【R#64】呼吸(1)〜意識と無意識

ロルフィングの10回シリーズの初回で「呼吸を調える」ことが大切になることは以前本コラムで触れた(詳細は【RolfingコラムVol.12】参照)。ヨガにおいても「呼吸」に注目してポーズをとる。
数回に分けて、呼吸の科学的側面とHubert Godard氏のTonic Functionとの関係について触れたい(Tonic Functionについては、【RolfingコラムVol.42】【RolfingコラムVol.43】参照)。
呼吸には、「無意識的な呼吸(正常安静呼吸ともいう)」と「意識的な呼吸(努力呼吸ともいう)」との2種類がある。まずは、「無意識的な呼吸」から話を進める。
人間の脳は構造上から大脳、間脳、小脳、脳幹に分けることができる。
brain structure
「無意識的な呼吸」は、脳幹(Brain Stem)の呼吸中枢(Respiratory Center)内の神経細胞が担う。呼吸中枢の主な役割は呼吸のリズムを調えること。又、よく知られているように、呼吸は空気中の酸素を取り入れ(吸気)、廃棄物の二酸化炭素を吐き出すことにある(呼気)。血中内の二酸化炭素の濃度が高まると、自動的に酸素を取り込むために吸気へと身体内が自動的に変化するようになる。
さて、呼吸のプロセスで吐ききったあと、脳幹の呼吸中枢から情報が指令が脊髄へ伝えられる。そこで吸気に必要な筋肉が収縮することで、肋骨が重力に抗して拡大していく。結果的に肋骨内の胸郭(胸郭とは肋骨の中に覆われている空間)の圧力が下がることで、肺が自動的に膨らんでいく。そこの中に空気が肺内の肺胞を通じて入るという格好だ。やがて、呼吸中枢からの指令が抑制。吸気が止まる。

吸気に必要な筋肉が弛緩する(ゆるむ)ことで、重力の影響下、肋骨が狭まっていく。胸郭内の圧力が上がり、膨らんだ肺が自然と元に戻っていく(これを受動的反跳ともいう)。そのプロセスで空気が外へ吐き出される。呼気の場合には筋肉の収縮が必要ない。すなわち、人の身体は無意識で呼吸するときは、何も力を使わずに息を吐き切ることができるのだ。
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一方で、人間の呼吸は「意識的な呼吸」も行うことができる。その場合には大脳の外側にある大脳皮質が担う。大脳皮質から運動ニューロンを通じて、呼吸に関わる筋肉へ働きかけることができる。例えば、発声や歌声、意識的に行う呼吸法の一つプラーナヤーマが挙げられる。その場合には呼気にも筋肉が補助的に使われる。

ただし、自律神経系のコントロールにおかれる「無意識的な呼吸」の方が強い。例えば、高濃度の二酸化炭素が身体内に蓄積する場合は、自動的に「無意識的な呼吸」に切り替わる。水の中で呼吸を止めると、当然、二酸化炭素の濃度が高まる。結果的に、呼吸中枢が反応。吸気に必要な筋肉が収縮することで、水中から空気を取り込むことを考える。このことで水中に溺れることになる。
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また、「無意識的な呼吸」と「意識的な呼吸」は言葉によっても影響を受ける。「深呼吸をしてください」というのと「自然呼吸をしてください」というのとでは、前者は意識的、後者は無意識的な呼吸になる。
以前、Hubert Godard氏のTonic Functionを取り上げた(【RolfingコラムVol.42】【RolfingコラムVol.43】参照)。
如何にしてγ運動神経系を活性化して、身体内のエネルギーの効率の高いTonic muscle(持続的にはたらく筋肉)を最大限生かしていくか
という考えである。
興味深いのは、吸気に関わる筋肉群は、身体内のエネルギー効率の高いTonic Muscleであり、姿勢の維持にも関わる。一方で(努力呼吸に関わる)呼気に関わる筋肉群は、Phasic Muscleに該当する。吸気に関わる筋肉が収縮し、呼気に切り替わる時にしっかりと弛緩しないと、Phasic Muscleが働き出すことになる。ロルフィングの1回目のセッション(セッションの目的は「呼吸を調える」。詳細は【RolfingコラムVol.12】参照)で、吸気に関わる筋肉群であるTonic Muscleの筋膜へアプローチする理由は、ここの緊張を解いていけば、自ずとPhasic Muscleが緩んでいくと考えるからだ。
このTonicとPhasicについては、次回、呼吸の筋肉群、特に 横隔膜(Diaphragm)、斜角筋(Scalene)について取り上げる際、もう少し詳細に見ていきたい。
参考文献:
Aline Newton; Breathing in the gravity field Fall 1997, Rolf Lines

この記事を書いた人

Hidefumi Otsuka