呼吸シリーズ第3回(全4回)
はじめに
今まで呼吸に関して2回、本コラムで触れた。呼吸のプロセスで吐ききったあと、脳幹の呼吸中枢から指令が脊髄へ伝えられる。そこで吸気に必要な筋肉が収縮することで、肋骨が拡大していくこと(「息を吐くのに力はいらない──呼吸と意識・無意識 」参照)、その際に横隔膜が重要な役割を果たすことを説明した(「横隔膜は頭蓋骨とつながっている──呼吸と内臓の配置」参照)。
今回は、身体(筋肉・骨)と重力との関係について触れたい。筋肉の機能は動きのみならず、姿勢の維持にも重要な役割を果たしている。呼吸を考える際には、姿勢の観点が重要なのでこのテーマについて取り上げたい。
伸筋と屈筋とは何か?
重力に対して姿勢を維持するためには、Extensors(伸筋:伸びる筋肉の意味)と呼ばれる脚と身体の後面の姿勢維持に関与する一群の筋肉と、Flexors(屈筋:曲がるという意味)と呼ばれる身体の前面の姿勢維持に関与する一群の筋肉が関わっている。Extensorsについては下記の図がわかりやすい。
これらの筋肉群が伸びていないと、骨格が前の方に崩れてしまう。Extensorで重要となるのは首と骨盤を結ぶ2つの筋肉群。
上図の左は、横突棘筋(Transversospinales muscles)で一番深層にある筋肉群。英語では、inner muscleやdeep postural muscleとも呼ばれている。上側の半棘筋(semispinalis)、中間の多裂筋(Multifidus)、下側の回旋筋(Rotatores)の各筋肉群からなっていて、腰椎横突起から頚椎棘突起までをつないでいる。横突棘筋は、背骨をまっすぐにして伸ばす役割を果たしている。
上図の右は、脊柱起立筋(Erector Spinae Muscle)であり、外側の筋群を腸肋筋(iliocostalis)、中間の内側の筋群を最長筋(longissimus)、最内側の筋群を棘筋(spinalis)と呼ぶ。脊柱起立筋は上半身の安定化に関わっている。例えば、物を持ったり、しゃがんだりするときに肋骨や背骨の前にある臓器が前へ下へと崩れ落ちるのを防いでくれている。
興味深いのは、頭蓋骨は、前方の方が後方よりも重いため、重力に伴って前方が下に動く。
頭蓋骨は常に前傾することになるが、結果的に上述のExtensorsは伸ばされることになる。しかしながらこれだけでは、肋骨が下がり、前面にある内臓が外に出てしまうリスクがある。そこでFlexorが登場する。
身体の前面は肋骨のみならず、内臓が集中している。肋骨が下がることを予防するのと、内臓の重さを支えるためにFlexorは働く。具体的には、骨盤から上の腹直筋(Abdominal rectus)、肋骨と頭蓋骨を結ぶ胸鎖乳突筋(Sternocleidomastoid muscle)、そして背骨の前に位置する、腰椎から骨盤を結ぶ腸腰筋である。
胸鎖乳突筋は肋骨から頭蓋骨の後を結ぶ筋肉で肋骨を上から支え、腸腰筋は腰椎や胸椎を伸ばすのに一定の役割を果たす。
以下まとめると、 ExtensorsとFlexorsは下記のようなバランスで重力と調和を図っている。
姿勢に与える影響
そして、姿勢を維持するこれらの筋肉群のうちどれかに問題が生じると呼吸に影響を及ぼすことになる。ロルフィングが呼吸に注目するのは、呼吸を指標に重力に身体がどのように対処しているのか?がわかるためである。この知識を念頭に吸気について考えていきたい。
吸気において、一つの大きな働きとして大切なのは肋骨を広げることである。肋骨を広げる際、解剖学の教科書では肋骨の外側に付着する外肋間筋(external intercostals)が肋骨を広げるのに主要な役割を果たす。そして頚椎(の横突起)(起始部)と肋骨(第1と第2)(付着部)に付着する斜角筋(Scalenes)は呼吸の補助筋として記されている。ロルフィングでは斜角筋の方に注目する。
斜角筋(位置によって前、中、後の3つに分けることができる)は、肋骨の上部及び胸郭の上部を引き上げることにより、最小限の筋力で肋骨を広げることができるTonic muscleの一つである(TonicとPhasicの違いについては「身体と心(2)〜Tonic Function(1)」「身体と心(3)〜Tonic Function(2)」参照)。
おそらく、斜角筋の役割についていろいろな議論があるのは、姿勢やどの骨のどこの付着部位から筋肉が動くのか(すなわちFixed point(支点))、によって変わってくるからだ。Extensorが働き、頭蓋骨の位置が適切だと、頭蓋骨が動くことなく、頭が斜角筋を引っ張る。その結果として、第1および第2の肋骨のみが引き上げられることになる。
姿勢が調っていないと(例えば、正常にExtensorが働いていない場合)、肋骨が斜角筋を引っ張ることで頭が前へ下へと押されることになる。結果として、Tonic muscleよりもPhasic muscleが使われるようになってくる。ロルフィングではこのような身体の状態で呼吸することをConcentric breathingと呼ぶ。Concentricとは、求心性(中央方向)という意味で方向を表す(下記の図では左側)。
ロルフィングの施術で身体を整える際に、目指すのは2方向性(Palintonicity)だ(詳細は「2方向性(Palintonicity)」参照)。この方向性をEccentricといい、Eccentric breathingと呼ぶ(上図の右側)。Eccentricとは、伸張性あるいは外向き。身体に2つの方向性に注目することで、Tonic muscleは調っていくと考えるためである。これらを調えるために、10回のセッションが組み立てられていると言ってもいい。
次回は、重力と呼吸の関係、そしてロルフィングにおける身体観察との関係について書きたいと思う。
参考文献
- Aline Newton; Breathing in the gravity field Fall 1997, Rolf Lines
- Theodore Dimon Jr; The Body in Motion: Its Evolution and Design
2026年8月の注記
この記事も2015年2月、Phase IIIトレーニング期間中に書いたものである。用語と内部リンクを整えた上で、4回シリーズとして再編集した。
呼吸シリーズ(全4回)
- 第1回:息を吐くのに力はいらない──呼吸と意識・無意識
- 第2回:横隔膜は頭蓋骨とつながっている──呼吸と内臓の配置
- 第3回:姿勢が崩れると呼吸が変わる──伸筋・屈筋と斜角筋(この記事)
- 第4回:吸気型の身体、呼気型の身体──重力から呼吸を見る










