【R#365】トラウマと愛着〜自律神経が示す身体の知恵(第2回)〜全5回・愛着理論との接点

はじめに

こんにちは。渋谷でロルフィング・セッションを提供している大塚英文です。

この連載では、「愛着」と「身体」のつながりをテーマに、ロルフィングの可能性をさまざまな視点から掘り下げている。

第2回の今回は、**Somatic Experiencing(ソマティック・エクスペリエンシング、以下SE)というアプローチから、トラウマと愛着の関係と、それが身体にどのように影響しているのかを探っていく。

※私はSEプラクティショナーではないので、SEについてご興味のある方は、SEのプラクティショナーからセッションを受けてください。私は、SEの原則についてロルフィングの基礎トレーニングで学びました。その視点は、現在のセッションに大きな影響を与えています。今回は、その視点から本記事をまとめています。

トラウマとは“出来事”ではなく、“反応”の問題である

多くの人が「トラウマ=過去のつらい出来事」だと思いがちですが、Peter Levineはこのように述べています。

“Trauma is not what happens to us, but what we hold inside in the absence of an empathetic witness.”
― Peter Levine, In an Unspoken Voice
「トラウマとは、出来事そのものではなく、共感的な証人がいないまま内側に抱え込まれた反応である。」

つまり、トラウマとは身体の中で“完了できなかった反応”が未処理のまま残っている状態なのです。 それが自律神経系に影響し、「現在」にも過去の脅威が繰り返されてしまう。

愛着トラウマと発達性トラウマ:違いと共通点

ロルフィングの現場で出会うクライアントの中には、以下のようなトラウマに影響されているケースが少なくない:

  • 🧸 発達性トラウマ(Developmental Trauma):乳幼児期の愛着関係の中で、安全・一貫性・つながりが欠如した状態が続くことによるもの。
  • 💥 ショックトラウマ(Shock Trauma):事故・手術・暴力・災害など、一度の強烈な出来事による反応の凍結。

特に発達性トラウマの場合、「人とつながること」「助けを求めること」「触れられること」そのものに恐怖や不信感が伴うことがある。

それは、前回お伝えした、ポリヴェーガル理論における「背側迷走神経優位(シャットダウン)」の状態と密接に関係している。

SEが大切にする“リソース”と“揺れ戻し”

SEでは、トラウマを「いきなり出す」のではなく、少しずつ、リソースと安全を確認しながら進めることを重視する。

  • 🌱 リソース(資源):安心できる人・物・記憶・身体感覚
  • 🔁 ペンデュレーション(揺れ戻し):安全・不安の間を振り子のように往復する
  • 🧘‍♀️ タイタレーション(少しずつ感じる):圧倒されないように微量ずつ触れる

“If you touch into the trauma vortex too strongly, the system will become overwhelmed. If you go too slowly, there is no change. You have to find the edge.”
― Peter Levine
「トラウマの渦に深く入りすぎれば、神経系は圧倒される。遅すぎても変化は起きない。重要なのは“エッジ”を見つけることだ。」

この考え方はロルフィング・セッションにも応用可能だ。

実際のセッションから:身体と感情を同時にほどいていく

あるクライアントは、セッション中に過去のトラウマについて語り始めた直後、急に胸と右側の頭部に痛みを感じたと伝えてくれた。

「この話をすると、ここが急に痛くなるんです」と不安げに胸とこめかみを押さえるその姿に、神経系の過覚醒反応が明確に現れていた。

私はすぐに、その場の安全感を再確認するために、“今安心できる物や感覚”に意識を向けるよう誘導した。

「この部屋の中で、落ち着けるものを見てみましょう。植物でも光でも、布でも大丈夫です。」 クライアントはゆっくり目を動かし、観葉植物に視線を落とした。

その上で、構造的には胸郭と頸部を中心としたロルフィングのワークを進め、呼吸と上半身の可動性を丁寧にサポートした。

しばらくすると、痛みはやわらぎ、呼吸が自然と深まり、身体全体が静かに落ち着いていきました。 「安心できる場所があるって、こういうことかもしれません」と、クライアントの表情も柔らかくなっていった。

ロルフィングの役割:構造から“安全な身体”をつくる

ロルフィングは、筋膜や構造の調整を通じて、神経系の安全性の感覚(neuroception)を回復させるサポートになる。

特に以下の点で、SEのアプローチと共通している:

  • 👣 グラウンディング(足・骨盤)を取り戻す
  • 🌬️ 呼吸の深さとリズムを支える胸郭のワーク
  • 🫱 中立的で共感的なタッチによる“安心の再体験”
  • 🧠 フェルトセンスを尊重し、過去ではなく“今ここ”に耳を傾ける

まとめ:未完了の反応に、今ここで出会うために

ロルフィングは、過去を無理に再体験させるものではなく、今この瞬間に「安心できる身体の基盤」を取り戻すことを大切にしている。

過去の出来事よりも、「それに対する身体の反応が、今なお続いている」ことに注意を向ける。 そのために、構造と感覚、タッチと呼吸のすべてを使って、クライアントが自分自身と再びつながるプロセスを支える。

次回予告

【第3回】「愛着は書き換えられる─“関係性の再体験”」

次回は、愛着と自律神経系に詳しいDiane Poole Hellerの考え方を紹介しながら、 愛着スタイルが変化しうるという神経生理学的な視点から、 ロルフィングにおける“関係性”と“距離感”の再パターン化について考察していく。

どうぞお楽しみに。

この記事を書いた人

Hidefumi Otsuka