【R#366】「愛着は書き換えられる─“関係性の再体験”」(第3回)〜全5回・愛着理論との接点

はじめに

こんにちは。渋谷でロルフィング・セッションを提供している大塚英文です。

このブログの連載では、「愛着理論」と「身体のつながり」について、フェルトセンス、ポリヴェーガル理論、トラウマを手がかりに、ロルフィングの可能性を探っている。

第3回の今回は、Diane Poole Hellerによる愛着修復のアプローチ、DARE(Dynamic Attachment Re-patterning Experience)を紹介しながら、「関係性の再体験」がいかにして身体を通じて可能になるのかを見ていく。

※私はDAREの認定プラクティショナーではありません。DAREのアプローチにご興味を持っている方は、DAREプラクティショナーにお問い合わせください。個人的には、Hellerの著書 The Power of Attachment に深く影響を受けており、「愛着の再パターン化」に関する知見をロルフィングの実践に取り入れています。

愛着スタイルは変えられる:「記憶」と「関係性」の再構築

Diane Poole Hellerの考え方は明確だ。

「愛着スタイルは運命ではない。それは経験によって形成されたパターンであり、パターンは変化できる。」

そして、その変化を促すものをcorrective experience(修正的体験)と表現している。

Corrective Experienceとは?──“安全に再体験する”という癒し

Hellerが言うcorrective experienceとは、過去に傷ついた関係性のパターンを、安全で共感的な場面で“やり直す”体験のこと。

  • 否定された過去 → 今ここで受け入れられる体験
  • 支配された過去 → 今ここで選べる体験
  • 見捨てられた過去 → 今ここで共に在る体験

これらの「安心できる新しい関係性の体験」は、implicit memory(暗黙的記憶)の層に届くことで、反応の自動性を変えていく鍵となる。

Implicit MemoryとExplicit Memory

精神科医のDan Siegelの本に、2種類の記憶を説明している箇所がある。以下まとめると、

  • 🧠 Explicit memory(顕在的記憶):言葉で語れる記憶。物語として思い出せる。
  • 🧠 Implicit memory(暗黙的記憶):言葉にならないが、感覚・感情・身体反応として残る記憶。

“Implicit memory includes a range of processes such as emotional, behavioral, perceptual and possibly somatosensory memory. These forms are present at birth and involve circuitry that does not require focal attention for encoding nor does it include a sense of ‘I am recalling something’ when retrieval occurs.”
— Daniel J. Siegel, The Developing Mind
「暗黙的記憶には、感情的、行動的、知覚的、そしておそらく体性感覚的な記憶など、さまざまなプロセスが含まれます。これらの形態は出生時から存在し、記憶の符号化に集中した注意を必要とせず、想起時に『何かを思い出している』という感覚を伴いません。」

ロルフィングでは、まさにこのimplicit memoryの層にアクセスする可能性があると言える。

以下事例を挙げたい。

セッションからの一例:イメージと距離の調整で安心を取り戻す

あるクライアントは、心苦しい経験が胸に残っていて、セッションに集中できない状態で来られた。私は、「あなたにとっての味方を一人、思い浮かべてみましょう」と声をかけた。

「その味方をどこに置くと、いちばん安心できますか? 左側? 右側? それとも真正面?」

その方は「左側」と答え、そこにイメージを置いてもらった。同時に、心苦しい記憶をボールに見立て、それを2メートルほど離れた場所に置くというワークも行った。

十分な距離をとって安心を感じてもらった上で、少しずつそのボールを近づけていく。そのプロセスを通じて、呼吸が深まり、身体の感覚が穏やかになっていくのがわかった。

このような体験により、implicit memoryのレベルで「安心して関わることができる」という新しい記憶として身体に刻まれることが期待される。

ロルフィングは、関係性の“リハビリ空間”にもなる

ロルフィングは単なる身体操作ではなく、セラピストとクライアントの間に生まれる“信頼関係”そのものが癒しの場となる。

  • 中立的で共感的なタッチ
  • セラピストのプレゼンス(在り方)
  • クライアントのペースを尊重するセッション設計
  • 変化を一緒に観察し、身体で理解していく対話

こうした要素が重なることで、ロルフィングのセッションは「愛着の再教育」の空間になっていく。

まとめ:変わるのは“性格”ではなく、“身体に刻まれた反応パターン”

愛着スタイルは、「性格」ではなく、「学習された神経系のパターン」。

それは言葉ではなく、身体に刻まれた反応の記憶=暗黙的記憶(implicit memory)として存在します。

ロルフィングでは、その記憶に語りかけるように、触れ方・距離感・呼吸・構造を通じて、 「安心して人とつながることは可能だ」という新しい感覚を身体に届けていく。

Diane Poole Hellerはこう述べています:

“Being comfortable in your own skin and having tools that help you relax is a really big deal, but learning how to feel safe with others is revolutionary. When your nervous system can co-regulate with other people, and you feel safe and playful and relaxed, you can develop a stronger sense of secure attachment and enjoy its profound rewards, no matter what environment you grew up in.”
— The Power of Attachment
「自分の身体にくつろぎ、リラックスするためのツールを持っていることは、とても大切なことです。
しかし、他者と一緒にいて“安全”を感じられるようになること──これは革命的な変化です。
神経系が他者と共に調整され、安全で、遊び心があり、リラックスした感覚が生まれると、
安定した愛着感覚が強まり、たとえどんな家庭環境で育ったとしても、その深い恩恵を享受できるのです。」

ロルフィングが目指すのは、まさにこのような「身体の中に安全な他者との関係性を再構築する場」を提供することである。

次回予告

【第4回】「ロルフィングが支える“神経の安心”:自律神経と構造のつながり」

次回は、ポリヴェーガル理論をもとに、神経系の安心と身体構造の関係を掘り下げる。
ロルフィングがどのようにして自律神経系に働きかけ、過覚醒やフリーズ状態から回復をサポートできるのか、具体的にご紹介する。

どうぞお楽しみに。

この記事を書いた人

Hidefumi Otsuka