ロルフィング・トレーニングで様々な技術を学んでいるが、先生から時々、こう言われる。
人は『正しい』『間違い』で物事を捉えるが、自分にとって正しくても、クライアントにとって正しいとは限らない。だから、自分で考え、解釈をするのではなく、相手にスペースを与えて、相手にも考える時間を作り、相手に付き添うように施術を行うことが大事だよ
学校教育や親のしつけを通じて、
物事には正しい・間違いがあり、失敗を犯してはいけない
という単一の考えに毒されていた。そのことに気づかされる瞬間だった。ロルフィングは、数多くの試行錯誤を通じて学んでいくものだからである。
自分にとって正解であっても、相手にとって正解であるとは限らない。それぞれの基準で正しいと判断しているにすぎないし、一人ひとり身体が違う。人の多様性を受け入れるためには、人は様々な基準に基づいて判断しているということを理解することだと思う。
ロルフィングでは、施術する前に相手が持っていた古いパターン(old pattern、古い動きの習慣)と、施術後の新しいパターン(new pattern、施術の結果として生まれた新しい動きの習慣)という言葉を使う。ここで注意したいのは、古いパターンや新しいパターンがあるだけで、正しいパターン・間違ったパターンではないということ。
どちらかというと、選択肢が与えられたと考えるほうがいいかもしれない。

そして、古いパターンと新しいパターンの間でクライアントが迷う場合には、Negotiation(交渉)やRe-negotiation(再交渉)の余地があるという。あくまでも、セッションを積み重ねつつ、対話を通じてこれらのパターンを考えていく。
クラスでは、この古いパターンと新しいパターンの移行の際にどういった変化が起きるのか、時間を割いて身体感覚を掘り下げていく。興味深いのは、少しでも深層の部分で変化が起きると、自分の感情に動きが出てくるというケースが多いことである。そういったプロセス(process)を大事にしながら、新しい変化をどう受け入れていくかをクライアントと少しずつ考えていく。
考えてみれば、身体は自分一人で今のパターンになったわけではない。
親のしつけ、学校の教育、社会に出てからの社会人としての心構えなどを通じて、姿勢ができている
その古いパターンを深層から少しずつ変えるというのは、想像以上の変化をもたらすことになる。またその古いパターンの中に、本人が感じていない心的外傷(トラウマ)もあるかもしれない。
今後のトレーニングにおいても、正しい・間違いではなく、多様性を受け入れるようなマインドセットを意識しながら、学びのプロセスを深めていければと思う。
2026年8月の注記
この記事は、パターンという言葉で身体を捉えている。古いパターンと新しいパターンがあるだけで、正しい・間違いではない。この見方が、後年どこへ行き着いたかを二つの方向から書いておきたい。
古いパターンは、どう作られたのか
この記事には、次の一節がある。
「身体というのは、自分一人で今のパターンになったわけではない。親のしつけ、学校の教育、社会に出てからの社会人としての心構えなどを通じて姿勢ができている」
2018年1月、Rolf Movementの認定トレーニングPart 2で、Aline NewtonがTonic Functionについて時間をかけて説明した。姿勢を安定させるには持続的に働く筋肉の力(Tonus)が必要だが、その安定性は様々な因子の影響を受ける。Newtonが挙げたのは五つの視点だった(「Rolf Movement – Part 2(3)〜いい意味での混乱+Tonic Functionについて」参照)。
組織、知覚・認知、思考と言語、意味とシンボル、共同で動くこと。
このうち二つ目の知覚・認知が、この記事の記述にそのまま対応する。人間が成長していく上で身につけるもので、身体に習慣という形で取り込まれる。主に環境の脅威から自分を守るために取り入れられる、と説明された。
三つ目の思考と言語には、より具体的な例があった。「背筋を伸ばす」という一つの言葉を取っても、背骨を伸ばすのか、背骨に力を入れるのか、背骨が勝手に伸びるのか、人によって異なる経験として身体に定着している。しつけや教育が姿勢を作るというのは、こういう水準で起きていることになる。
2014年に書いたのは、観察から出てきた実感だった。4年後、それが五つの因子として整理され、身体を観察する枠組みとして与えられた。どこにアプローチしていったらいいのかが、この五つの視点で明確になっていく。
古いパターンには理由がある、という見方は、ここで技術になった。
スペースを与えることが、原則になる
この記事の冒頭に、先生の言葉が引かれている。
「自分で考え、解釈をするのではなく、相手にスペースを与えて、相手にも考える時間を作り、相手に付き添うように施術を行うことが大事だよ」
2025年のアドバンスト・トレーニングで、Ray McCallは二つの物事の捉え方を示した。INTENTION(意図)とINTENTIONALITY(志向性)である。
意図は因果的な思考に基づき、施術者の理解を優位とする。志向性は、意識が常に何かを指し示しているという前提のもと、クライアントとの関係性そのものを変化の場として捉える。この姿勢は、治療を直線的・段階的なものから、非直線的・創発的なものへ移行させる。変化を起こすのではなく、変化が起こることを信頼する態度が求められる(「Advanced Rolferの認定までの歩みについて【総括】〜認定までの道のり」参照)。
自分で考え、解釈をするのではなく、というのが意図の側であり、相手にスペースを与える、というのが志向性の側になる。11年前に受け取った言葉が、そのまま二つの概念の対比として説明されていた。
関わり方の呼び名も与えられた。Rayはそれを Kind Indifference(優しい無関心)と表現している。クライアントの体験に過剰に巻き込まれないこと。しかし同時に、深く関心をもって見守ること。付き添うように、というのは、この距離のことだった。
迷いを扱うということ
この記事は、古いパターンと新しいパターンの間でクライアントが迷う場合、Negotiation(交渉)やRe-negotiation(再交渉)の余地があると書いている。
当時は技術の名前として書き留めた。いま読み返すと、この語が前提にしていることが見える。迷いは解消すべき問題ではなく、扱う対象である。どちらを選ぶかは施術者が決めることではない。
2025年に学んだのは、それを支える前提だった。相手の身体は自己調整することができると信じること。施術者の役割は、変化が生まれる場を整え、信頼し、待つことにある。
新しいパターンが正しいわけではない、とこの記事は書いた。だからこそ、交渉の余地が要る。選択肢が二つあって初めて、選ぶのはクライアントだという構造が成り立つ。





