【R#213】IMAC(9)〜脊柱・内臓編〜発生学をベースとした脊柱・内臓の見方を学ぶ〜

2020年11月7日(土)。午前6時20分羽田空港発、午前7時30分伊丹空港着のANA便で大阪へ。

TEN〜the space for your Life & Body主宰のロルファー・佐藤博紀さん(以下ヒロさん)が拠点する大阪・北浜へ、1泊2日の短期滞在となった。

今回、参加するセミナーはIMAC(Integrative Movement Assessment & Conditioning)。
IMACは、ヒロさんが開発した独自のメソッドで、ヒロさんが新たにOPENしたIMACのHPに詳しい。ご興味がありましたら「ABOUT IMAC」をチェックください!

ロルフィングの基礎トレーニング(詳しくは「ヨーロッパのロルファーとしての認定までの歩みについて〜ヨーロッパ・ロルフィング協会・認定トレーニング」参照)では、身体感覚を養う教育が重視される。なぜならば、自分の身体感覚が養えれば、相手の身体の変化が理解できるようになるからだ。

実際、開業してから、最初の1〜2年はセッションの方法や手技を再現していくと、身体感覚が磨かれていくことが実感できた。
一方で、セッションの経験を積むことで、身体の変化を評価する解剖学を含めた知識も必要であることがわかってきた。というのも、身体感覚を科学的な知識(解剖学、生理学、生化学)の言葉で表現できなければ、クライアントさんに説明するのが難しくなるからだ。

その中で、ヒロさんが開発したIMACは、関節・筋肉の可動域を評価をし、内臓、神経、経絡、筋肉の状態を東洋医学の視点から見ているのが面白い。
内臓と筋肉〜筋肉の働きが内臓にどう影響するのか?」に書いたように、2018年からIMACをセッションに取り入れることで、ロルフィングのセッションを行っていく上で施術前と施術後のBEFORE/AFTERの評価がしやすくなった。

IMACは、基礎コース(Basic Courses)と上級編( Advanced Courses)の2つに分かれており、すでに基礎コースの方は受講済(「イントロ編」、「上肢編」、「下肢編」「東京でEROM〜基礎的な可動域の評価の仕方について学ぶ」「下肢編〜解剖学と東洋の経絡の接点:可動域から何がわかるのか?」「上肢編〜可動域と経絡:内臓の状態、自律神経を含めた整え方について学ぶ」参照)。
今回は上級編の「脊柱・内臓編」「頭頸部編」「統合編」のうちの「脊柱・内臓編」を受講した。

内臓と胸椎・腰椎・仙骨周辺の施術の方法を参加者6名と共に学んだが、メンバーが少数精鋭だったため、ヒロさんの話もいい意味で、脱線が多く、楽しかった。
解剖学の図を示しながら、胸椎、腰椎、仙骨の位置を紹介しつつ、内臓については、相が大事。表層なのか?深層なのか?そして腹腔内、胸腔内に内臓がどのように収まっているのか?内臓同士がどのように接しているのか?等をわかりやすく説明いただいた。
特に面白かったのが、発生学の話。
ヒロさんは、発生学を見ていくためには、化学的(細胞生物学、分子生物学)と物理学的(Biokinetic、Biodynamic)の2つのアプローチがあることを説明してくれた。
前者は、人間の設計図である遺伝子がどのようにして、身体を作っていくのか?を解明していくアプローチ。身体を全体的に見るのではなく、臓器を一つの機械のパーツと見立て、各パーツがどのように作られていくのか、遺伝子によって作られる蛋白質(化学物質)を使って説明する。
私も、西洋医学に関わる期間が長かったので、こちらの説の方が馴染み深いし、関連本も多く出ている。

例えば、’Jamie Davies – How the Human Body Creates Itself‘ (邦訳「人体はこうしてつくられる:1つの細胞から始まった私たち」)には、
受精卵から始まり、胎児を経て一つの個体になるまで、どのように身体が変化していくのか、化学的にわかりやすく説明している。
ここでは、人間の身体を
1)大きな枠組みが作られる
2)細部を作り上げる
3)総仕上げとメンテナンス
の3段階からなることを取り上げている。

1)では、受精卵から細胞が増えていく仕組みは何か?から説明が入り、原腸→神経管→体節の順でどのように作られるのか?大枠を説明している。それぞれの過程で科学の知識は最小限にしているところ、たとえ話が入っているのがいい。
2)では、細胞同士のコミュニケーション、細胞が動く(→遊走)ことを通じて、どのように心臓を含めた内臓が作られるのか?生殖器や四肢の作り方等について語っている。個人的には、神経堤細胞(Neural Crest Cell)がどのようにして神経管から移動して、様々な細胞を作るのか?についての説明が面白かった。
3)では、細胞死、脳の形成、骨と身体の大きさを決める機構、免疫系等が取り上げられているが、新生児以降にどのように身体がメンテナンスされているのか、についての説明もあった。

このような見方は、山科正平さんの「カラー図解・人体の誕生・からだはこうして作られる」と合わせて読むと理解が深まる。
この本では、西洋医学でわかっている現状について書いているが、東洋医学や、身体を全体で見た時にどうお互いが関係しているのか、について書かれていない。
東洋医学の視点で言えば、’Daniel Keown – The Spark in the Machine‘(邦訳:「閃めく経路:現代医学のミステリーに鍼灸のサイエンスが挑む」)は西洋医学から見た東洋医学について語られていて面白い。

この本は、細胞同士をまとめ上げる力を「氣」と表現。ツボは、胚発生の初期において中心的な役割を担うオーガナイザー領域にもっとも多く分布していること。経絡は、これらのツボの点を結びつける筋膜状にある脈(チャネル)であること。チャネルに流れるのは、電気、モルフォゲン、ホルモン等という形で説明している。
経路を理解していく上で大事なのは、臓器。中医学の臓器にはそれぞれ個性をもち、これらの個性はどのようなホルモンを使っているか?によって決まっていることを伝えている。
後者の物理学的な見方は、実は、現代医療では少数派。私もロルフィングのセッションを提供するようになってから、こちらの方が理論の方が一理あるのではないか?、と考えるようになった。

「脊柱・内臓編」では、ヒロさんから、ドイツ人の解剖学者Erich Blechschmidt先生の説の紹介があった「Blechschmidt: The Ontogenetic Basis of Human Anatomy: A Biodynamic Approach to Development from Conception to Birth」(未邦訳)。
Blechschmidtの本は、ドイツ語で書かれているものが多く、英語に翻訳されているのも限られる。厄介なのは、英語の解剖学や発生学の単語が難しく、学術の世界に長くいた私でも、読むのに苦労させられる本だ。
受精卵から、一つの個体になるためには、胎児の身体内に置かれている環境を理解することが不可欠で、身体が大きくなっていく過程で、脳、心臓、肝臓、腎臓、胃、小腸、大腸がそれぞれ納まるべき場所に納まっていくと考える。

例えば、発生学的に見ると、受精後、身体の原型となる内胚葉、中胚葉、外胚葉の3つに分かれ、内胚葉から、消化器系、呼吸器系等、中胚葉から骨格系、筋肉系、循環器系、泌尿生殖系、外胚葉から皮膚、神経系、感覚器系ができてくる。
中胚葉から血管ができるが、血管は栄養供給する役割を担い、初期の頃にできる。興味深いのは、外胚葉は、外側に向かって身体を作り上げていくので拡大していく方向で力が働く。一方で、身体の内側にとどまる内胚葉は空間が狭いので、動きが鈍い。
そこで、中胚葉から栄養の大部分は、外胚葉が奪い、脳や皮膚のベースとなるものが作られていく。
内胚葉で臓器ができるが、狭いスペースの中で動くので、内臓の中で大きな臓器である肝臓を囲むように胃、膵臓、脾臓の位置が決まっていく。

こちらは、身体の中で各臓器を機械のパーツとして見るよりも、関係性で見ていくので、全く違った前提で身体を見ているのが面白い。
今までは違った見方を学ぶことで、自分の視野が広まったと思う。
今回、
1)身体内の環境によって内臓の位置が決まる
2)内臓は絶えず動いており、動きの方向性がある
といったことをテクニックを学ぶことで深まったと思う。そして、それが健康につながるという考え方が理解できるようになると、施術の内容が深まっていくのではないかと実感できた。

今回、幸運だったのは、GO TO TRAVELで、飛行機・宿泊の手配で、新幹線の往復よりも安価(宿泊込で22,000円)で、かつGO TOのクーポンが5,000円分使えたことだ。
次回のIMACの「頭頸部編」(2020年11月28日〜29日)に参加する際も、その恩恵を受ける予定なので、セミナー内容を含め、楽しみにしていたい。
コロナ禍で参加者が少数だったにもかかわらず、IMACの脊柱・内臓編を開催していただいたヒロさん、参加者の皆さんに今回も多大なサポートをいただいた。改めて感謝申し上げたい。

この記事を書いた人

Hidefumi Otsuka