日常生活の中で、習慣化された身体の動きは、無意識のうちに頭が作り出す「地図」のようなものがある。本コラムでもたびたび紹介した地図という考え方を一度整理して書く前に、身体の姿勢について考えてみたい。
そもそも
なぜ身体が姿勢をとることができるのだろうか?
- 例えば、自分の身体の足、膝、腰、肩、腕、手をなぜ人間は、しっかりと認識できるのか?
- 目を閉じても、鼻、口、目に触れることができるのはどういった理由からなのか?
考えてみれば非常に不思議だ。これは、人間には身体の中に地図(body map、身体地図)があるため、地図を頼りにどこになにがあるのか?が認識できるからだ(さらに詳細については、【RolfingコラムVol.74】参照)。
身体地図には2種類ある。
Sandra Blakesleeに「Body Has a Mind of Its Own(邦訳:脳の中の身体地図)」で使われることがを借りると、ボディスキーマ(Body Schema)とボディイメージ(Body Image)。
ボディスキーマは脳によって無意識に作られる身体地図だ。主に五感(視覚、聴覚、触覚等)、固有感覚(Proprioceptive)(固有感覚は、手足等の身体情報に基づいて制御される知覚、もしくは身体位置の知覚のことをいう(詳細は、鎌田孝美さんのブログ記事「ロルフムーブメントと身体地図」、本コラムの【RolfingコラムVol.74】参照)や平衡感覚(Vestibular)等により無意識に作られる地図。ボディスキーマは皮膚、関節や筋肉の感覚によって絶えず情報のアップデート化が行われて書き換えられている。
ロルフィングに限らず、太極拳やヨガを含めたボディワークはボディスキーマという無意識の地図(ボディスキーマ)に働かせている身体感覚を意識化させることにある。
【RolfingコラムVol.127】で取り上げたが、身体の神経系の働きには2つある。身体から脳へと伝わる情報と、脳から身体へと伝わる情報はそれぞれ、「情報収集」と「動きの指示」という二つの働きだ。筋肉はこれら二つの働きを担っていながら、同時進行することができない。力みが発生するのは、「動きの指示」による硬直。「情報収集」に専念させると力みが自ずと取れる。
ロルフィングでは、視覚(Visual system)、内耳感覚(Vestibular system)、筋感覚(kinesthetic system)の3つの「情報収集係」を活性化することによって、「情報収集」を優位にさせ、最終的に無意識に作られるボディスキーマを書き換えていく。
例をあげたい。
ロルフィングではPalpatoryやHapticという言葉で表現していき、足や手がしっかり動けるようになり、情報が受け取れる状態になることが大切と考え、足や手を指を含めて筋膜を伸ばすようにして活性化する。そのことで情報収集がしやすくなっていく。
もう一つのボディイメージは、身体によって意識的に知覚することで作られた身体地図だ。個人的な経験や態度、自分に対する期待や思い込みによって作られる。痩せているのに太っていると感じることは、一つのボディイメージである。
ボディイメージは、
自分がどのように身体を知覚するのか?
というPerception(世界観や知覚)に関わっているともいえる。心理的、知覚的な側面ともいうことができ、心理学が重要な役割を果たす。
2つの身体地図をまとめると、
ボディスキーマ=一つ目は脳が様々な外部情報を集めることで自動的(無意識的)に作られる身体地図。
ボディイメージ=育った環境、文化等の主観的なイメージによって作られる地図。
と考えることができる。
ロルフィングができることといえば、そのボディイメージに対して正面から向き合うのではなく、ニュートラルになること。そして、ロルフィングに出来ること、すなわちボディスキーマで無意識になっている身体地図を意識化。新たな選択肢(新たなパターン)を提示することによって身体地図を少しずつ書き換えていくことだ。そのことで、ボディイメージ(心理的、知覚的な側面)が変わることを期待するのだ(具体例については、【RolfingコラムVol.76】で取り上げた)。
まさにこれは、身体(無意識化されている身体地図)から心(意識化されている身体地図)へのアプローチ。ロルフィングを受けた人から世界観やものの見方がガラッと変わったというのは、地図の書き換えが実感できた瞬間だと思う。
ぜひ一人でも多くの方にロルフィングを通じて、心理的、知覚的な側面の変化が実感出来るよう手助けしていきたい。