なぜアドバンスト・ロルファーのセッションは「深い」のか──ロルファー認定から10年・3つの違い

はじめに

「10回を終えた。確かに変わった。でも、まだ何かある気がする」

ロルフィングの10回セッションを終えたクライアントから、こういう言葉を聞くことがある。身体が整い、動きが変わり、慢性的な痛みが和らいだ——それでも、身体の奥にある「届いていない層」を感じている。

その感覚は正しい。身体には、10回シリーズで整えた構造のさらに奥に、習慣・感情・無意識の緊張パターンが刻まれた層がある。アドバンスト・ロルファーのセッションは、その層に届くことを目的としている。

このGatewayでは、アドバンスト・ロルファーとは何か、ベーシックと何が違うのか、そしてセッションを受けるとどのような変化が起きるのかを解説する。

ロルフィングの2段階──ベーシックとアドバンストの違い

ロルファーには「ロルファー(Rolfer™)」と「アドバンスト・ロルファー(Advanced Rolfer™)」という2段階の認定がある。

ベーシックのロルファーは、約89日間のトレーニングを修了し、10回シリーズという体系的な枠組みの中で筋膜・重力・姿勢・動きへのアプローチを習得している。

アドバンスト・ロルファーは、ロルファー認定後に3〜5年以上の実践経験と継続トレーニング(18単位以上)を積んだ上で、さらに24日間のアドバンスト・トレーニング(AT)を修了した認定者だ。

しかしこの2つの違いは、単なる資格の差や経験年数の差ではない。セッションの「在り方(Being)」が根本的に異なる。その違いを生み出しているのが、ロルフィングの歴史の中で起きた「Formulaic(手順重視)からNon-Formulaic(個別対応)への転換」だ。

ロルファーになるまでの道筋——ベーシック・トレーニングから継続トレーニング・アドバンスト認定までの全体像を知りたい方は、別のGateway記事で詳しく解説している。

ロルファーになるには何が必要か──資格・認定団体・トレーニングの全体像

ロルフィング協会の歴史──なぜアドバンストは「違う」のか

アドバンストの本質を理解するには、ロルフィング協会の歴史を少し知る必要がある。

ロルフィング創始者Dr. Ida Rolfが1971年に設立した協会(現DIRI:Dr Ida Rolf Institute)では当初、10回シリーズもアドバンスト5回シリーズも「手順(Formulaic Series)」が決まっていた。決まった順番で、決まった部位に働きかける——これが初期のロルフィングだった。

1989年、協会は2つの流派に分裂した。手順を忠実に継承する流派と、Jeff MaitlandとJan Sultanを中心とした「Non-Formulaic」への転換を選んだ流派だ。

Sultanはこう述べた。「この手順に固執すると、クライアントに負担をかけすぎる可能性がある」。クライアント一人ひとりの身体は異なる。過去の怪我、感情のパターン、習慣的な緊張——これらはすべて違う。手順通りに進めることが、必ずしも「今この人に必要なこと」ではない。

こうしてMaitlandとSultanは「原理・原則(Principles)に基づき、個々に応じたセッションを組み立てる」Non-Formulaicスタイルへとロルフィングを進化させた。

私が受けたATの講師Ray McCallと田畑浩良氏は、このMaitland哲学の直接の継承者だ。アドバンストが「深い」のは、この哲学がセッションの土台にあるからだ。

Advanced Rolferの認定までの歩みについて【総括】
Ray McCallと田畑浩良さんの人柄に接して

違い①──Non-Formulaic(個別対応)

「あなたの身体」に応答する

ベーシックの10回シリーズには、全身を系統的に整えるための明確な枠組みがある。この枠組みは非常に重要で、多くのクライアントに共通する構造的な問題を解決するために設計されている。

アドバンストでは、この枠組みを深く理解した先にある問いに向き合う——「このクライアントには今何が必要か」。

セッションでよく起きる光景がある。クライアントが「肩が張る」と訴えている。しかしロルファーが身体全体を読んでいくと、問題の根本が肩ではなく、骨盤の非対称性や呼吸パターンの偏りにあることがわかる。手順通りに「肩にアプローチする」のではなく、根本にある構造的な原因から解きほぐしていく——これがNon-Formulaicだ。

型を超えるのは、型を極めた後

Non-Formulaicとは型を捨てることではない。10回シリーズの枠組みを骨の髄まで理解した上で、クライアントの身体が示すものに応答することだ。

「型を知らなければ型を超えられない」——これはロルフィングだけでなく、武道・音楽・あらゆる技芸に共通する原則だ。10年間のセッション経験と継続トレーニングを経て初めて、型を超えた応答が可能になる。

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違い②──Seeing(観察する力)

「見る」を超える

ATでMaitlandが最も強調したのが「Seeing(観察する力)」だ。

「単なる目視ではない。感覚器官全体を使って身体を聴くことだ」——Jeff Maitland(ロルファー・哲学者)

Maitlandが推奨するのはSomatic Sensorium(身体感覚の総動員)だ。視覚だけでなく、触覚・固有受容感覚・直観を含めた身体全体で受け取ることが「観察」だ。

「”Seeing with your own eyes”は誤解を生む。身体全体で受け取ることが観察だ」——Jeff Maitland

Pre-movementを読む

この「Seeing」が最も発揮されるのが、動作が始まる前の微細な変化——「Pre-movement(動作前の動き)」を読む場面だ。

「立つ姿勢から座ろうとする直前」、身体はすでに動き始めている。このとき身体のどこに力が入り、どこが解放されているか——その前兆に、無意識の緊張パターンが現れる。クライアント自身がまったく気づいていないパターンを、Seeingによって読み取る。

セッションの中でよく起きることがある。クライアントが「ここを動かしたい」と言うのに、実際にはまったく別の場所が固まっている。頭の中のイメージと、神経系が保持している実際の身体地図にズレがあるからだ。このズレに気づく体験そのものが、変容の入口になる。

「見る」を超える──ファンダメンタル・バイブレーション、正しい行為、中立性について
ロルフ・ムーブメントとは何か──動きの質を探究するボディワーク

違い③──在り方(Being)

「する」から「在る」へ

ATを通じて最も深く学んだのは、技術よりも「在り方(Being)」だった。

ロルファーであり哲学者でもあるJeff Maitlandはこう言っている。

「正しい行為は、”あるがまま”が立ち現れることを許したときに生まれる(Right action arises when we allow what is to show itself)」

「こうしなければならない」という意図でセッションを行うのではなく、クライアントの身体が「今必要としていること」に応答する——「する(Doing)」から「在る(Being)」への転換がアドバンストトレーニングの目指すものだ。

クライアントが感じる違い

受けた方がよく言う言葉がある。「何をされたかわからないけど変わった」「やってもらった感じではなく、自分の身体が変わっていく感じ」——これはロルファーの「在り方」が身体に届いているサインだ。

ロルファーが「変えようとする」意図を持つとき、クライアントの身体はその意図に反応して構えることがある。「在る(Being)」という姿勢でセッションが行われるとき、身体はより自然に、より深く、変化していく。

10年間のセッション経験を通じて私が最も実感していることが、この「在り方」の違いが変化の質と深さに直結するということだ。

セッションはどのように進むか

アドバンストのセッションも、基本の流れはロルフィングと同じ「観察→介入→再観察(Test → Intervene → Re-test)」だ。

セッションの冒頭、立ち方・歩き方・呼吸のパターンを観察する(Body Reading)。しかしアドバンストでのBody Readingは、構造の分析にとどまらない。動作の前兆・呼吸の微細な変化・緊張パターンの根本——Somatic Sensoriumを総動員して「身体が何を必要としているか」を聴く行為だ。

次に筋膜・動き・呼吸へのアプローチを行う。手順ではなく、その場でのNon-Formulaicな応答として。セッション後に再度立ち方・動きを確認する。変化を施術者だけでなくクライアント自身が感じることで、身体への気づきが育まれていく。

この「気づき」が積み重なることで、セッションが終わった後も変化が持続する。アドバンストのセッションが「変化が定着しやすい」と感じられる理由はここにある。

ロルフムーブメントとアドバンスト──どちらを選ぶか

「ロルフムーブメントとアドバンストのどちらを受ければいいですか?」——10回を終えた方からよく受ける質問だ。

ロルフムーブメントは「動きの学習」から入る。立つ・歩く・座るといった日常動作の中で、無意識の緊張パターンに自分で気づき、より自然な動きを再学習するプロセスだ。「身体の感覚を育てたい」「動きの質を上げたい」「身体を自分で変えていける力をつけたい」という方に向いている。

アドバンストは「構造のさらに深い層」から入る。10回で整えた身体の奥にある、繰り返されるパターンの根本に働きかける。「また同じ問題が戻ってきた」「10回では届かなかった層がある」「慢性的なパターンを根本から変えたい」という方に向いている。

迷ったときの判断軸

ロルフムーブメントが向いている:身体の感覚を自分で育てたい。日常の動きの質を変えたい。ヨガ・ダンス・武道などの実践の土台にしたい。「自分で気づき、自分で変わる」プロセスを求めている。

アドバンストが向いている:10回を終えたがまだ届いていない層がある。同じパターンが繰り返される。もっと深いところに触れてほしい。セッションを受けながら根本から変わりたい。

両方受けることもできる

2つは排他的ではない。アドバンストで深層の構造に働きかけ、ロルフムーブメントでその変化を動きの中に定着させる——この組み合わせが最も深い変化をもたらすことが多い。

ロルフ・ムーブメントとは何か──動きの質を探究するボディワーク

まだロルフィングを受けたことがない方・10回の効果を確認したい方は、こちらから始めることをお勧めする。

ロルフィングの10回セッションとは何か
ロルフィング体験記──どんな変化が起きるのか
ヨガとロルフィングの接点──身体が整うと、ヨガが変わる

誰に向いているか

ロルフィング10回を終えた方:10回で整えた身体の構造をさらに深化・定着させたい方に最適だ。「一度整ったのにまた崩れた」という繰り返しのパターンに届きたい方にも向いている。

慢性的なパターンが繰り返される方:同じ肩こり・腰痛・緊張が繰り返される。姿勢を意識しても続かない。「根本」に働きかけてほしい——そう感じている方。

ヨガ・ピラティス・ダンス・武道などの実践者:動きを職業や探究の対象にしている方が、動きの質を根本から理解し直す入口として。「やり方を学ぶ」のではなく「身体の感じ方が変わる」体験ができる。

「まだ何かある」と感じている方:10回を終えて確かに変わったのに、届いていない層がある——その感覚を持っている方。その感覚は正しい。アドバンストはその層に届くことを目的としている。

「わかっているのに変われない」を突破する3つのアプローチ

体験記

ロルフィング10回を終えた後にアドバンストのセッションを受けたクライアントから、こういう声をよく聞く。「10回のときと感覚がまったく違った」「身体の奥から変わっていく感じ」「何をされたかわからないけど、翌日から動きが違った」。

ロルフィング体験記一覧

アドバンストシリーズをさらに深く知る

アドバンスト・トレーニングの全プロセスを37本の記事で記録している。

ロルフィングをさらに深く知りたい方へ

認定アドバンスト・ロルファーとして

アドバンスト・ロルファーは、ロルファー全員が認定を持つわけではない。ロルファー認定後に継続トレーニングを積み、さらに24日間のアドバンスト・トレーニングを修了した認定者のみが名乗ることができる。

私は2025年7月、米国のRay McCallと日本の田畑浩良氏による市ヶ谷でのATを修了し、アドバンスト・ロルファーの認定を受けた。ロルファー認定(2016年・ERA欧州ロルフィング協会)から10年後のことだった。

ベーシック・トレーニング(89日間・ミュンヘン)、ロルフムーブメント・トレーニング(ERA・ミュンヘン)、筋膜・頭蓋・神経筋膜などの継続トレーニング、そしてアドバンスト・トレーニング——これらを合わせて、ロルフィングの学びがひと段落ついた形になった。ベーシック認定から現在まで、25人の講師の方から学ぶ機会を得た。

認定までの全プロセス——認定団体の違い・ベーシックから継続トレーニング・アドバンストまでの全体像——を詳しく知りたい方は、こちらの記事を参照してほしい。

ロルファーになるには何が必要か──資格・認定団体・トレーニングの全体像
資格・取得一覧


アドバンストのセッションは3〜5回のシリーズで提供している。まず体験セッションで、あなたの身体の現在地と方向性を確認することから始められます。

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大塚英文(Ph.D.)|認定アドバンスト・ロルファーTM/ロルフ・ムーブメント・プラクティショナー
東京大学大学院医学研究科博士課程修了。製薬業界を経て、2015年より渋谷でロルフィング®セッションを提供。2006年よりアシュタンガ・ヴィンヤーサ・ヨガを実践・指導。「思考・感情・身体の統合」をテーマに活動。