私自身、Phase IIIのトレーニングにおいて課題を持って取り組んでいるのが、スペースである。前述したように、Phase IIIのトレーニングではPhase IIで学んだことをベースに、2人のお客さん(クライアント)に対して10回のセッションをすることになる(「イントロと知識の整理」参照)。
その時に、自分が施術する側に100%集中してしまうと、相手に施術することで変化するためのスペース(時間や隙間といってもいい)がなくなってしまう。そのために心がけているのが、Less is More。それは、本コラムで触れたが(「body readingと情報の寡多」参照)、「どの部分を施術しないのか?」を意識することである。
例えば、セッション1「呼吸を調える」(「セッション1:呼吸を調える」参照)において、Phase IIではどの部分に施術を加えるのか?について様々な技術を学ぶ。情報量に圧倒されると、いざクライアントに対峙する時に「呼吸を調える」という目的を見失ってしまうことになる。最終的にテクニックに頼り、必要のない施術を行ってしまう可能性が出てしまう。
そのため、body readingを経て、今回最も必要とされているもののうちポイントを3つに絞る。Phase IIIで指導を受けている先生にそのポイントが正しいかどうかを確認した後、手をガイドとして、手を通じて身体とコミュニケーションをとり、目的に合わせて臨機応変に対応していくことを心がけるようにしている。
実際に、今回のPhase IIIでセッション2の施術を終えた時点で、ポイントを絞って施術する箇所を絞っていくと、クライアントが自分の身体内で変化することや、施術しなくても自分で変化をもたらすことがわかってきた。
なぜそれが可能となるのか?それについて以下触れていきたい。
私は「心をニュートラル」にすることが、人の話を聴く際に大事であると考えている。
その理由として、
- 相手には最小限の情報を与え、相手が答えを出すために考える時間と心のスペース(心の部屋)を用意すること
- 私自身の一つ一つの経験を手放して、相手に必要な最小限の情報(気づき)のみを与えること
につながることが挙げられる。
その結果として、相手にいろいろな質問を投げかけ、考える時間を与えることで、最終的に自分で答えが導き出される。
ロルフィングの施術を行うことは、これに似ているという印象がある。
私はロルフィングにおいても「心をニュートラル」にすることが大事だと思うが、ロルフィングではそれに相当するのは何か?
それは、自分の身体の使い方だと考える。すなわち、自分が受信しやすいように身体を調えるということ。そのためには、自分の癖を知ることが大事となる。例えば、
- 自分がどのような身体の使い方をするのか?
- どういった癖があるのか?
その際、Phase IIで学んだ身体感覚の調え方(トレーニングではEmbodimentというセッションで学んだ。そのことについては「Embodimentとは何か?」参照)が役立つ。それを通じて、下半身が地につき、上半身が自由に上に向くという2つの方向性ができ、自分の身体内が調う(Palintonicityについては「2方向性(Palintonicity)」参照)。
結果的に施術者は、最小限の力で最大限の効果が出てくるようになる。例えば、重力を味方にして、手に体重を乗せることで、最小限の力で最大限の効果を発揮しうる施術を行うことができるのだ。
不思議なのは、自分自身の身体を調えて、雑音がシャットアウトされた状態でクライアントと対峙すると、クライアントの身体がガイド役となって必要な情報が与えられ、まるで心に部屋が用意されたかのように情報が入ってくるようになること。Phase IIIのJörg先生は、「相手とのつながり」が意識できるようになると自ずと答えが出てくるよ、とそれを表現している。
Less is Moreやスペースを課題に取り組むことによって、今後Phase IIIでどのようなことを学ぶのか?また本コラムで発信していきたいと思う。
2026年8月の注記
この記事には「心をニュートラル」という言葉が出てくる。2015年2月の時点で、である。
ただし、それはロルフィングの用語として書かれていない。人の話を聴く際に大事なこと、として書かれている。相手には最小限の情報を与え、答えを出すために考える時間と心のスペースを用意する。自分自身の経験を手放し、必要な最小限の気づきだけを渡す。コーチングの文脈から持ち込まれた言葉である。
そのうえで、ロルフィングにおいてそれに相当するのは何かと自問し、自分の身体の使い方だと答えている。自分が受信しやすいように身体を調える。そのために自分の癖を知る。下半身が地につき、上半身が自由に上へ向かう2つの方向性ができると、身体の内側が調う。
10年後、アドバンスト・トレーニングの前半でNeutralが最大の主題になった。そして、それを育てる方法として示されたのは3つ——Shape the Hand、Finding Back Space、Haraに繋がること。いずれも身体の使い方である。心の状態を心で扱うのではなく、身体の側から整える。2015年に自分で書いていたことと、答えの形が同じだった。
用語の一致は偶然ではない。ロルフィングのNeutralも、コーチングで言われることも、施術者や聴き手が自分の側を空けておくという一点を指している。空いていなければ、相手の側で起きることのための場所がない。
この記事でもう一つ書いているのは、雑音をシャットアウトした状態でクライアントと対峙すると、クライアントの身体がガイド役となって必要な情報が入ってくる、ということだった。Jörgはそれを「相手とのつながりが意識できるようになると自ずと答えが出てくる」と表現した。
2025年のShape the Handの説明は、こうである。自分の手で何かをしようとするのではなく、クライアントの身体に自分の手を形作ってもらう。手を通じて身体の情報を受け取り、そこに寄り添う。
10年の間に変わったのは、言葉が与えられたことだった。2015年には「不思議なのは」と書いている。何が起きているのか説明できないまま、起きていることだけを記録している。2025年には、それがNeutralと呼ばれ、育て方の手順を持ち、Intention と Intentionality の区別を伴う概念として現れた。
現象が先にあり、名前が後から来る。この順序は、Phase IIIの記録全体に共通しているように思う。





