力が抜けない身体を、どう解くか〜ヨガに足りなかったもの

本記事は「力を抜くこと」シリーズ全3回の第1回である。本シリーズは、ロルフィングの基礎トレーニング(Basic Training)Phase IIの期間中に書かれた。

ロルフィングの全10回セッションの具体的な部分に入る前に、「力を抜くこと」(ここでは、余計な力を抜くという意味)とロルフィングの関係について触れたい。これは、なぜロルフィングがヨガの不足している部分を補ってくれるのか、という説明にもつながるからだ。

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ヨガの講習のときに学んだことだが、解剖学から見て「身体の力を抜く」(これは余計な力が入らない、といってもいい)には3つの方法があるとのこと。

一つ目は、力を入れることで力がある程度抜けること。

まず、力を抜くためには、どのようにしてそこに力が入っているのかを知ることが大事である。例えば、肩こりが起きている場合には、どの筋肉に力が入っているのか(肩こりの場合には僧帽筋なのだが)を知らなければ、どのように力を抜くのかわからない。だいたいの肩こりの人は、どうやってそこに力が入っているのかがわかっていないとのこと。そして、そこにもっと力を入れると、やがて緩めることができる。

二つ目は、筋肉の相反作用を利用すること。

実際に緩めようとする筋肉、例えばもも裏のハムストリングスを緩めようと思ったら、反対側の大腿四頭筋(もも正面の筋肉)に力を入れると、ハムストリングスが緩むように身体ができている。腕も、こぶの筋肉が縮んでいるときには、その裏の筋肉は緩んでいる。これを筋肉の相反作用という。

三つ目は、中心軸を意識すること。

人間が座ったり立ったりするときというのは、重力に逆らうことである。ということは、中心軸がしっかりと意識できていないと、身体に余計な力が入ってしまう。座っている場合には、頭のてっぺんから坐骨までがしっかりと軸となって背筋が伸びると、他の筋肉に力を入れる必要がないので、すっと力が抜ける。

そう考えると、力を抜くためには、ある程度筋肉や中心軸の意識が必要だということになる。バランスを崩すような体験を通して、試行錯誤で身についていくものといえる。

そして、力が抜けることで背筋も伸び、胸も開いていくことから、呼吸も深くなる。呼吸が深くなると、心が穏やかになり、リラックスへとつながる。

長時間座り、深く呼吸するためにはどうしたらいいのか。ヨガのポーズはその目的のために開発され、その中でも、どう力を入れ、抜いていくのかが重要となる。

しかしながら、力を抜くことに関しては、いくつかのヨガの指導者育成コースに参加しても、なかなかこれだといえる大きな理論に出会うことがなかった。そこで、力を抜くことに関して、西洋で発達したボディワークに目を向けるようになった。

まず初めに出会ったのが、アレクサンダー・テクニック。頭と脊柱の関係に注目することで、身体の不必要な自動的な反応に気づき、それをやめていくことを学習することで、力を抜くことを身体で覚えていく方法である。オーストラリア人の俳優フレデリック・マサイアス・アレクサンダー(Frederick Matthias Alexander)によって開発された。この方法に出会うことで、自分のヨガのポーズも劇的に取りやすくなった。そのプロセスで、偶然にもロルフィングに出会うことになる(「出会い〜ヨガのポーズを深めるため、様々な方法を試す中で発見した」参照)。

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ロルフィングはアイダ・ロルフ(Ida Rolf)によって開発された手法だが、アイダ・ロルフ、フレデリック・アレクサンダー、フェルデンクライス・メソッドを開発したモーシェ・フェルデンクライス(Moshe Feldenkrais)は、西洋ではボディワークの三大巨匠ともいわれ、同時代に生き、開発したボディワークの手法について相互に大きな影響を及ぼす仲だったらしい。現に、ロルフィングの研修中に、何度もフェルデンクライスとアレクサンダーの名前が出てくる。

Communication Skills

ロルフィングは、身体の構造の中で筋膜に働きかけ、重力からの影響により身体が調っていくという方法である。そして、ロルフィングの10回シリーズの、身体の表層の部分(1回〜3回)、身体の深層の部分(4回〜7回)、最終的な統合(8回〜10回)のプロセスを通じて、最終的に、不要な筋肉を使うことのない、力がある程度抜けた身体になっていく。身体の構造に働きかけ、専門家に施術を行ってもらうことにより身体が一層調うということは、私自身にとって大きな発見であった。実際に体験して効果があったと確信している(「セッションを受け終えて」参照)。肩こり、首こりは以前に増して改善していった。ミュンヘンにきて探究してみようと考える大きなきっかけとなった。

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これから本コラムでは、この観点、身体・心とロルフィングとの関係に注目しながら、どのようにしてロルフィングは身体に影響を及ぼし、心にどう働きかけるのかを含めて書いていく。

2026年8月の注記

この記事の後、「力を抜くこと」については2回書き足し、全3回のシリーズになった。

第1回(本記事)力を抜く3つの方法と、ヨガに足りなかったもの。

第2回「Articulationという言葉〜身体に空間を作るということ」。関節を意味するArticulationが、なぜJointではないのか。身体内に空間を作るという発想。

第3回「身体には6つのスペースがある〜重力とg・g’」。上下、前後、左右の6つのスペースと、重さの位置を見る指標。

第2回はセッション4以降の説明に入る前に、第3回はセッション8以降に入る前に書いている。10回シリーズを順に追う記事の合間に、区切りとして挟んだ形である。表層のセッションを終えた時点、深層のセッションを終えた時点で、それぞれ力を抜くことに立ち返っていたことになる。

以下は、この記事が挙げた3つの方法が、その後どうなったかである。

相反作用には、神経系の説明があった

この記事は、相反作用を経験則として書いている。ハムストリングスを緩めたければ大腿四頭筋に力を入れる。身体がそういうふうにできている、と。

その翌月、Hubert GodardのTonic Functionを学ぶことになる(「疲れる筋肉と、疲れない筋肉〜姿勢を支えるTonic Function」参照)。

そこで与えられたのが、なぜそうなるのかの説明だった。筋肉は、一時的に働くPhasicと持続的に働くTonicに分かれる。Phasicはα運動神経系に支配され、Tonicはγ運動神経系に支配される。そしてγ運動神経系の特徴は、拮抗筋を働かせることなく必要な筋肉のみを働かせることができる点にある。α運動神経系だと、拮抗筋が働き出してしまう。

この記事が書いた相反作用は、γ運動神経系の働きだった。

もう一つ、この記事には「試行錯誤で身についていくもの」という一節がある。翌月には、それが施術の対象になっていた。ロルフィングは、いかにしてγ運動神経系を活性化するかという観点から10回のセッションを組み立てている。自力で試行錯誤するのではなく、外から働きかけられる領域だったことになる。

中心軸は、4回分のセッションになった

3つ目の方法として、この記事は中心軸を挙げている。座っている場合には、頭のてっぺんから坐骨までがしっかりと軸となって背筋が伸びると、他の筋肉に力を入れる必要がない、と。

10回シリーズでは、この中心軸に4回が充てられる。セッション4が内転筋から骨盤底、5が大腰筋と横隔膜、6が背骨と仙骨、そして7が頭と顔である。

セッション7を受けたとき、中心軸は頭の頂上まであるので、ある意味これが中心軸の意識を取り戻す最終セッションだと書いた(「セッション7:頭・顔」参照)。

この記事が書いた「頭のてっぺんから坐骨まで」という範囲は、正確だった。ただし、そこへ至る道筋が4回分あることは、まだ知らなかった。

三大巨匠は、一つの表に収まった

この記事は、アイダ・ロルフ、フレデリック・アレクサンダー、モーシェ・フェルデンクライスを西洋ボディワークの三大巨匠として紹介し、同時代に生き、相互に大きな影響を及ぼす仲だったと書いている。

その翌月、Giovanni Felicioniから、この3人を含む対応関係を教わることになる。ロルフィングはstructure、フェルデンクライス・メソッドはcoordination、アレクサンダー・テクニックはperception、カウンセリングはmeaningに働きかけることによってTonic Functionを変えていく、という整理である。

歴史上の関係だったものが、理論の中での役割分担になった。

そして2025年のアドバンスト・トレーニングでは、この対応が Taxonomy(アプローチの種類・分類)として組み直されていた。構造的・セグメント的、バイオメカニカル、機能的、心理生物学的、エネルギー的。5つの分類のすべてが、ロルフィングの内側に置かれている(「Advanced Rolferの認定までの歩みについて【総括】」参照)。

2014年には、別の技法が別の領域を担当していた。11年後には、そのすべてが自分の扱う範囲になっている。

この記事が「相互に大きな影響を及ぼす仲」と書いた3人の仕事は、一つの分類体系の中に収まったことになる。

ヨガに足りなかったもの

この記事の主題は、なぜロルフィングがヨガの不足を補うのか、だった。理由として挙げているのは、大きな理論に出会えなかったこと、そして自分で行うのではなく専門家に施術を受けるという点である。

11年後の実践では、この2つが別の形になっている。

理論については、Tonic Functionという枠組みを得た。ただし、それは万能の理論ではなかった。2025年に学んだ Non-Formulaic という考え方は、手順や理論に固執せず、原理原則に基づいて個別に組み立てるものである。求めていた「これだ」という大きな理論は、最終的には与えられなかった。

施術を受けることについては、逆転が起きた。受ける側から、提供する側へ。

ただし、その両方が続いてもいる。ヨガの実践は20年以上続いており、ロルフィングのセッションを受けることも続けている。補い合うという関係は、どちらかがどちらかに置き換わることではなかった。

この記事を書いた人

Hidefumi Otsuka