トラウマ Workshop – Lael Keen〜トラウマの考えをどのようにセッションに取り入れるのか?

2017年3月16日(木)、池尻大橋の大橋会館にて、日本ロルフィング協会(Japan Rolfing Association、JRA)の総会が開催され、昨年に続いて参加してきた。毎回楽しみなのは、総会に伴って行われる海外ロルファーによるワークショップである。

2016年に初参加した際には、アドバンスト・ロルファーのトレーニングのために来日した、Carol AgneessensとRay McCallの両先生だった(「日本ロルフィング協会総会に参加して〜ロルフィングの歴史を知る」参照)。

今年は、ブラジル在住の米国人、Lael Keen先生(以下、レイエル)を招いた1日ワークショップが、総会の前日にあたる2017年3月15日に開催された。

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ロルフィングのアドバンスト・インストラクター(ロルファーとして30年の経験)で、ソマティック・エクスペリエンシング(Somatic Experiencing、SE)のインストラクター(SEとして20年の経験)でもあるレイエルのテーマは、ロルフィングのセッションの中に、どのようにしてSEのトラウマへのアプローチを取り入れたらいいのか、というものだった。

SEは、Peter Levine博士によって開発された手法で、トラウマに身体的な方法からアプローチしていく。

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ロルフィングのトレーニングでは、課題図書としてPeter Levineの『Waking the Tiger – Healing the Trauma』(邦訳「心と身体をつなぐトラウマ・セラピー」)がリストアップされていた。トレーニング期間中に読んだのだが、トラウマの知識をどのようにロルフィング・セッションへ応用したらいいのかについては、学ぶことができなかった(「トラウマは出来事ではなく身体に残る〜深層のセッションで何が起きるのか」参照)。

同書によると、動物は敵に遭遇するとき、闘う(Fight)か逃げる(Flight)かの2つの手段を取るが、その2つを取ることができない場合に、凍りつく(Freeze)という第3の手段を取ることが知られている。

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トラウマは、心的外傷によって長いあいだそれに囚われた状態、または心理的に否定的な影響を持っている状態だと、SEでは見る。

普通、トラウマは、それが何によって引き起こされたかを探ることに焦点が当てられがちである。しかしLevineは、原因となる出来事が問題なのではなく、その結果として起きた身体内のショックのエネルギーが、中途半端な形で身体内に残ってしまうことによって引き起こされるのだと考えた。そして動物と同じように、エネルギーをすべて放出するというプロセスを経ることで初めてトラウマが解消することを、実際の治療を通じて示してきた。

Levineが強調しているのは、トラウマの解決は、その人の身体内で感じる身体感覚を呼び起こし、その観点を大事にすることにある、という点である。

レイエルによると、ロルフィング・セッションのうち50パーセントは通常の10回セッションを行ってうまくいくが、残りの50パーセントには何らかのトラウマへのアプローチが必要だという。施術を行ったとしても、手放すのを恐れているのか、それとも手放したくないのか、何らかの外部からのストレスによって身体の内部に変化が起き、そのような身体の状態になったからだという。

レイエルは、上記のLevineの考え方を踏襲しつつ、トラウマの出来事そのものに注目するのではなく、結果として神経系にどのような影響を与えたのか、という基礎的な考え方を説明した。

神経系を理解する際には、自律神経系(交感神経系=闘争と逃走、副交感神経系=休息と消化)に加えて、凍りつきに関わる、迷走神経によるSocial Engagement System(社会交流のしくみ)についても触れていった(「顔の表情が安心を作る〜ポリヴェーガル理論と2つの迷走神経」参照)。

ワークも豊富に取り入れ、ポジティブな経験談や、クライアントによるトラウマ体験のシェアも4人組で行なった。

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その後、トラウマの症状がDischargeとカタルシスという2つのカテゴリーからなることを紹介。Dischargeとは、紅潮、震え、発汗、涙など感情が高まった状態を指し、カタルシスは痙攣などである。エネルギーが中途半端に身体内に残ってしまっている場合には、Dischargeによって放出するのがよく、カタルシスになってしまうと、かえってDischargeできなくなるので注意を要するという。

大切なのは、ゆっくりと、身体を感じながら進めることだという。

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例えば、カタルシスに入っている人を扱う場合には、目を開けてもらい、声をかける。ここでSocial Engagementのスイッチが入る。そして立って、地面を感じる。場合によっては、部屋の中で美しいものは何かに注目させ、見てみることも役立つという。そのことで、最終的にカタルシスから脱却できるという。

他にも、2人1組でワークを行い、左と右に人がいる際にどのような変化が起こるのかを確かめながら、Hubert GodardによるSpace(空間)の概念を説明していった(Hubert GodardのTonic FunctionとSpaceについては「空間の感じ方は人によって違う〜Tonic Functionとパーソナル・スペース」参照)。

あっという間の1日のワークショップだった。合気道5段で、日本語も意外と理解できるレイエルのパーソナリティは素晴らしく、学ぶことが多かった。

2026年8月の注記

レイエルの来日は、このワークショップのためではなかった。日本でSEの研修を行うために来ていて、その機会に合わせて、この1日が組まれた。

前年も同じ形だった。Carol AgneessensとRay McCallは、アドバンスト・ロルファーのトレーニングのために来日し、その機会に総会のワークショップが開かれている。海外の講師が別の目的で日本に来る、その日程の隙間に、1日だけ触れられる場が生まれる。日本にいながら海外の系譜に触れる経路は、この頃、そういう形をしていた。

この日に紹介された語を並べてみると、後の8年がそこに入っている。Fight、Flight、Freeze。Dischargeとカタルシス。Social Engagement System。ゆっくりと、身体を感じながら。カタルシスに入った人には目を開けてもらい、声をかけ、立って地面を感じてもらう。

1日のワークショップである。入口の紹介として聞いている。

4年後の2021年2月から、ソマティック・エクスペリエンシングを自分で学び始めた。Ariel Girretto先生による初級が12日間。この記事に出てくる語が、そのまま主題として並んでいた。

ただ、初級を終えた段階で、中級以降は自分には必要ないと判断した。かなり専門的な内容に入っていくことが見えたためである。体系を最後まで積み上げる道は選ばなかった。

そのあと、思っていなかった形でこの領域に戻ることになる。ご縁をいただいて、Patricia Meadows先生によるDAREを16日間、Dave Berger先生によるMaster Classを5日間、通訳として入ることになった。訳しながら、内容を受け取っている。

訳すというのは、理解していなければできない仕事である。聞いて分かった気になることと、別の言語に置き換えることのあいだには、はっきりした差がある。訳せない箇所は、分かっていない箇所である。中級を受けずに止めたはずの領域を、結果として、最も逃げ場のない形で扱うことになった。

そして、位置が逆になっている。

2017年のこの日、レイエルの言葉は通訳を介して届いていた。日本語で受け取る側に自分がいた。5年後には、その場の反対側に立っている。同じ構造の部屋で、渡す側にいる。

Jonathan Martineのワークショップの回に、通訳が入ることでペースが遅くなり、それが自分には良かったと書いた。質問と練習に長い時間が取れたからである。訳す側に回ってみると、その遅さがどこから来ていたのかが分かる。訳している人間は、その時間のあいだ、二つの言語のあいだで内容を持ち続けている。受け取る側にとっての余白は、渡す側にとっての作業時間だった。

もう一つ、この記事に書かれていることで、当時は流して読んでいた箇所がある。

レイエルは最後に、2人1組のワークを通じて、Hubert GodardによるSpaceの概念を説明していた。ブラジル在住の米国人が、SEを教えながら、欧州系譜の概念を使っている。

この頃の自分は、系譜を地域で分けて考えていた。ヨーロッパは機能的な系統、ブラジルは心理生物学的な系統、というように。しかし実際には、一人の教師のなかで複数の系統が重なっている。レイエルはSEのインストラクターであり、アドバンスト・インストラクターであり、Godardの枠組みを使う。地域で分ける見方では、この人の位置を説明できない。

ついでに書いておくと、このワークショップの単位はElectiveに区分された。内容はトラウマと神経系で、分類でいえば心理生物学的な領域である。それでもElectiveになるのは、講師がERAの教員ではないからだった。同じ理由で、Sharon Wheelerの2つのワークショップもElectiveになっている。内容ではなく、講師の立場で枠が決まる。

枠の名前は、その人が何を教えたかを示していない。

この記事を書いた人

Hidefumi Otsuka