【R#44】身体と心(2)〜Tonic Function(1)

アイダ・ロルフ氏がロルフィングの10回シリーズを考えたときに科学的な理論というのがなく本人のヨガ、オステオパシー、アレキサンダーテクニック等を元に作られた。ロルフィングに科学的に裏付けを行ったのがHubert Godard氏だ。大学で教鞭をとっているフランス人のロルファーだ。
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重力に対してどのようにして筋肉が働くのか?そしてなぜロルフィングが効果があるのか?という疑問にもどついて追究していった結果、 Godard氏は重力の環境下で筋肉の質を維持するため(’Keep tone’ of the muscle)に身体内で何が起こっているのか?考えた。
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彼の考えは、Tonic Functionという説に結晶化される。Tonicというのは持続的という意味で、日本語に直訳すると持続的に働くということ。Godard氏は、重力に対して持続的に働く筋肉の機能に注目したのだ。そこで、筋肉には一時的に働くPhasicと持続的に働くTonicに分けた。
Phasic Muscleは一過性に働く筋肉で、スプリント、ウェイトリフティング、物を持ち上げるときなどに関わっている。努力して物を持ち上げる際に働き、ブドウ糖をエネルギー源にしている。このため疲労感が襲い、身体が疲れてくる。Phasic Muscleは、α運動神経系(alpha motor neuron)に支配されている。α運動神経系は、人間の脳によって働く神経系の一つであるため、脳が直接影響を及ぼすことができる。αは、運動神経系の2/3を占める。日々のストレスによって身体に緊張が襲う場合にもPhasic Muscleが中心となって働く。
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Tonic Muscleは、持続的に働く筋肉で、姿勢の維持に関わるといわれている。酸素をエネルギー源としているので、ゆっくりと持続的に働く。そのため、疲労感に襲われるということはあまりない。Tonic muscleの特徴は、筋紡錘(spindle)が多く持つこと。筋紡錘とは、筋肉のセンサーであり、筋肉の伸ぴ縮みを感知する感覚器官。普段ヨガや瞑想で「身体を意識する」というのは、筋紡錘のスイッチを入れると考えてもいい。重力によって筋紡錘は働くので、重力を意識しなくても筋紡錘の多いTonic Muscleが自動的に働くことができる。γ運動神経系(gamma motor neuron)によって支配を受ける。γは、運動神経系の1/3を占める。γ運動神経系の特徴は、小脳や延髄など習慣化された動きによって働き出すということである。

γ運動神経系のもう一つの特徴は、拮抗筋を働かせることなく必要な筋肉のみを働かせることができることである。以前、「【YogaコラムVol.9】「力を抜くこと」〜アレキサンダーテクニックとヨガ」で触れたが、筋肉には相反作用があることを記した。実際に緩めようとする筋肉、例えばもも裏のハムストリングスを緩めようと思ったら、反対側の 大腿四頭筋(もも正面の筋肉)に力を入れると、ハムストリングスが緩むように身体ができている。腕もこぶの筋肉が縮んでいるときには、その裏の筋肉は緩んでいる。これを筋肉の相反作用という(大腿四頭筋に対してハムストリングスは拮抗筋という)。α運動神経系だと拮抗筋が働き出してしまう。
また、γ運動神経系を活性化するためには、筋感覚を使えている状態も大事である。ロルフィングでは、Haptic/Papatoryとも呼ばれ、手、足、頭・顔を含めた外部感覚器官が外部情報をしっかりと受け取り、身体の内部に情報が伝えることができるかどうか?ということを意味する(「【RolfingコラムVol.31】姿勢の3要素〜視覚、内耳感覚、筋感覚」参照)。
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ロルフィングは如何にしてγ運動神経系を活性化して、身体内のエネルギーの効率の高いTonic muscleを最大限生かしていくか?になる。そのために10回のセッションが組み立てられているといっていい。そのためには施術者も身体を整えγ運動神経系が働いている必要がある。embodimentで身体感覚を研ぎ澄ませるのも(「【RolfingコラムVol.22】身体感覚とembodiment」参照)この神経系を活性化するためである。
考えてみれば、人間の身体の95%は外部環境の情報収集に当たる。残りの5%は筋肉の力を使っている。現在の世の中はα運動神経系が優位になっていることを考えると、ロルフィングのニーズは非常に大きいと感じる。
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Godard氏の考察の面白いところは、Tonic muscleを中心としたTonic functionは、structure(身体の姿勢や構成、重力等)、coordination(身体がどのようにして動くか)、perception(世の中をどのようにみるのか?)、meaning(どのように世の中に対して意味付けを行うのか?)の4つの要素によって影響を受けるということを考えたことである。そのように考えるとtonic functionは心と身体をつなげる考えになる

ロルフィングのトレーニングにおいてGiovanni先生は、ロルフィングはstructure、フェルデンクライスメソッドはcoordination、Alexander techniqueはperception、カウンセリングはmeaningに対してそれぞれ働きかけることによってtonic functionを変えていくと話していた。
Tonic Functionについては、ロルフィングにおいて重要な考えなので、何回かに分けて取り上げていきたいと思う。

この記事を書いた人

Hidefumi Otsuka