1〜3回目で表層が解放されると、4回目から深層に入る。最初に扱うのは、身体が床に触れている場所だ。
4回目の位置づけ
4〜7回目は中心軸を扱う第2フェーズにあたる。その入口が4回目になる。
扱うのは、足の裏と坐骨という接触面から、内転筋を通って骨盤底へ向かう道だ。中心軸そのものに触れるのではなく、中心軸が通るための足場を作る回だといえる。
トレーニングでは、この回の主題をMedial Line、つまり中心の線と呼んでいた。床から中心へ、そして中心から床へ、力が行き来する線のことだ。1〜3回目で扱ってきた容れ物から、その中身へと移る回でもある。
なぜ内転筋と骨盤底なのかについては、別に書いた。上半身を通っている骨の中心軸が、下半身では消えてしまう。その代わりを、この2つの筋肉が担っている。
深層のセッションがどういう性質のものかは、別の記事にまとめている。
床に触れている場所から始める
なぜ骨盤底なのか。
骨盤底は、身体の中心にあって、上からの重さと下からの支えが出会う場所だ。ここが感じ取れないと、中心軸は宙に浮く。腸腰筋も仙骨も、骨盤底という底面があって初めて意味を持つ。
そして骨盤底には、直接触れられない。奥にあり、自分で動かすことも難しい。だから床との接触面から入る。足の裏と坐骨は、身体の中で床に触れている数少ない場所だ。そこから内転筋を通って、意識が骨盤底まで届いていく。
2回目で足裏を扱ったのは、この道の入口を作るためでもあった。
内転筋の緊張が、支えてきたもの
立ったときの重心が、両足の内側にあるか外側にあるかで、骨盤底の働き方が変わる。
外側に逃げていると、脚の外側で身体を支えることになり、骨盤底までの道が途切れる。内側に落ち込んでいる場合も、内転筋が縮んだまま骨盤底を引き下げていることがある。どちらも、その人がその時点で選べた支え方だ。
内転筋の緊張は、脚を閉じておく必要があった時期の名残であることも多い。座り方、身体の使い方、緊張の続いた時期。理由なく縮む筋肉はない。
この領域が意識に上りにくくなる経緯も、いくつかある。
内臓が張っていると、脚の外側で身体を支えることになりやすい。外側が働くぶん、内側の道は使われなくなる。
腹筋を鍛えている場合も同じことが起きる。腹部が硬いと、その内側にある内臓が動きにくくなる。動きが減ったぶんを、骨盤底が受け止めることになる。
深いところに緊張が残っている場合、腸腰筋が縮んだままになりやすい。腸腰筋は骨盤底とつながっているので、そこから先の感覚も届きにくくなる。
そして、座り方。脚を組んで座る時間が長いと、内転筋も骨盤底も出番がない。
4回目にすることは、その緊張を取り除くことではなく、緊張していなくても支えられる状態を作ることになる。
触れられ慣れていない場所
4回目が扱うのは、脚の内側から骨盤の底にかけての領域だ。
多くの人にとって、ここは触れられ慣れていない場所になる。存在を意識したことがない方もいるし、感覚として捉えたことがない方もいる。そういう場所に触れられることは、それ自体が体験になる。
だからこの回は、進め方が変わる。少しずつ入り、身体の反応を見ながら間を置く。自律神経が反応することもあるので、触れる速さそのものを変える必要がある。境界の問題が出てくることもある。安全な場が保たれていることが、他のどの回よりも要る。
そしてこの回では、いまプロセスのどの段階にいるのかを言葉で伝えることが多い。表層が終わって深層に入ったこと、これまでとは違う反応が起きうること。予告があるだけで、身体の受け取り方が変わる。
支えが増えると、古いパターンを手放せる可能性が生まれる。ただし手放すかどうかを決めるのは身体の側だ。施術者はその条件を整え、新しい支え方が働いていることを確かめていく。
セッションの冒頭で観ているもの
冒頭のBody Reading(立ち方や歩き方の観察)で見ているのは、次のような点だ。
- 立位で、両足の内側と外側のどちらに体重が乗っているか
- 膝の向きと、股関節の向きがそろっているか
- 坐骨で座れているか、それとも尾骨側に落ちているか
- 骨盤底の高さと、呼吸に伴う動き
- 内転筋の緊張が、骨盤底まで届いているか
坐骨に手を当てて座り直してもらうと、その場で変化が起きることが多い。骨盤底は、意識が届いた瞬間に反応する場所だ。
この回で、身体が受け取る情報
4回目にしていることを、内転筋を緩めた、骨盤底を扱った、と手技で説明すると、実際に起きていることから離れる。
受け取っているのは、下に支えがあるという情報だと考えている。足の裏と坐骨で床に触れており、そこから中心へ向かう道がある。この情報が届くと、上から力で持ち上げて姿勢を保っていた身体が、下から支えられる形へ組み替わりはじめる。
地に足がつく感覚は、その組み替えとして現れる。作ろうとして作れるものではない。
「自分の居場所」が変わる
4回目は、内的な変化が大きい回だといわれる。
床に触れている場所が感じ取れるようになると、自分がどこにいるのかという感覚が変わる。立っている場所が定まる、と表現される方もいる。身体の話をしているのに、居場所の話になっていく。
理由は説明しきれないが、報告される頻度は高い。呼吸や足裏の回とは、変化の質が違う。
動きの側にも出る。私自身、ヨガの後屈のポーズで腰に痛みが出て、それ以上深くできない時期があった。4回目のセッションを受けた後、一気に深まった。腰を反らせる力が増したわけではない。下から支えられるようになったぶん、腰で反る必要がなくなったのだと思う。
別の体系の言葉になるが、ヨガやインドの伝統では、この領域はルートチャクラの位置にあたるとされる。自分への信頼に関わる場所だという。ロルフィングの理論から出た考え方ではないので重ねることはしないが、指している方角は近いように思う。
何をもって、整ったとするか
骨盤底が緩んだかどうかを、それ自体では成果としない。
セッションの終わりに見ているのは、重力との関係のほうだ。床から返る力が、足の裏と坐骨を通って骨盤底まで上がってきているか。重力が身体を押し潰す力ではなく、下から支える資源として働いているか。
セッション後に起きること
- 立っているときの足の内側の支えがはっきりする
- 骨盤の底に床があるような感覚が生まれる
- 呼吸が骨盤まで届く
- 座ったときに坐骨で支えられる
- 自分の居場所が定まったような感覚が出てくる
次の回へ
床との接触面から中心へ向かう入口ができると、次は背骨の前側だ。5回目では、腸腰筋と内臓の動きを扱っていく。
- 5回目:内臓と腸腰筋を整える──背骨の前側
- 深層セッションとは何か──4〜7回目に起きること
- ロルフィングの10回セッションとは何か──身体が変わる3つのフェーズと各回の流れ
- ロルフィング用語集──10回セッションを読むために
トレーニングでこの回をどう学んだかは、こちらに書いている。
大塚英文(Ph.D.)|認定アドバンスト・ロルファー™/ロルフ・ムーブメント・プラクティショナー 東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(医学博士)。外資系製薬会社でメディカル・マーケティング業務に従事した後、2015年より渋谷でロルフィング®セッションを提供。「科学と実践の統合」をテーマに活動。
