崩れると、さまざまな不調と関係が深いことがわかってきた。
この時計を合わせているものが、二つある。光と、食事だ。
朝の光が脳の時計を合わせ、最初の食事が内臓の時計を合わせる。この二つが揃っていれば、一日の後半は自然に流れていく。以下、その順に見ていきたい。
朝の光
睡眠を改善していくために最も重要なのは、起床直後に日光を浴びることだ。10分から30分。
日光とは、皮膚だけではなく、目に光として入れるということになる。その際、太陽光を直接目に入れる必要はない。晴れの日に比べて、曇りの日は日光が少ないように見えるが、室内の光に比べたら全然強い。曇りでも浴びることが大事だ。
目の網膜には、青い光を受容する「メラノプシン」という光色素を持った細胞がある。内因性光感受性網膜神経節細胞と呼ばれるもので、最も感度が高いのは480ナノメートル付近、青の領域になる。ここから、脳の体内時計に関わっている「視交叉上核」へ情報が伝わる。最終的に、全身に「朝だよ」という情報が伝わり、身体が目覚めていく。
もう一つ、日光を浴びると「コルチゾール」と「セロトニン」が分泌される。コルチゾールはストレスとの関係で語られることが多いが、目覚めや集中力を増すのに重要だ。セロトニンは、日光を浴びることで日中にピークを迎え、17時間後には、睡眠を誘導する「メラトニン」の材料となる。
このあたりは、睡眠学者のマシュー・ウォーカーが『睡眠こそ最強の解決策である』(原題 Why We Sleep)で詳しく扱っている。
夜の光が、時計を後ろへずらす
朝の光が時計を前に進めるなら、夜の光は後ろへずらす。
就寝前に青い光を避け、照明を赤い光にすることが重要になる。青い光は目覚めのシグナルなので、夜に浴びると、身体は勘違いして目覚めの方向に進んでしまう。
ここで、書き方を一つ直しておきたい。以前は「青い光がメラトニンを分解する」と書いていたが、正確には分解ではなく、分泌の抑制になる。夜の光は、わずかな量でもメラトニンの産生を抑え、体内時計を後ろへずらす。
そして、この仕組みは思っていたより繊細だった。光をやめると、メラトニンの濃度は15分ほどでかなり速やかに回復する。一方で、631ナノメートルの赤い光や、点いたり消えたりする断続的な光でも、時計のリセットは起きる。目を閉じて眠っている状態でも、5から10ルクスという弱い光で反応が起きることが報告されている。
100人規模の研究では、もう少し込み入ったことも見えている。光を浴びはじめた最初の4分の1では錐体がメラトニンの抑制を駆動し、長く浴びるとメラノプシンのほうが優位になる。「青い光」とだけ言ってきたものは、時間の経過とともに担い手が変わっていく。
最近わかってきたこととして、午後10時から午前4時までの間に光を浴びると、気分にも影響すると言われている。
カフェインを、少し待つ
日光を浴びると、眠気を誘導するもう一つの物質「アデノシン」を減らすことができる。
起床直後にコーヒーや緑茶を摂ってしまうと、アデノシンの分解が進まない。しかも、カフェインの効果が切れる日中にはアデノシンがさらに蓄積していて、眠気が襲ってくる。これを避けるために、日光を浴びてから1時間半から2時間後、アデノシンの分解がある程度進んだ段階でカフェインを取るとよい——。
これは、スタンフォード大学の神経科学者アンドリュー・ヒューバーマンが広く紹介している方法だ。起床後90分から120分待つ。
実は、ここは確からしさの段階が違う。
理屈としては筋が通っている。コルチゾールは起床直後にピークを迎えるし、カフェインはアデノシンの受容体を塞ぐことで働く。まだそこにない分子を、なぜ先に塞ぐのか、と。
だが、この90分という処方を直接検証した、質の高いランダム化比較試験は見当たらない。朝のカフェインを遅らせることで覚醒が改善したり、午後の落ち込みが防げたり、健康上の結果が変わることを示したヒトの試験がない。もっともらしい仮説が、検証済みの手順の衣装を着ている、という整理もある。
一方で、確実に支持されていることもある。カフェインは午後の早い時間までに止めること。効果が何時間も残り、睡眠を確実に妨げるからだ。
試してみて具合がよければ続ければいいし、朝の一杯を我慢するのが苦痛なら、そこまでする必要はない。
食べる時間
体内時計を合わせるもう一つが、食事になる。
胃腸は、最初の食事をとってから活動を開始し、12時間後には休息に向かう。詳しくはサッチン・パンダの『Circadian Code』(未邦訳)が扱っている。コンビニのように24時間働くわけではない。深夜に一口食べてしまうと、胃腸が急遽働くことになるので、消化不良や睡眠に大きな影響を与える。

そこで提唱されているのが、ある一定の時間内で食事を終える方法だ。TRE(Time Restricted Eating)、間欠的断食とも呼ばれる。水以外の食を最初に摂ってから、最後の食を取るまでの時間を決め、それ以外の時間はカロリーとなる食事を摂らない。
私自身は8時間の枠を使っていて、午前10時から11時頃に食事をスタートし、午後6時から7時までに終わらせるようにしている。ただし毎回8時間を守るのは厳しいケースがある。イベントや友人との食事があるときだ。そういう場合は、最大12時間を週に1〜2回はよしとしている。
注意しているのは、起床してから1時間は食事を摂らないことだ。前日の午後7時に食事を終えたとしても、消化・吸収を終えるのに最低6時間はかかる。その後に断食の効果が出てくる。睡眠時に、細胞の修復、学習効果を高める、脳内のゴミを除去する、体脂肪の分解といったことが起きる。その効果を延長するため、起床時から最低でも1時間は遅らせたい。
夜のほうは、寝る前の2〜3時間までにカロリーのある食事を終えたい。食後に30分ほど歩くようにしている。軽い運動を行うことで、糖質の消化・吸収を早めることができ、早く断食の状態に持っていける。細胞や組織の修復、体脂肪の分解に関わる「成長ホルモン」も、血糖値が下がりすぎていない状態で、寝る前の2〜3時間に食事を終えた場合に出やすい。年齢とともにこの値は低下していくので、この効果はありがたい。
最後に、食べる時間は一定の周期で行ったほうがいい。バラバラの時間帯にすると、体内時計にも時差ぼけが起きてしまい、回復するのに数日から1週間ほどかかる。
TREをめぐって
ここも、確からしさの段階を書いておきたい。
TREについては、8時間の枠が効果的だとよく言われる。ただし、12か月にわたる追跡試験では、8時間のTREを行った群と、カロリー制限だけを行った群とで、体重の減少に差がなかった。体脂肪の減り方も同程度で、著者らは二つの減量法は同程度の成功だったと結論している。
メタ分析の結果にも幅がある。16時間断食と血糖・脂質を扱った解析では、空腹時血糖、インスリン抵抗性の指標、インスリン、HDLコレステロールに改善が見られたものの、証拠の確実性は低いとされた。過体重・肥満の女性を対象にした13件の解析では、体重が約1.9キログラム減り、空腹時インスリンが低下したが、BMI、脂肪量、内臓脂肪、血中脂質、血糖、血圧には有意な効果が出ていない。
そして、別の角度からの批判もある。
長寿医療を専門とする医師のピーター・アティアは、以前は断食の強い推進者だったが、立場を変えた。理由は二つある。
一つは、16時間食べないというのは、オートファジーを起動したり、慢性的なmTORの上昇を抑えたりするには十分に長くない、というもの。細胞のレベルで何が起きているかを測るのが非常に難しい、とも言っている。
もう一つが、蛋白質だ。食べる時間を狭い枠に押し込めると、蛋白質の摂取量に届かないことがほぼ確実になる。彼が挙げている場面はこうだ。体重計の数値は減るのに、身体組成はかえって悪くなる。除脂肪量、つまり筋肉が減り、体脂肪はそのままか、むしろ増える。断食の期間中にどれだけ運動しても、除脂肪量を維持することはできなかった、と本人が書いている。
いまの彼は、時間制限を日々の固定した実践ではなく、その都度使う道具として位置づけている。そして、あらゆる食べ方についての経験則として、こう言っている。除脂肪量と長期の活動パターンを維持できるだけは食べなければならない、と。
冒頭に書いたことが、ここに戻ってくる。何が正しい食事かという問いに、一つの答えはない。アティア自身も、個々の代謝に合わせて組み立てるべきだとして、患者ごとに設計している。
TREが意味を持つとすれば、それは体内時計に沿った食べ方を試す枠組みとしてであって、守るべき規則としてではない。
体温を下げて眠る
もう一つ、時計と関わるものがある。体温だ。
人間は、起床の2時間前に最低体温になり、起床から日中にかけて上昇し、就寝に向かう際に徐々に低下していく。
この低下を進めるために、温シャワーか風呂が有用だ。逆説的に聞こえるかもしれないが、風呂で身体を温めると血管が拡張し、熱が逃げやすくなるため、結果的に体温が低下していく。
ここは、根拠がはっきりしている箇所になる。17件の研究から13件を定量的に解析したメタ分析では、40度から42.5度の入浴またはシャワーが、主観的な睡眠の質と睡眠効率を改善した。そして就寝の1〜2時間前に、わずか10分でも行うと、入眠までの時間が有意に短縮している。短縮の幅はおよそ36パーセント、平均して10分ほど早く眠りにつけたという報告だ。15分前では早すぎて、同じ効果は出ない。
室温を18度から22度にすることも重要になる。布団をかけたうえで、手のひらと足裏、額は外に出るようにする。これらの場所から熱が最も逃げやすいためだ。室温をある程度下げておくと、体温が下がりやすい。
睡眠が、姿勢を定着させる
なぜロルフィングの記事で睡眠の話をするのか。
効果を持続させるための秘訣は、意外と知られていないが、睡眠にある。
睡眠には、勉強したことを記憶する、身体の動きを覚える、記憶のスペースを確保する、適切な食欲の調節といった働きがある。集中力が増し、仕事の効率が高まることも知られている。
特に「身体の動きを覚える」が重要だ。セッションで変わった姿勢は、その場で定着するわけではない。睡眠によって、自分の姿勢が整い、定着していく。
ロルフィングが一定の間隔をとってセッションを行うのは、そのためでもある。新しい身体の習慣を身につけるには、休む時間が要る。
まとめ
今回は、体内時計を整えるという視点から、光と食事、そして体温についてまとめた。
朝、光を目に入れる。しばらくしてからコーヒーを飲む。食べる時間を一定にする。夜は光を落とし、風呂で温めてから眠る。
どれも特別なことではない。ただ、身体の中に時計があると知っているかどうかで、同じ行動の意味が変わってくる。
次回は、水と塩について扱いたい。
生活習慣から身体を整える(全3回)
- 第1回:身体には時計がある──光と食事が、一日を決める(この記事)
- 第2回:水は、塩がないと身体に残らない──摂るということ
- 第3回:集中も、脂肪の燃焼も、神経系から始まる──日中の使い方
2026年9月の注記
この回のもとになった記事は、2023年の6月末から7月にかけて書いたものだ。睡眠、日光、食事のタイミング。主題ごとに分けて、日々の生活で何ができるかを並べていた。
書いていた当時は、それぞれが独立した話のつもりだった。
2年後、別のサイトのほうで、枠組みの側を書くことになる。医師のピーター・アティアが『Outlive』で示した、健康寿命を延ばすための4つの柱についてまとめたものだ(「健康寿命を延ばすためにどのように考えるか──Peter Attiaの『Outlive』に学ぶ」参照)。
4つの柱とは、運動、睡眠、栄養、そして感情とストレス管理になる。
この回が扱っている睡眠と食べる時間は、そのうちの2つにあたる。当時は主題として並べていたものが、後になって枠組みの中で位置が決まった、ということになる。
アティアの整理で面白いのは、戦略と戦術を分けているところだ。80歳になっても自力で階段を上がれる、孫と山登りができる体力を維持する。そういう長期のゴールを先に決めて、そこから日々の手段を逆算する。戦略がないと、戦術は散発的になって効果が薄れる、と。
この回で書いたことは、すべて戦術の側になる。朝に光を浴びる、カフェインを待つ、食べる時間を決める、風呂に入ってから眠る。どれも手段であって、目的ではない。
もう一つ、本文で触れたTREについても、後に別の角度から扱っている。アティアが「16時間食べないのではオートファジーを起動するには足りない」と言うときの、そのオートファジーとmTORの話だ(「老化をめぐる「エネルギー感知システム」──AMPK・ラパマイシン・カロリー制限・メトホルミン」参照)。
細胞は栄養が足りないことを感知すると、AMPKという酵素のスイッチが入る。するとmTORという成長の経路が抑えられ、オートファジー——古くなった蛋白質や損傷した構造を分解して再利用する仕組み——が動き出す。断食も、カロリー制限も、運動も、すべてこの同じ経路につながっている。
食べる時間を決めるというのは、細胞に燃料不足を知らせる時間を作るということでもある。ただし、16時間で足りるのかどうかが、まさに議論になっている場所だった。
身体の側で何をするかと、それがどういう仕組みなのか。この記事は前者を書いていて、後者は別のところに置いてある。
