ロルフィングのトレーニングでSensingとDoingという二つの言葉が対で説明されるケースが多い。どの時にSensing(クライアントの身体にどのような変化があるのか?施術中に知覚すること)し、どの時にDoing(身体観察をもとに施術を行う)をするのか?タイミング的にわからないことがあるからだ。
というのも、Sensingの結果としてDoing(施術)が変わってしまうことにより、Sensingに振り回されたり、逆にDoing(施術の技術)にこだわるあまり、Sensingが疎かになってしまう可能性があるからだ。また、身体観察とSensingが一致しないこともある。
私は、このバランスについてのヒントはコーチングにあると考えている。The Coaches Teaching Institute(CTI)主催のコ・アクティブ・コーチングは、2009年に学んだ。そこで出会った人を通じて、書道、茶道やタロット等の趣味に出会い、自分の人生に大きな影響を与えたこの講習。最初の基礎コース2.5日間が一番充実していた。
コーチングというのは、人の話を聞いて、その人のポテンシャルを上げるためにどうしたらいいのか?を考える一つの手段。その中で、DoingとBeingを分け、Beingにフォーカスする。
コーチングでは、DoingとBeingを以下のように考える。
- Doing=何をするか
- Being=自分がどうあるべきか
コーチングを行う際には技術(Doing)に目が行きがちだが、「どうあるか」の方が効果的にコーチングができると考える。「どうあるか」はいわば人間性。その人の性格や態度、価値観や信念などが含まれる。通常、人は人間性に対して「いい」「悪い」と判断しがち。コーチングではそれを等価と考え、その人を知る上で重要な手掛かりとみなす。
Beingにフォーカスすることで、コーチングを受けるクライアントが「見失った自分らしさをどう取り戻すか?」がポイントとなる。現に、コーチングを体験して感じたこととして、「どうあるか」に焦点を絞って、クライアントとコミュニケーションをとり、Beingに気づくことで、Doingに対する見方が大幅に変わって、その人らしさを取り戻す場面を何度かみることができた。
そのために、コーチである自分自身がどういった人間であるのか?を把握し、ニュートラル(中立的)な状態を保ち、自分を見失わないことが大切。
Beingと向き合うことにより、予想外の変化も起きるかもしれない。その時に臨機応変になること。まさに、Beingがロルフィングにおいて、Sensingであり、それを通じてクライアントとの対話を促すのだと思う。本ブログで触れてきた身体感覚もSensingの一部(「身体感覚〜Embodimentとは何か?」を参照)
もちろんロルフィングも技術(Doing)も大切だが、いかにしてBeing/Sensingを通じて掴んだ感覚と技術を両立させて、バランスを図っていくか?それが肝心。そのためには自分を知り、ニュートラルになることが時に必要になるのだと思う。これからも技術を学んでいくが、こういったBeingやSensingの観点も忘れずにロルフィングに接していければと考えている。
2026年8月の注記
この記事を書いた時点では、ロルフィングを学ぶ途中で行き詰まり、その解決の手がかりを外部——コーチング——に求めたつもりでいた。11年後に読み返すと、順序が逆だったことがわかる。
CTIのコ・アクティブ・コーチングを学んだのは2009年である。ロルフィングを受け始めたのが2013年12月、トレーニング開始が2014年8月。コーチングのほうが5年早い。しかも、CTIのクラスメイトを通じてタロットに出会い、2010年から個人セッションを始めている。ロルフィングは、コーチングとタロットの後に来た三番目の実践だった。
つまり、この記事は「ロルフィングにコーチングの考え方を借りてくる」というより、すでに自分の中にあった枠組みで新しい技術を理解しようとした記録である。
11年後の対応関係
2025年のアドバンスト・トレーニングで中心に置かれたのは、この記事に書いた3つの言葉——Being、Sensing、ニュートラル——そのものだった。
Ray McCallは、セッションの起点となる知覚には「安心・安全」を感じられる在り方(Being)が重要だと語った。田畑浩良さんは「肚(HARA)」の重心を通じて、適度な緊張が保たれた身体状態を目指すという。技術ではなく在り方が主題になっている(「Advanced Rolferの認定までの歩みについて【総括】〜認定までの道のり」参照)。
ニュートラルを養う3つのポイントも示された。手を成形すること(Shape the Hand)、背後の空間を感じること(Finding Back Space)、肚につながること。この記事に書いた「自分がどういった人間であるのかを把握し、ニュートラルな状態を保ち、自分を見失わない」というコーチングの前提が、身体的な技法として整理されていた。
SensingとDoingの悩みへの答え
この記事で書いたのは、Sensingに振り回されるか、DoingにこだわってSensingが疎かになるか、という二択の悩みだった。
Rayが示したのは、この二択を解消する枠組みだった。INTENTION(意図)とINTENTIONALITY(志向性)の区別である。意図は因果的な思考に基づき、プラクティショナーの理解を優位に置く。志向性は、意識が常に何かを指し示しているという前提のもと、クライアントとの関係性そのものを変化の場として捉える。
この転換により、治療は「直線的・段階的」なものから「非直線的・創発的」なものへ移行する。変化を起こすのではなく、変化が起こることを信頼する態度である。
Jeff Maitlandが示した4つの癒しの方法論のうち、第二のIndirect Approachも同じ地点を指している。重要なのは技法の選択そのものよりも、施術者の志向性が「変える」から「許す」へと転換することだという。
SensingとDoingは、どちらを優先するかという問題ではなかった。志向性が変われば、両者の関係そのものが変わる。
「その人らしさを取り戻す」
この記事には、コーチングの目的として「見失った自分らしさをどう取り戻すか」と書いてある。
11年後、Ray McCallはロルフィングの目的をこう語った。クライアントの身体とシステムをサポートして、その人自身の道を歩む手助けをすること。その人が本来の自分である状態を促すプロセスだ、と。
Maitlandのオーソトロピズム(orthotropism)という概念もこれに連なる。ひまわりが自然に太陽へ向かって伸びるように、人間の身体も重力と調和しながら上へと向かおうとする力を内に秘めている。ロルフィングの役割は、それを邪魔せず支えることにある。
整えるのではなく、整おうとする力に委ねる。コーチングで学んだ「その人らしさを取り戻す」という考え方が、身体の側から同じ結論に達していた。
予想外の変化と臨機応変
この記事の「Beingと向き合うことにより、予想外の変化も起きるかもしれない。その時に臨機応変になること」という一文も、後に定式化されることになる。
Rayが語ったのは、Letting(起きるに任せること)とMaking(関わって起こすこと)の2つのバランスを適切に取る「正しい行為(Right Action)」だった。そしてニュートラルを養うことで生まれる「プレゼンス(presence)」が、その判断を可能にする。
2014年に「バランスを図っていくか、それが肝心」と書いたことに、11年後、名前がついた。
コーチング8原則へ
その後、コーチングの実践は8つの原則として整理されている。沈黙を情報源とすること、肯定的意図を持ったニュートラル、脳・ハート・身体の三層観察、身体観察のツール、状態別の介入、直感を投げること、New DiscoveryとImprovementの区別、そして短所に見えるものの両面性。
このうち「直感を投げる」はCTIに由来する。そして「ニュートラル」は、この記事に書いた時点から一貫して中核にある。
ロルフィング、コーチング、タロット。異なる場で同じ原則が働いているという構造が見えてきたのは、ずっと後のことだった。この記事は、その構造に最初に触れた記録にあたる。




