【R#99】セラピスト(1)〜心の4レベル

本コラムで吉福伸逸氏の本を参考に2回、エサレン研究所を中心に心理学の文脈からボディワークについて書いてきた(【RolfingコラムVol.94】【RolfingコラムVol.95】参照)。今回は、吉福伸逸氏のセラピストとしての考えについて取り上げたい。1回目は、セラピストとしてどのようにして人を見たらいいのか?について書こうと思う。
吉福伸逸の言葉」によると、人を見る際に「こころの4つのレベル」を参照しながらセラピストの仕事をすると、考えが整理されるという。
吉福伸逸1
それは、

  1. Power of Becoming(関係性の力)
  2. Power of Being(存在の力)
  3. Power of Emotion(情緒・情動の力)
  4. Power of Brain(あたまの力)

上位であればあるほど重要度が増す。例えば、4番目の「あたまの力」は、3番目の「情緒・情動の力」が影響を与え、3番目の「情緒・情動の力」は、2番目の「存在の力」の影響がある。1番目の「関係性の力」は、2〜4番目の全体に影響を及ぼすという。
一つ一つ見てみよう。
4番目の「あたまの力」というのは、頭を使って考えるということ。その場合に威力を発揮するのは言葉を使って論理的に説明するということ。大切なのは、人は論理的に説明しているようで、相手がいかに悪いかを非難したいといった感情(気持ち)が先にあるケースが多く、自己正当化している可能性が大きいとのこと。面白いのは「あたまの力」は4つのレベルの中でもっと低い位置付けをしていることだ。
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要するに、あたまの力を使っている相手に対して、その人の感情の状態はどうなっているのか?を見ること。そこで、3番目の「感情」=「情緒・情動の力」が大切となる。
「情緒・情動の力」は、感情のこと。吉福氏は感情とは生命エネルギーであり、それ自体はニュートラルという。感情は、自我というフィルターを通すことによって「喜び」「怒り」といった色付けを行っているに過ぎないと考えているからだ。感情は一つであるため、一つの感情を抑えつけると、全体の感情が抑えつけられることにつながっていく。そのような状況だと情緒・情動の力が落ちるらしい。
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感情は、自由に表現されることが自然。フィルターを通さず、極力あるがままに受け止めることが感情にとっていいことになる。その際に、次に触れる2番目の「存在の力」が助けてくれる。
「存在の力」とは、簡単に言えばハラの据わり方、又は動じない心。存在の力の強さにより、自分や他人のどのような感情であれ、きちんと受け止められるようになる
興味深いのは、「存在の力」については、習って身につけるものでも、逆境や修羅場を乗り越えることで身につくものでもないらしい。修羅場や逆境を乗り越えたことで、逆にエゴが邪魔してくるからだ。
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そのため、人間の厚みを加えていくことような経験が大事になる。吉福氏は一番効果がある方法として、自分のアイデンティティーを明け渡す(吉福氏の言葉で言えば「アイデンティティーの破綻」)ことをいっている。
具体的に書くと、何もしないままキッパリと仕事を辞めるというのが、その力を養う一つの方法。明日からどう暮らしていけばいいのか、わからないけど仕事を辞める。そして次に移るまで時間をかけること。それによって存在の力がつくという。肩書きや自分を守ること、他者に弱みや悪口を言われることに対して動じなくなるからというのもある。が、状況に追い込まれてこれを行うのではなく、自覚的にこれを進んで行うことがミソで、捉え方が変わるんだそうだ。
ここで思い出すのが、日本の戦後経済を支えた様々な経営者を取材した、伊藤肇氏が「人間的魅力の研究」で出てくる一つのエピソード。
人間的魅力の研究
電力王と呼ばれた松永安左衛門氏に野村證券の社長に就任した当初の奥村綱雄氏が挨拶に伺ったところ、松永は、「人間は3つの節を通らねば一人前ではない。その一つは浪人、その一つは闘病、その一つは投獄だ。君はそのどれ一つも経験していない」と言われたそうだ。これもまさに「存在の力」を磨く方法だ。
最もレベルが高いのは、自分と他人との関係を見る「関係性の力」。これには、母、父、兄弟姉妹、同輩(同年代の人)、自然を含む社会との5つの関係が想定できる。興味深いのは吉福氏が、この関係性には健全な関係がないと極論している点。そして、健全な関係を築く場合には「別れ」をキーワードにあげている。要は、「別れるためには本格的な出会いをする必要がある」という。
具体的に言えば、親と子は、親子関係という形で出会っているが、子供は、母や父という役割を担った人間の側面としてしか見ていなく、一人の人間としては出会っていない。子供の目から父母を一人の人間として出会う。それが「本格的な出会い」の意味。それができるようになれば、これまでのような強い執着や拒絶から離れることができる。出会って別れるというこの方法は、自分の中の母親像や父親像と別れることにつながり、他のすべての人間関係、自然や社会とも応用することができる。
Finding new ways of boosting their success
私はタロットを見る際に、よく親との関係を見る。そして、親と一対一で会って「ありがとう」という言葉を通じて感謝したことがあるか。と聞く。この言葉は関係を一度終わらせる秘訣(私自身それを「卒業」という言葉を使う)で非常に効果のある言葉だ。
結果的に、「関係性の力」を磨くことで、他者との関係に振り回されず冷静に3つのレベル(あたまの力、情緒・情動の力、存在の力)を見れるようになる。
このように4つのレベルの状態をみることで自分がどの段階でニュートラルに保っているのか?そして各レベルのどの段階に課題を抱えているのか?この考えは、コーチングのみならずロルフィングにおいても重要な考えだと思う。
次に、セラピストの現場で経験する3つの要素について紹介したい。

この記事を書いた人

Hidefumi Otsuka