なぜ「スペース」を感じると坐法が変わるのか──瞑想に向かう身体感覚の再発見

ヨガ × ロルフィング・全5回シリーズ|第3回初稿:2025年5月、2026年更新

はじめに

「坐ると腰が痛くなる」「骨盤が安定しない」
「瞑想しようとするほど身体が気になる」──
ヨガを続けているのに坐法が深まらないとき、それはポーズの習熟度の問題ではなく、身体の「スペース」が失われているサインだ。

第1回で「ボディスキーマのズレ」を、第2回で「呼吸とTonic Function」を扱った。

前半三部作の締めくくりとなる本記事(第3回)では、ヨガとロルフィングに共通する「スペース(空間)」という概念を軸に、坐法が変わる仕組みと、瞑想への身体的な準備を探る。

第4回・第5回では、この理論的土台の上に、スリランカでのアーユルヴェーダ体験とプラーナーヤーマ連続講座を起点とした体験的な探究を展開していく。

→ Gateway:ヨガ × ロルフィング ── アシュタンガ20年・ロルフィングとの出会い
→ 第1回:なぜヨガを続けても「身体の感覚」が変わらないのか
→ 第2回:なぜウジャイ呼吸は「身体の奥」に届くのか

ヨガは「長時間座る」ための身体訓練である

2006年からアシュタンガ・ヴィンヤーサ・ヨガを継続するなかで、最初に師であるタリック・ターミ(Tarik Thami)から教わったのが次の言葉だ。

「ヨガの目的は、身体に負担なく20分間座ることができるようになること」

この言葉は、私のヨガ観を大きく変えた。ポーズとは柔軟性を高めるための運動ではなく、坐るための「構造」を整える身体訓練であり、瞑想の準備だという明確な意図を持っていた。

なぜ「身体に負担なく20分間」なのか。内面を観るためには、身体の構造的安定と感覚の静けさが必要不可欠だからだ。身体が不安定であれば、意識は痛みや不快感に引き戻され、瞑想に入ることは難しい。

しかし「坐るのがつらい」「肩や腰が痛む」「呼吸が浅い」という声は多い。これらの問題の背景には、構造的・感覚的な統合の不足がある。

しゃがむと座るは何が違うのか──椅子文化が身体に与えた影響

Ida Rolfによるヨガの解釈──スペースをつくる

ロルフィング創始者アイダ・ロルフはヨガについてこう述べた。

「ヨガのポーズの主要な目的は、骨と骨との間(関節)にスペースをつくることである(The principle aim of yoga asanas is to increase the space at bony interfaces)」

しかしロルフはこうも気づいていた。ポーズの反復が無意識である場合や、過剰な柔軟性を追い求める場合、関節や筋膜が縮まり、構造的自由が損なわれるリスクがある——ポーズによって関節のスペースが広がるどころか、むしろ収縮することが多い、と。

ポーズの「形」を正しくすることと、「スペースを作ること」は、必ずしも一致しない——これがロルフの洞察だ。

duhkhaとsukha──スペースの身体哲学

2013年に日本で開催されたLeslie Kaminoff氏のワークショップで、私が深く印象に残っているのが、sukha(スカ)とduhkha(ドゥッカ)の解説だ。

「sukhaとは”good space”、duhkhaとは”bad space”である。ヨガとは、sukhaを広げ、duhkhaを狭める実践である」

ここでいう「kha」は「スペース(空間)」を意味する。

duhkha(ドゥッカ)とはスペースが窮屈な状態——苦痛・苦しみ。仏教における「苦(dukkha)」の語源もここにある。身体の関節が詰まり、呼吸が浅く、動きが制限された状態だ。

sukha(スカ)とはスペースが開いている状態——快適さ・自由・呼吸しやすさ。骨格が重力の軸に乗り、Tonic Muscleが自然に働き、力を抜いても崩れない状態だ。

「ヨガとは、身体内にスペースをつくり、呼吸をしやすくすること」——この言葉はロルフィングの視点と深く響き合う。スペースがある身体こそ、呼吸が深まり、坐ることが可能になる身体だ。

Articulation──ロルフィングが扱う「間」

ロルフィングのトレーニングで頻繁に用いられる解剖学用語が「articulation(アーティキュレーション)」だ。

同じ「関節」を意味する「joint」との違いは重要だ。「joint」は「接合・繋ぐ(join)」という語源を持ち、構造を閉じる方向に働く。「articulation」は「間・分節・明確にする(articulate)」という語源を持ち、空間の存在を前提とする言葉だ。

ロルフィングでは、身体の中に「間(articulation)」をevoke(喚起)することで、余計な筋緊張が自然と抜けていくことを重視する。「構造的に正そうとする」のではなく、「空間があることに気づく」ことで、動きも呼吸も自然に整っていく——これが「する(doing)」ではなく「在る(being)」という変容のプロセスだ。

なぜ「楽な姿勢」は存在するのか──重力・筋膜・ロルフィングの視点から

ロルフムーブメントとスペースの体感

坐法における「スペース」の感覚は、ロルフィング(構造へのアプローチ)だけでなく、ロルフムーブメントの「動きの中での気づき」によっても深まる。

ロルフムーブメントのPre-movement(動作前の動き)の観察では、坐位から立位へ移行する直前、身体のどこに力が入り、どこが解放されているかを丁寧に感じていく。この観察を通じて、「骨盤の下に土台としての空間がある」という感覚が育まれる。

ヨガ実践者が持つ「内観する力」は、このプロセスに入りやすい素地だ。アシュタンガの毎朝の実践で育てた「感じながら動く」という感覚を、ロルフムーブメントがさらに精密にしていく。

ロルフ・ムーブメントとは何か──動きの質を探究するボディワーク

スペースが開くとき、瞑想が変わる

私自身の実践においても、ロルフィングによる構造の調整とヨガの練習を組み合わせることで、坐法における「スペース感覚」が大きく変化した。

背骨を力まずに伸ばせるようになり、呼吸が止まらなくなった。骨盤の下に「土台としての空間」を感じられるようになり、坐位が安定した。肩や胸郭が広がり、視線と意識が内側に自然と向くようになった。

瞑想は「認識のOSを更新するデバイス」だと私は考えている。しかしそのデバイスが最大限に機能するためには、デバイスを置く「台(身体)」が整っていることが前提になる。スペースがある身体に「在る」こと——それが瞑想が自然に「起こる」ための構造的条件だ。

プレゼンスとは「姿勢が正しいこと」ではない。スペースがある状態に「在る」こと——ヨガとロルフィングに共通するこの身体のあり方が、20分間静かに坐り続けることを可能にする。

ヨガと瞑想〜ヨガの練習の中にどのように瞑想を取り入れるのか?

シリーズを振り返って

前半三部作を振り返って

ここまでの3回を通じて、ヨガとロルフィングの接点を「ボディスキーマ・呼吸・スペース」という3つの視点から探ってきた。 そしてその全体を貫いていたのは、Gatewayで触れた「ヨガには『今ある筋膜のパターンの中で動く』練習という側面があり、ロルフィングは『筋膜のパターンそのものを書き換える』アプローチである」という補完関係だ。

両者は対立するのではなく、互いを補い合う関係にある。 第1回が示したのは、ボディスキーマが変わらない限り、意識でどれだけ正しく動こうとしても同じパターンが繰り返されるということだ。 第2回が示したのは、呼吸は意図で深めるものではなく、構造が整ったときに自然に深まるということだ。 そして第3回が示したのは、スペースとは形の中に生まれるのではなく、「構造と意識」が協調したとき内側から現れるということだ。

ヨガは、sukha(自由なスペース)を育てduhkha(窮屈な空間)を解放する実践だ。ロルフィングは、身体構造にarticulation(間)をもたらし緊張のない統合状態へ導く技法だ。この2つが出会うとき、「身体に負担なく20分間座る」という本来の目的が、より深く実現されていく。

第4回・第5回へ──体験から探る個別化と呼吸の地図

前半三部作が「理論的土台」だとすれば、第4回・第5回は「具体的な体験から探究を展開する」後半二部だ。

第4回では、2015年6月にスリランカで体験したアーユルヴェーダを起点に、ロルフィングとアーユルヴェーダに共通する「個別化原理」を扱う。クリシュナマチャリアが4人の弟子(パタビ・ジョイス、アイアンガー、インドラ・デビ、デシカチャー)にそれぞれ異なるヨガを伝えた事実とも響き合うテーマだ。

第5回では、2015年9月から始まったプラーナーヤーマ連続講座を起点に、ウジャイの背後に広がる呼吸法の地図を、現代呼吸生理学の視点から再読する。第2回で扱ったTonic Functionとボーア効果の延長線上にある、より広い呼吸法の探究だ。

ヨガ × ロルフィング(全5回シリーズ)

Gateway:ヨガ × ロルフィング ── アシュタンガ20年・ロルフィングとの出会い(全体像)

第1回:なぜヨガを続けても「身体の感覚」が変わらないのか── ボディスキーマ・ボディイメージ・現象学から読み解く
第1回を

第2回:なぜウジャイ呼吸は「身体の奥」に届くのか── Tonic Functionと呼吸法から見る構造のダイナミクス
第2回を読む

第3回:なぜ「スペース」を感じると坐法が変わるのか── 瞑想に向かう身体感覚の再発見(この記事)

第4回:なぜ「一人ひとりに合わせる」のか── スリランカで体験したアーユルヴェーダとロルフィングの個別化原理
第4回を読む

第5回:なぜ呼吸法は「身体の状態」を変えるのか── プラーナーヤーマと現代呼吸生理学
第5回を読む


スペース・坐法・瞑想という身体の統合は、「認識のOS」を更新するプロセスと深くつながっている。思考・感情・身体の統合というテーマをより深く扱っているのが、Mind and Bodywork Labだ。
認識のOSと瞑想 Gateway(MBL)
Mind and Bodywork Lab:このサイトの歩き方


体験セッションで、あなたの坐法と身体のスペースを確認することから始められます。

体験セッションのお申し込み


大塚英文(Ph.D.)|認定アドバンスト・ロルファー™/ロルフ・ムーブメント・プラクティショナー/全米ヨガアライアンス認定指導者(RYT200)
東京大学大学院医学研究科博士課程修了。製薬業界を経て、2015年より渋谷でロルフィング®セッションを提供。2006年よりアシュタンガ・ヴィンヤーサ・ヨガを実践中。「思考・感情・身体の統合」をテーマに活動。

この記事を書いた人

Hidefumi Otsuka