Phase IIIのロルフィング・トレーニングも中間地点。クライアントとのセッションもセッション5まで終わった。Phase IIと同様に、中間の段階では、先生2名と生徒1名による面談が行われる(Phase IIの中間面談については「中間面談〜どのようにフィードバックされたのか?」参照)。
10分近い面談は、2015年2月26日の午前9時40分頃行われた。
前回のGiovanni Felicioni先生は、実際に日本に短期間滞在し、利賀村で歌舞伎の舞台について勉強をしていたこともあり、日本人に対してどのように接していったらいいのか?よくわかっていた。それに対してJörg Ahrend-Löns先生は、日本人の生徒を教えるのは2人目ということで、当初、
「もし何か不愉快なことや気になることがあったら言ってください」
と気を使ってくれていた。私自身、アメリカに7年間滞在した経験もあり、問題はないと思っていた。実際、Jörg先生とアシスタントのAndrea Clusen先生との今回の面談で、それについては問題なく、杞憂であることがわかった。
実際にトレーニングを受けていると、Jörg先生はドイツ人の例に漏れずダイレクトに物事を伝える人だという印象を受けたが、一方で、生徒から「先生として一人で話が多い、もっとアシスタントに話す機会を与えて欲しい」といった苦言・コメントに対して、聞く耳を持っており、どのようにしてクラスをよりよくしていったらいいのか?ということをよく考えてくれる先生だ。
Phase IIのGiovanni先生は、舞台俳優出身で、人類学やアートについて詳しかったこともあり、感性や身体感覚を大事にすることを伝えてくれた(授業については例えば、「絵画史と身体(1)〜西洋絵画史からみる身体の見方」「絵画史と身体(2)〜絵画史から顔と頭をどのようにみるのか?」参照)。
それに対して、Phase IIIのJörg先生は、理学療法士出身で、物事をロジカルに考えるのが得意。今まで学んだ膨大な知識をどのように整理し、一つのフレームワークに収めるか?といったことを長年の経験からよくわかっている(例えば、「イントロと知識の整理」参照)。アシスタントのAndrea先生は、基礎に忠実にセッションやアドバイスを述べるので、2人の先生から基礎に立ち返ることを学んでいると言える。
中間面談で話題になったのが、自分の強みについて。
Jörg先生は、強みとしてクライアントと対峙する時に相手にSpace(間、空間、隙間等)を与えること(Hold the spaceという)を挙げてくれた(間については「スペースと心の部屋」で取り上げた)。それはまさにGiovanni先生から学び、身につけたかったことだったので嬉しかった。間とGiovanni先生については、別の時期に同じ先生からPhase IIを学び、フランクフルトでロルファーとしてご活躍の鎌田孝美さんによると、
「Giovanniを一言でいうと、spaceを体現する人。spaceは空間といっても、間といっても、隙間といっても、いいかもしれない。彼は間が人を引き出すスイッチを押すということを本当に自覚しています。セッション中にわざと入れる間、クライアントとのボーダーのとりかた、質問を質問で返して、その人に自分でさぐる間を与えること、etc.」
と「ヨーロッパロルフィング Giovanni Felicioniという人」で書いている。
こういったことを指摘していただいたということはPhase IIでしっかりとその点が身についたということ。本当に嬉しく思う。
もう一つ、強みとして、Inner perception(自分の内側で感じる知覚)を挙げてくれた。それは、自分で感じることを信じて、それを指針にクライアントに向き合うこと。Phase IIの段階では、学ぶことで精一杯な上、身体を観察すると情報の多さに圧倒された。何をやったらいいのか?よくわからなかった。それが、情報に圧倒されないためにも、
身体観察にたいしてほとんど時間をかけないこと。
実際にセッションが始まったら身体観察のことを一度忘れ、手で感じたことを信じること。
といったことを心がけるようになった。その結果、Inner perceptionを信じるだけの心のスペース(心の余裕)が生まれるようになった。
興味深いのは、Jörg先生が
「表層(Sleeve)セッションと深層(Core)セッションとどっちの方が得意か?」
といったことを聞かれた時に、深層の方が得意だと答えた時だった。なぜそのように答えたかというと、うまく説明することができないが、セッションの始めの段階ですでに深層の核となる部分でどのようにセッションを行ったらいいのか?自分の直感や身体感覚でわかってしまうためだ。そのため、深層セッションに入ると、細部に目がいってしまい、それが結果的に手技にも影響することがある。
「クライアントから一歩離れ、表層セッションで行ったアプローチでより広い視野で身体を観察して、その感覚に応じて対処すると改善するよ」
と言われた。これは非常に面白い指摘で、ぜひ来週以降試してみたいと思った。
課題として話し合ったのが、解剖学をもっとセッションと関連づけて学ぶこと。本コラムで呼吸や歩行について解剖学との関連で取り上げようと思っていたのは、自分の解剖学に対する知識の整理という面がある。ぜひ、これは継続していきたい。
あと残り4週間。どういった発見があるのか?そしてクライアントの10回セッションが終わったらどのように変化しているのか?楽しみながら、ミュンヘンの1か月の生活を楽しみたい。
2026年8月の注記
中間面談でJörg先生が挙げてくれた強みは二つだった。Hold the spaceと、Inner perceptionである。
読み返して気づくのは、どちらも自分から名乗り出たものではないということだ。相手にスペースを与えている、内側の知覚を指針にしている。そう言われて初めて、自分がそれをしていたと分かっている。自分の手つきは、外から言われるまで見えない。この面談の意味は、そこにあった。
まず、Hold the spaceについて。
これはPhase IIのGiovanni Felicioni先生から受け取ったものだ。この記事に引いた鎌田孝美さんの言葉が、Giovanniという人をよく言い当てている。spaceを体現する人であり、間が人を引き出すスイッチを押すことを本当に自覚していた、と。
Giovanniは舞台俳優出身で、日本に短期間滞在し、利賀村で歌舞伎の舞台を学んでいる。つまり、日本の舞台芸術における間を、身体で知っている人だった。その人からイタリア人の講師として間を教わり、それをドイツ人の講師が強みとして指摘した。日本人の生徒が、日本の概念を、二人のヨーロッパ人を経由して受け取っている。
この語は、その後も出てくる。身体と心の第6回の注記で、Hold the spaceが11年のあいだに三度現れると書いた。その一度目が、この記事である。二度目が2018年のRolf Movementの認定トレーニングで、場をホールドすることに力点が置かれた設計として。三度目が2025年のアドバンスト・トレーニングで、癒しが起こる場を保つという役割の定義として。
指摘された強みが、10年かけて、体系の中心概念になっていった。
次に、Inner perceptionについて。
この記事には、そのための工夫が二つ書いてある。身体観察にほとんど時間をかけないこと。セッションが始まったら観察を一度忘れ、手で感じたことを信じること。
これは、その八日前に書いた記事と逆を向いている。あの回では、Ida Rolfが施術を一切させずに観察だけを続けさせたAuditingの段階と、見る目が育つまで情報を与え続けるSaturation Methodを紹介した。訓練としては観察を積み上げ、実践では観察を切り上げる。当時は矛盾だと思っていない。ただ両方を書いている。
10年後に受け取ったのは、切り上げよという答えではなかった。Somatic Sensoriumである。視覚だけでなく、触覚、聴覚、内受容感覚を総動員して身体全体で受け取る。Rayの言い方では、自分の目で見るという表現は誤解を生む、身体全体で受け取ることが観察だ、となる。
観察の量を減らすのではなく、観察が何を指すかを変える。当時、目で見ることを切り上げて手で感じることに移していたのは、その手前まで来ていたということだった。ただし、それを観察と呼び直す言葉を持っていなかった。
最後に、深層のほうが得意だと答えた場面について。
セッションの始めの段階で、深層の核となる部分をどう扱うかが直感で分かってしまう。だから深層に入ると細部に目がいき、それが手技にも影響する。そう書いている。
Jörg先生の助言は、クライアントから一歩離れ、表層セッションで行ったアプローチでより広い視野から身体を観察し、その感覚に応じて対処せよ、というものだった。細部から離れて全体を見よ、という指示である。
10年後、これに相当するものを方法として教わった。Rayにとっての在り方は身体軸、LINEの感覚であり、仙骨付近への集中を通じてクライアントの軸が浮かび上がるプロセスだった。細部を見るのではなく、軸を見る。それも、見ようとするのではなく、浮かび上がってくるのを待つ。
当時、弱点として指摘されたことに対する答えが、10年後に体系の中に用意されていた。指摘のほうが先にあり、答えは後から来ている。





