Phase IIIに入ってJörg先生から
ロルフィングの10回の各セッションのRecipe(手順、方法又はプロトコールという意味)を信じて進めれば物事はうまく進む
というアドバイスをいただくケースがある。Phase IIのトレーニングでは各セッションの方法(手順)について詳細に学んでいくのだが、実際にクライアントを受け持ち、クライアントと向き合うのは初めてとなる。
医師や整体師を含めた医療従事者を経てクライアントがロルファーへアプローチしていくケースが多く、どうしても腰痛、首こりや様々な痛みを訴える以上、そこに目が向きがちだ。そのため、せっかくロルフィングの10回セッションと手順があるにもかかわらず、痛みの部分に目が向いてしまい、自分を見失ってしまうことがある。
それに対してJörg先生は学んだ方法に従い、痛んでいる場所に焦点を合わせるのではなく、全体を通じてその場所に働きかけることで自ずとその痛みも引いていく。だからこそ10回シリーズの手順を信じて進むことが重要だと。
もちろん、急性の痛みである場合には医師に診断してもらうことは非常に大切なこと。しかし、何年に渡って痛みが続き、慢性化した場合には、局所の組織が動きを抑えているのではなく、身体全体から見た結合組織による筋肉の動きの問題と捉えた方が適切であるため、局所的にアプローチするのではなく、全体から見る必要がある。
そして、Jörg先生も言っているが、局所的に働きが不十分になり、ある一定の限界を超えると身体は、別の方法でそれを補うような身体の使い方を考えるようになるとのこと(英語では、Compensationと呼ぶ)。そのため、本コラムで分析的な目でみるのみならず知覚的とのバランスを考え全体的なアプローチが求められる(「Seeingと知覚すること(1)〜概念を持つと、見えるようになる」参照)。
ミュンヘン在住のロルファーの第一人者で、アドバンスト・ロルフィングのトレーニングも教えているPeter Schwindはそのことを以下のように述べている。
One characteristic of the connective tissue system is that, as a three-dimensional network, it allows for compensatory changes in all spatial directions. So the altered tone pattern of one leg can affect the pelvis and thus involve the back as well. However, this process can occur in reverse as well: a structural weakness in the back forces one leg or both legs into a compensatory movement pattern and thus causes a long-term change to the fascial network.
日本語による意訳:
人間の身体を構成する結合組織のシステムの特徴は、3次元のネットワークを構成しているということ。即ち、それは身体の軸のすべての方向に対してCompensatory(補うような作用)な変化をもたらす可能性があるといってもいい。一方の脚の筋肉の緊張度合いの変化は、骨盤や腰に影響を及ぼすこともある。しかしながら、このプロセスは逆に起きることがある。腰の構造的な弱さは、片方もしくは両方の脚にその弱さを補うような動き(Compensatoryな動き)をもたらし、長期的な筋膜の変化の要因ともなる。
長期的な筋膜の変化が起きている場合には、Ida Rolfが開発した10回のセッションは有用となる。そのために、上記のJörg先生が述べたように料理にも手順があるように、身体にも手順がありそれに従えば、身体はいい方向へと変化していくというのだ。
ぜひ、Phase IIIのトレーニングでクライアントと10回シリーズの手法(手順)を大事にすることで、その威力を感じていきたいと思う。
2026年8月の注記
Jörg先生の言葉が、この記事の中心にある。10回の各セッションのRecipeを信じて進めれば物事はうまく進む。
Phase IIで手順を詳細に学び、Phase IIIで初めて自分のクライアントと向き合う。相手は腰痛や首こりを訴えてくる。そこに目を向けたくなるが、痛む場所に焦点を合わせるのではなく、全体を通じてその場所に働きかければ、痛みは自ずと引いていく。だから手順を信じて進むこと。
この記事は、「開始前とMidterm paperの受理」の注記で立てた見立てをそのまま回収している。あの回で、Phase IIIで学んだのは手順を信じることと心を落ち着かせることだ、と書いた。その二つのうち一方が、六本後の記事のタイトルになっている。当時は連続する日々の記録として書いていたので、そういう構造になっているとは思っていない。
さて、この記事にはもう一人の名前が出てくる。Peter Schwindである。
結合組織は三次元のネットワークであり、あらゆる方向に補償的な変化を許す。一方の脚の緊張の変化が骨盤や腰に及び、逆に腰の構造的な弱さが脚に補償的な動きを強いて、長期的な筋膜の変化を招く。そういう趣旨の文章を引いている。全体から見る必要があるという論旨の裏づけとして置かれている。
引用した時点では、この人が誰なのかを深く考えていない。ミュンヘン在住のロルファーの第一人者で、アドバンスト・ロルフィングのトレーニングも教えている、という以上の関心はなかった。
11年経つと、この引用の位置が違って見える。
Peter Schwind の背景には、オステオパシーとJean-Pierre Barral の内臓マニピュレーションがある。焦点は治すこと、成果を出すことに置かれている。
実際、当初はこの人からアドバンスト・トレーニングを受ける予定でいた。2017年7月にワークショップを受けている。
その予定を取りやめている。アプローチに違和感があったからだ。治すこと、成果を出すことに焦点が置かれる。技術としての精度は高い。ただ、自分が向かおうとしている方向とは違うと感じた。
結果として、アドバンスト・トレーニングを受けたのは2025年、Ray McCall と田畑浩良の両氏からだった。Jeff Maitland の哲学を支柱とする系譜である。変化を起こすのではなく、変化が起こることを信頼する。Kind Indifference、Letting と Making、Orthotropism。焦点は治すことではなく、癒しが起こる場を保つことに置かれる。
アドバンストへの入口は二つあった。2015年2月にこの人を引用した時点では、そのことを知らない。10年後に振り返ると、この引用は、いったん進みかけて引き返した道の入口に置かれている。
どちらが正しいという話ではない。同じロルフィングの枠内で、治すことに焦点を合わせる立場と、起こることを待つ立場が併存している。違和感を持てたのは、両方に触れる機会があったからだ。
最後に、Jörgの言葉に戻る。
手順を信じれば物事はうまく進む。この言葉は、どちらの立場にも接続できる。手順に従えば結果が出るという読み方もできるし、手順に委ねて自分の判断を前に出さないという読み方もできる。実際、Jörg は後者の意味で言っていた。痛みに目を向けたくなる自分を手順で押しとどめる、という話だったからだ。
10年後、その押しとどめる働きに Neutral という名前がついた。手順ではなく、施術者の身体の状態として定義された。手順を信じることから、手順を外しても揺れない状態を作ることへ。同じ問題が、別の場所で解かれている。



