【R#353】スキルの交差点:CTIの5つのコアスキルとロルフィングの触れる技法(第6回)〜全7回・CTIコーチングとの比較

はじめに

東京・渋谷でロルフィング・セッションと脳科学から栄養・睡眠・マインドの脳活(脳科学活用)講座を提供している大塚英文です。

人が変化していくプロセスをどう支えるか?〜ロルフィングとコーチングから考える

ロルフィングとコーチング──一見、まったく異なる実践領域のように見える。 前者は身体を扱い、後者は言葉を扱う。しかし、その本質にあるのは共通の問いだ。

“人が変化していくプロセスを、どう支えるか?”

私は、CTI(The Coaches Institute)のCo-Active Coaching(以下コーチング)を2009年に学んだ。コーチングのスキルを追究して行く中で、ロルフィングに出会った。お互いに異なるように見える2つの手法。

いずれも共通しているのは「変容」という共通テーマに向き合っている点だ。今回、ロルフィングとコーチングについて以下の7つの視点から紐解いていくことにする。

  • 【第1回】ニュートラルとプレゼンス
  • 【第2回】4つのコーナーストーン
  • 【第3回】3つのPrinciplesとロルフィング10シリーズの対応
  • 【第4回】セッション間のプロセスの持ち方
  • 【第5回】関係性の質(Designed Alliance / Right Relationship)
  • 【第6回】スキルの比較(CTIの5スキルとロルフィングの技法)
  • 【第7回】総括

全体を通じて、「触れる」「問う」「聴く」「在る」という多面的に「変容」について考えていきたい。身体から働きかけるロルフィングと、言葉を通して深層に触れるコーチングを比較することで、人の変容とは何か、考えるきっかけになれると確信している。

スキルをどう使い分けるか?

言葉で問いかけるCTIのコーチング。身体に触れて働きかけるロルフィング。

技法は異なっていても、両者は「クライアントのBeingに深く関わる」という共通の本質を持っている。
第6回は、CTIの「5つのコア・コーチングスキル」と、ロルフィングの「触れる技法」を対応させながら比較し、
“関わり方の深さ”が変容をどう支えるかを探って行く。

CTIの「5つのコーチングスキル」とは?

『Co-Active Coaching(4th ed.)』では、以下のスキルが“Core Coaching Skills”として紹介されている(p. 53–80):

  1. Listening(傾聴)
  2. Intuition(直感)
  3. Curiosity(好奇心)
  4. Forward and Deepen(前進と深化)
  5. Self-Management(自己管理)

これらのスキルは単なるテクニックではなく、クライアントと共に「Being」の深さへ入っていくための“関わりの質”を示している。


Listening(傾聴)

CTI:耳で聴く/ロルフィング:手と身体で聴く

“Listening in Co-Active Coaching is about being fully present and tuned into the whole person—not just their words.”
— Co-Active Coaching, p. 54

ロルフィングでは、聴くという行為は「手で聴く」ことそのものだ。

“To touch well is to listen with your hands.”
— Embodied Being, p. 103

観点CTIロルフィング
メディア言葉・感情・沈黙触覚・筋膜・場の変化
聴く対象クライアントの全体性身体全体・構造の流れ
共通点プレゼンスと受容が前提共鳴と非操作性が前提

 具体例

  • CTIでは、クライアントが沈黙する瞬間に“何が起きているのか”を感じ取り、あえて言葉を発さずに待つ。
  • ロルフィングでは、呼吸の変化や微細な筋膜の反応を手で「聴き」、必要がなければ触れ続けるだけで介入する。

Intuition(直感)

CTI:ひらめきを信頼する/ロルフィング:瞬間に応答する

“Intuition is the ability to notice and name what is occurring in the moment—beyond logic.”
— Co-Active Coaching, p. 57

“The right action emerges spontaneously when presence and perception are clear.”
— Embodied Being, p. 122

観点CTIロルフィング
働く瞬間言葉を発する直前の感覚手を動かす直前の感覚
対象無意識・雰囲気・エネルギー構造・流れ・緊張感
共通点“Doing”ではなく、“Being”から起こる

具体例

  • CTIでは、ある話題でエネルギーが動いた瞬間に「今、何が起きてますか?」と問いかける。
  • ロルファーは、脚のアライメントに微妙な変化を感じ、「ここは今、手を引いて待つべきだ」と即座に判断する。

Curiosity(好奇心)

CTI:問いを通して深める/ロルフィング:触れ方で問いかける

“Curiosity invites discovery, learning, and insight.”
— Co-Active Coaching, p. 60

ロルフィングでは、触れ方そのもので「身体に問いかける」ことが実践されます。

観点CTIロルフィング
表現方法言葉による開かれた問いタッチによる探求と応答
ゴール自己の気づき身体の自己組織化
共通点「探る」ではなく「開く」姿勢が鍵

具体例

  • CTIでは、「もしその恐れが声を持っていたら、何と言ってますか?」などの問いを投げる。
  • ロルファーは、胸郭の組織に軽く圧を加え「この組織はどちらに動きたがっているか?」と探る。

Forward and Deepen(前進と深化)

CTI:変化のきっかけを引き出す/ロルフィング:動きと統合を生み出す

“Forward and Deepen is the skill of moving the conversation forward while deepening the client’s learning.”
— Co-Active Coaching, p. 63

ロルフィングでも、セッションは単なる構造調整ではなく、「変化が定着するように統合していくこと」が本質です。

観点CTIロルフィング
目的気づきを行動に落とす変化を身体の動きに統合する
技法リフレクション/問い/確認動作統合/座位や歩行での変容観察
共通点変化を“持続する体験”にすることが目的

具体例

  • CTIでは、「この気づきから、明日どんな一歩を踏み出せそうですか?」と前進を支える。
  • ロルファーは、立位や歩行を通じて「統合された動き」が起きているかを共に観察し、統合へ導く。

Self-Management(自己管理)

CTI:自己を整えた上で関係に集中する/ロルフィング:プレゼンスそのものが介入になる

“Self-management is the ability to notice your own internal reactions and set them aside to stay fully available to the client.”
— Co-Active Coaching, p. 65

“The most profound interventions are made not with the hands, but with presence.”
— Embodied Being, p. 145

観点CTIロルフィング
技術の土台内的反応の手放し重力と自分との整合
表現言葉の選び方・リズムタッチの在り方・非干渉性
共通点「自分に巻き込まれないことで、変化の器でいられる」こと

具体例

  • CTIでは、コーチ自身の不安や評価を手放し、沈黙に安心して居られる状態を保つ。
  • ロルファーは、自分の姿勢や呼吸を整えることで、身体から“押さず・導かず”共鳴の状態で触れる。

まとめ:言葉と触れ方、どちらも「Beingを支える技術」

スキル名CTIの特徴ロルフィングの対応共通する本質
Listeningクライアント全体を聴く身体と場全体を聴くプレゼンスと共鳴
Intuition今ここに気づく力今ここに触れる力非線形な知の信頼
Curiosity開かれた問い探るような触れ方自己組織化への敬意
Forward/Deepen気づきを行動に構造を動きに統合・定着
Self-Management巻き込まれない在り方中立・プレゼンスの体現「私」が場になる力

次回予告

第7回は、総まとめ。今までの連載をまとめる。

参考文献

  • Henry Kimsey-House et al. (2018). Co-Active Coaching: The Proven Framework for Transformative Conversations at Work and in Life (4th ed.). Nicholas Brealey.
  • Jeff Maitland (2017). Embodied Being: The Philosophy and Practice of Manual Therapy. North Atlantic Books.

この記事を書いた人

Hidefumi Otsuka