【R#65】呼吸(2)〜横隔膜

前回は、身体内で呼吸がどのように行われているのか?無意識的に行う呼吸と意識的に行う呼吸の二つを取り上げた(【RolfingコラムVol.62】参照)。その最後に、吸気に関わる筋肉群は、身体内のエネルギー効率の高いTonic Muscleであり、姿勢の維持にも関わる。一方で(努力呼吸に関わる)呼気に関わる筋肉群は、Phasic Muscleに該当することを述べた。今回は、呼吸に関わる主に2つの筋肉のうちの一つ、横隔膜(Diaphragm)について述べたい。

横隔膜は胸腔(Thoracic Cavity)と腹腔(Abdominal Cavity)の境界上に位置している。横隔膜は骨を動かすことで呼吸を行うため、骨に付着している。 解剖学では、骨を引っ張る側(筋肉が動かない支点となる部分)を起始部(Origin)、引っ張られる側(筋肉が動き作用点となる部分)を付着部 (Attachment)と定義している。この目からみると、横隔膜の起始部は、剣状突起、肋骨、腰椎、付着部は腱中心に位置している。
呼吸中枢から吸気の情報が伝わり、肋骨下部の横隔膜が収縮すると、横隔膜の腱中心が下に引っ張られる。そのことで、肋骨胸郭内の圧力が下がり肺の中に空気が入ってくる。横隔膜の腱中心が下がることで、腹腔が下に押し出される形になる。
Breathing - before
Breathing - after
腹腔内には2つの袋がある。一つ目は、半透明の腹膜(Peritoneum)に覆われた腹膜腔(Peritoneum Cavity)で、肝臓や胃などの臓器が納まっている。もう一つの袋(腹膜腔の下の意味でSubperitoneum Cavityという)には骨盤底のそばにある直腸、子宮、前立腺、膀胱等の骨盤内の臓器(Pelvic organs)が含まれている。前者は、胸腔からの圧力は好ましい影響を及ぼすが、後者は同圧力に対して保護が必要となる。通常ならば、横隔膜により腹腔にかかると、骨盤が前傾する。そのことで、腹膜腔が前に押し出され、結果的にSubperitoneum Cavity・骨盤内の臓器は下にさがり、横隔膜からの圧力から免れることができる。
腹膜腔と骨盤臓器
余談だが、横隔膜の収縮によって腹腔内の内臓が動く。例えば、肝臓、胃がおへそに向かって下がっていくことと、腎臓が下向きに動くと言われている。
Movement of organs in breathing
movement in breathing kidney
このように臓器が動くことから、臓器を支配する自律神経系の線維の影響を受けることになる。例えば、胸式呼吸と腹式呼吸と自律神経系との関係。胸式呼吸とは主に肋骨の広がり(=結果として胸郭が広がる)を使って呼吸するのに対して、腹式呼吸とは、胸郭をできるだけ使わずに、横隔膜という筋肉を使用することで呼吸をすることである。胸式呼吸は交感神経系を活性化し、腹式呼吸は副交感神経系を活性化。その関係から腹式呼吸は注目されている。実際は、どちらか片方で呼吸するということはなく、双方が共同して呼吸を行っている。
ロルフィングのPhase Iの解剖学で学んだことの一つとして、筋肉には起始部と付着部があるが、それぞれが動きの開始となる起始部になりうる(英語ではFixed Pointという)。例えば、個人的の癖や環境との関係(安全な環境なのか?警戒すべき環境なのか?)によって姿勢が変化。姿勢により筋肉のFixed pointが変わることで呼吸の仕方が変わっていく。
横隔膜が身体内で置かれている環境からこのことを考えていきたい。横隔膜というのは、腹腔と胸腔の境界上に位置しているが、身体全体からみると、結合組織を通じて、頭蓋骨、背骨、心臓とつながっていると考えられている。
横隔膜近辺の筋膜
もう少し詳細にみると、結合組織を通じて横隔膜は心臓や背骨(背骨の方につながっている部分のことを英語でCruraと呼ぶ)とつながったネットワークを形成している。そして、心臓は前方縦隔靭帯(anterior mediastinal ligament、縦隔とは、胸腔の中央の意味)を通じて鎖骨や頭蓋骨につながっている。
横隔膜と心臓
このことから、例えば、PCやスマートフォンで頭が前に傾いたり(前方縦隔靭帯により引っ張られる)背骨の腰椎や胸椎の湾曲に変化が起こる(Cruraにより引っ張られる)と、横隔膜の腱中心の動きが狭まり、呼吸に影響を及ぼすことになる。また呼吸が臓器の配置にも影響を及ぼすこととなる。
姿勢と呼吸については、次に取り上げる斜角筋(Scalenes)を説明する際に触れたいと思う。
参考文献:
Aline Newton; Breathing in the gravity field Fall 1997, Rolf Lines
Peter Schwind; Fascial and Membrane Technique, 2006

この記事を書いた人

Hidefumi Otsuka